グーグルの「Google Home」とアマゾンの「Amazon Echo」が発売され、他の各メーカーからもスマートスピーカーが続々と登場してきた。中でもユニークなのがオンキヨーの取り組みだ。グーグルかアマゾンのどちらかの音声アシスタントを搭載した製品を手がけるメーカーが多い中、同社はグーグルに対応する箱型の「G3」(VC-GX30)、アマゾンに対応する円筒形の「P3」(VC-PX30)の2製品を日本市場で発売する。
オーディオ機器のメーカーとして知られるオンキヨーがなぜスマートスピーカーを手がけるのか。グーグルとアマゾンそれぞれに対応する製品を発売するのはなぜか。それぞれの音声アシスタントの特徴はどこにあるのか。オンキヨー AI/IoT事業推進室室長の宮崎武雄氏、副室長・マーケティングマネージャーの八木真人氏に話を聞いた。
音作りはそれぞれ違う
――G3とP3で形が違うんですね。音作りも違うんですか?
宮崎氏: 形が違っているほうが分かりやすいでしょ?(笑)
八木氏: 実は特に深い意味はないんです。開発を進めていくうちにそれぞれこういう形にしようとなりました。
宮崎氏: 音作りの傾向はちょっと違います。P3は裏側にパッシブラジエーターが入っているなど、物量で音を出すような作りです。ブンブン鳴るようなアメリカンサウンドのイメージです。G3はオーディオメーカーらしさを生かしたオーソドックスなスピーカーで、日本や欧州で好まれるような音作りですね。
八木氏: 低音が好きな人はP3が、ボーカルや楽器の音を楽しみたい人はG3がいいかもしれません。ただしオンキヨーが作るスピーカーですから、どちらも音について一切妥協はしていません。
――オーディオメーカーであるオンキヨーが、スマートスピーカーを開発することになったきっかけを教えてください。
八木氏: 最初はアマゾンからこういうもの(Amazon Echo)が出るけれど、オンキヨーもどうですかというお話があり、それがきっかけでした。
宮崎氏: グーグルからも同様でした。どちらも最初は技術的な話合いがきっかけだったんです。
――グーグルとアマゾン、それぞれに対応する製品を手がけるのは珍しいですよね。ユーザーとしてはどちらを選べばいいのか迷ってしまいそうです。
八木氏:
両方手がけたのは、どちらが売れるか分からないから(笑) それはともかく、お客さんが自由に選べる選択肢を用意したかったんです。
どちらがいいのか、みなさん必ず困ってしまうと思いますが、選択の自由を妨げたくない。そこでオンキヨー&パイオニアとしては、両方をきちんと作り、それぞれのプラットフォームとオンキヨー&パイオニアが提供するオーディオの世界とをつなげようと考えたんです。
一番の魅力は、音の良さ
――両方のプラットフォームのスマートスピーカーを手がけるメーカーとして、グーグルとアマゾン、それぞれのプラットフォームにはどういった違いがあると考えていますか?
宮崎氏: さほど違いはないと感じています。もちろん別物ですから、製品を作るうえで技術的に苦労するポイントは違います。しかし音を出す技術や音声を入力する技術にはそれほど違いはありません。どちらのプラットフォームもそれぞれ認証を受けるための技術要件があります。それを満たして認証を受けた製品なら、スマートスピーカーとしての部分に違いはあまりないでしょう。
――スマートスピーカーは、まずグーグルかアマゾンかというプラットフォームの選択があり、それぞれGoogle Home、Amazon Echoと自社で製品を出しています。しかもどちらも安いですよね。スマートスピーカーとしての部分に違いが少ないとなると、そうした製品と違いを出せる部分はどこにあるんでしょうか?
宮崎氏: やはり音の良さが一番です。聴き比べてもらえばすぐに分かってもらえると思います。G3はGoogle Homeと聴き比べると誰でも違いが分かるぐらいハッキリとした差がありますし、音量を上げても音が割れません。
――他のメーカーとの違いはどうですか? 同じグーグルのプラットフォームに対応したスマートスピーカーではソニーなどもスマートスピーカーを出しています。
宮崎氏: ソニーの「LF-S50G」とは想定している置き場所や使い方が違うと言えるでしょう。LF-S50Gは防滴対応の360度スピーカーで、キッチンのカウンターなどに置いて使うことをメインに考えられた製品だと思います。G3は一般のオーディオ向けスピーカーと同じような使い方、たとえば壁際に置いたり本棚に入れて使うのに向いています。
八木氏:
スマートスピーカーとしての機能に違いはないと言いましたが、音声をやりとりする技術的な面では違いが出る部分があります。スマートスピーカーでは、音楽を聴くための音の良さだけでなく、音声アシスタントの声の聞き取りやすさ、そして自分の声を確実に拾ってくれるマイク技術が重要です。音を鳴らすスピーカーのすぐ近くに音を拾うマイクがあるわけで、自分の音声入力をなかなか聞き取ってもらえないとユーザーはイライラしてしまうでしょう。
たとえばG3は、このために開発した8cmの大きなスピーカーできょう体が振動するという、マイクにとって非常に厳しい環境です。この環境でユーザーの声をちゃんと聞き取れるように、オンキヨーやパイオニアが長年培ってきたマイク技術がつぎ込まれています。これは特許出願中の技術です(オンキヨーによる報道資料)。
P3も同様で、Amazon Echoより音がよく、大音量で鳴らしていても自分の声をちゃんと拾ってくれます。この音の良さとマイク技術がオーディオメーカーとしての腕の見せどころであり、Google HomeやAmazon Echoより価格が高い分だけの価値がある部分だと考えています。
