2015年2月に、東京・清澄白河に1号店を出店、現在は都内で6店舗を運営するブルーボトルコーヒー。コーヒー豆を自社で焙煎し、1杯ずつハンドドリップで入れる、いわゆる「サードウェーブ」のコーヒーショップとして知られ、人気を博してきた。しかし、このブルーボトルが、先進技術を積極的に取り入れる“テクノロジー企業”であることは、意外と知られていない。

ブルーボトルコーヒーの店舗。写真は中目黒店
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 ブルーボトルでは、コーヒーの生豆を仕入れ、自社の焙煎拠点で焙煎(ロースト)、配合(ブレンド)し、各店舗に運んで粉砕(グラインド)。バリスタが抽出(ドリップ)して客に提供する。ただ、ブルーボトルはいまや米国と日本で29店舗を展開している。鮮度の変化に伴って刻々と変わるコーヒー豆から、複数いるバリスタたちが同じ味を抽出するのは難しい。ブルーボトルコーヒーとして、全店舗で味の差がないコーヒーを提供するにはどうするか。そこには、こだわりの技術が導入されていた。

フラットベッドの新形状で、開発者からはレポート60枚

 同社が2016年12月に採用したのが、コーヒーを抽出するときに使うドリッパーの新開発品。開発元は、米マサチューセッツ工科大学(MIT)卒の3人の技術者だというから驚きだ。コーヒー好きの彼らが本業のかたわら立ち上げた米BLOSSOM COFFEE社が、ち密な計算に基づいて新型ドリッパーを設計した。構想に5年、研究開発に1年、70個以上のプロトタイプを経て完成したという。

 新型ドリッパーは底が円形の平面になっているのが特徴だ。注いだ湯がコーヒー豆に均等に行きわたり、かつ湯の抜けが早く、乱流が起きにくい形状だという。「湯がたまってしまうと、コーヒーにエグ味が出るなど、仕上がりに悪影響がある」(バリスタの藤岡響氏)。バリスタはハンドドリップの技術でこれを防ぐわけだが、当然ながら技術には個人差がある。新型ドリッパーの工夫でその差を最小限に抑え、誰が入れても均質な味を実現しようというわけだ。

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ブルーボトルコーヒーが使用するドリッパー。左が新型、右が従来から使っていたもの。比較すると左は底が円形の平面になっていることが分かる。新型ドリッパーは店舗やオンラインショップで販売もしている。価格は2300円

 コーヒーを通す穴の円径は1/10mm単位で計算し、4.5mmとした。これも湯をスムーズに通すのに最適なサイズという。側面につけるミゾの数は40本に、ミゾの高さは水1滴分より少し高く設計されている。細い管の間を液体が通る際に起こる毛細管現象を利用し、ドリッパーの湯を素早く行き渡らせるために、最適な高さを探った結果、この高さになったという。

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バリスタの藤岡響氏が湯を注ぐ。少しすると、ドリッパーの底の穴からコーヒーが真っすぐに落ちてきた

 ちなみに、採用が決まった後、ブルーボトルで「広報資料に引用できそうなコメントを依頼したところ、60ページにもわたるレポートが送られてきて途方に暮れた」(ブルーボトルコーヒージャパン最高責任者の井川沙紀氏)そうで、こんなところからも開発者のエンジニア気質がうかがえる。

 MIT出身の研究者たちが設計したこのドリッパーを製造したのは、400年の歴史を持つ有田焼の久右エ門窯。これも、BLOSSOM COFFEE社が方々、手を尽くして探し当てた製造委託先だ。薄くて丈夫という有田焼の特性が、ドリッパーに最適と判断された。伝統ある窯にとっても、ドリッパーの細かな形状を設計通りに再現するのは難易度の高い作業であり、試作は何十回にも及んだという。