ガザを訪れた国連職員がiPhoneで撮影した写真を多く掲載した写真絵本『ガザ~戦争しか知らないこどもたち』(清田明宏・著、ポプラ社刊)
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 パレスチナ自治区「ガザ」に住む子どもたちをiPhoneで撮影したポプラ社の児童向け写真絵本『ガザ~戦争しか知らない子どもたち』(税込み1620円)が話題を集めた。2015年6月の刊行以来、全国紙やNHKの番組などでたびたび紹介されており、同社の販売担当者も「児童書でこれほどメディアに露出したのはきわめて異例」と驚く。

 絵本には、戦闘の痕跡が生々しく残るガザの光景や、爆撃で壁が破壊された自宅に住み続ける子どもたちの表情などが数多く掲載されている。これらの写真を撮影したのが日本人の国連職員ということに注目が集まったようだ。撮影に使用したのが、職員がプライベートで所有しているiPhone、という点も興味深い。写真絵本にしたいきさつなどを改めて紹介しよう。

iPhoneならば撮影を意識させず自然な表情が撮れる

 写真絵本『ガザ』の写真撮影や執筆を担当したのは、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA、ウンルワ)の保健局長を務める清田明宏さん。約500万人のパレスチナ難民に対する医療の責任者として、ガザで活躍する約3100人もの医療スタッフを統轄している。

 UNRWAは、負傷した人に対する医療を提供するかたわら、紛争で心に傷を負った子どものためにカウンセリングを実施している。清田さんは医療行為には携わらないが、ガザを回って被害の状況を確認するとともに、子どもたちに話を聞いて相談に乗るのが重要な任務となっている。『ガザ』に掲載された写真の多くは、その際に清田さんが私物のiPhoneで撮影したものだ。

 なぜカメラを使わずiPhoneで撮るのかを尋ねたところ、「ガザの人々を撮るにはiPhoneがベストだ」と清田さんは語った。「子どもたちの話を聞きながらちょっとした合間に撮りたいので、胸ポケットからサッと取り出して撮影できるiPhoneを使うようになった。ガザの人たちも携帯電話やスマートフォンで写真を撮られるのは慣れているので、自然な表情が撮れる。もし大きなカメラを取り出したら、カメラを意識して構えてしまうだろう」(清田さん)。清田さんが使っているのはiPhone 5だが、出張で訪れたスイスで購入した端末なので、日本版の端末と違ってサイレントモードにすると撮影の際にシャッター音が鳴らなくなる。シャッター音で話の腰を折らずに撮れるのが気に入っているという。

 撮影は、標準のカメラアプリを使いつつ、逆光で仕上がりが暗くなった場合などはアドビシステムズの無料アプリ「Adobe Photoshop Express」で自動補正をかけて見た目に近づける。人物を逆光で撮影して顔が暗くなった写真も、iPhone上で自動補正することで好ましく仕上がり、パソコンいらずで済む点を評価する。

爆撃で破壊された自宅で悲しい表情を見せる少女・イマン。表紙に用いられたのがこの写真だ。オリジナルの写真は逆光で顔が暗かったため、アプリで補正したそう。きれいな青空とがれきの山の対比が印象的だ
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 『ガザ』で印象的なのが、爆撃で破壊されて灰色のがれきが広がる街の様子とは対照的に澄んだ青空だ。清田さんは「青空を強調するフィルターは使っていない。日本と比べてガザは空気が澄んでいるので、青空がとてもきれいに出る」という。

 清田さんが撮影の際に心がけていることがあるという。子どもと出会ってすぐに写真を撮ることはせず、面と向かって話をして心が通じ合ってから撮影するようにしているのだそうだ。「僕自身が感動しないと、いい写真は撮れない。ガザの人々の背景にあるヒューマンストーリーを写真で表したい」と語る。