スマートスピーカーは音楽を聴くきっかけを増やす
――G3、P3とも360度スピーカーではないんですね。
宮崎氏:
スマートスピーカーを本当にリビングの中央に置いて使うのかというのがまずありました。現在ある360度スピーカーの多くが小型でバッテリー駆動になっているのは、持ち運んでどこに置いても使いやすいからでしょう。スマートスピーカーをそれほど持ち歩くかどうか疑問ですし、音をよくしようとするとどうしても筐体が大きくなって持ち運びにくくなります。我々はオーディオ機器として、壁際や本棚などに置いて使ってもらうことを想定して作っています。
ただ、オンキヨーとしてそれだけでいいとは思っていません。我々がスマートスピーカーに興味を持ったのは、これが音楽を聴く機会を増やしてくれる機器だと思ったからです。実際に米国での調査では、スマートスピーカーを購入した人のうち、約7割が音楽を聴く時間が増えたという結果が出ました。ステレオ装置のスイッチを入れてCDをプレーヤーに入れたり、スマートフォンを操作したりするより手間がかからず、気楽に聴けるというのが大きい要因でしょう。
音楽の楽しみ方にはいろいろあると思います。オンキヨー&パイオニアグループの製品にも、レシーバーやミニコンポといった音楽をより深く楽しむトラディショナルなオーディオ製品もあれば、家でも外でもどこでもカジュアルに音楽を楽しめるモバイル系の製品もあります。
ではスマートスピーカーは何かというと、前述のように音楽を聴く機会を増やしてくれる製品、音楽を聴く入口になる製品なんです。気楽に使えるので、今まで音楽を聴いていなかったキッチンやリビングなどの場所で音楽を聴くようになったり、音楽を聴いていなかった隙間時間に聴くようになり、それをきっかけにもっといい音で聴きたいと考えるようになってくれればと思います。
――スマートスピーカーを音楽を聴く機会を増やすきっかけにしたいということですね。
宮崎氏:
音楽を聴く機会を増やしていかなければ、オーディオ機器は発達していきません。機会を増やしていくことが、オーディオ機器メーカーにとってのビジネスチャンスになります。G3やP3はスピーカーの形をしていますが、音楽を聴く機会を増やせるのならスピーカーの形でなくてもいいんです。AIが家や車やさまざまな機器に入り込んで、どこでも音楽を聴けるような形になっていくかもしれません。そこにチャンスがあると考えています。
今、いろいろな企業からコラボレーションの話をいただいています。我々の音に対する技術で、音楽を聴く機会をもっと増やしていこうとしています。オーディオの世界にはこれまで流行り廃りがありましたが、スピーカーというオーディオ機器が、専門誌から一般誌までこれだけ話題になるのは久しぶりのことです。スマートスピーカーの盛り上がりを実感しています。
スマートスピーカーのもっと先を見ている
――スマートスピーカーに限らず、音楽を聴く環境は近年ずいぶんと変わってきています。スマートフォンとヘッドホンが中心で、オーディオ機器やスピーカーで音楽を聴かない人が増えているのではないでしょうか。そうした中で音響機器メーカーとしてどのように市場に働きかけていくのでしょうか。
八木氏:
実際のところ、ヘッドホン市場はすごく伸びています。ヘッドホン関連のイベントで若い方を多く見かけます。4~5年前ならスマートフォンをつないで音楽を聴けるドックのような機器もありましたが、今やその操作すら面倒に感じて、ヘッドホンで聴く人が多くなっているんでしょう。さらに車に乗らない人も増えていますから、カーステレオで聴く人も減っているでしょう。
子どもにとっても、音楽を聴く機器はスマートフォンになっている。私達が子どもの頃は入学祝いにステレオセットやラジカセが欲しいといったことがありましたが、今はそれがスマートフォンになっていますしね。
――スマートスピーカーがきっかけで、スピーカーで音楽を聴く人が再び増えるかもしれませんね。
八木氏:
スマートスピーカーは、キッチンで料理をしながら調べものをしたり、何か作業をしながらニュースや天気予報を聞いたり、対応機器をコントロールしてベッドで寝転んだまま電気を消したりといったことにも使えます。音楽を聴く機会を増やせるだけでなく、時間や場所を拡大してさまざまな機会を提供できる可能性を秘めた機器です。そうした便利さから使う時間が増え、結果として音楽に触れる時間や場所が増えれば、それは音楽業界全体の活性化にもつながるのではないでしょうか。
先ほどの話になりますが、音はスピーカーから聴こえてこなくてもいいんです。家の中なら壁や天井から聴こえてくる形でもいいですし、車の中でも同じです。そうやってあらゆる場所で音や情報を得られる環境づくりに取り組んでいこうというのが、オンキョーの大きなビジョンの1つです。そのため、我々は他社との協業やコラボレーションは一切否定しません。どことでも協業できます。我々はスマートスピーカーのもっと先を見ています。
宮崎氏: オンキヨーがグーグルとアマゾンの両方のプラットフォームを手がけている理由もそこにあります。ほかのAIも手がけていますから、協業の相手が使いたいプラットフォームがどれであっても我々の技術を提供できます。我々が実現したいのは音や音楽を聴く機会を増やすことで、1社だけですべてできるとは思っていません。ソニーさんと組むのだってアリだと思っていますよ。
(文/湯浅英夫、写真/シバタススム)