二足歩行のロボットがバク宙を決める動画がYouTubeで公開され、話題となった。この動画を投稿した米Boston Dynamicsは、今年6月にソフトバンクが買収すると発表した米Alphabet(米Googleの持ち株会社)傘下のロボット開発会社だ。苦戦が続く、ソフトバンクグループのロボット事業の救世主として期待される同社だが、本当に収益を見込めるのか。11月21日、22日に開催された同社のイベント「SoftBank Robot World 2017」の基調講演などからその可能性を探った。

技術力の高さは誰もが認めるものの……

 まずは下記の動画をご覧いただこう。この動画は、米Boston Dynamicsが11月16日に公開したもの。二足歩行ロボット「Atlas」が、ジャンプして器用にバランスをとる、後ろ向きの宙返りを決めるという内容で、「すでにロボットがここまでできるのか?」と驚きを隠せない映像となっている。

「SoftBank Robot World 2017」で展示された「Atlas」
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「Atlas」の足元。全身でバランスを取ることで、これだけの接地面積でも二足歩行が可能
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 Boston Dynamicsは、マサチューセッツ工科大学発のベンチャー企業。主に軍事向けの新技術の開発と研究を行う国防高等研究計画局(DARPA)による支援を受けつつ物資輸送などに使うロボットを研究・開発していた。2005年にはNASAやハーバード大学と共同開発した四足歩行ロボット「BigDog」の動画を発表。まるでロバのように4本の足を使って歩き、人に蹴られても器用にバランスを保つ妙にリアルな「BigDog」の姿は、同社の名前を世界に知らしめるほどのインパクトだった。

 2013年にはGoogleが同社を買収。Googleの傘下となった。とはいえ、近年は収益化の目途が立たない点が問題視され売却の噂が絶えなかったのだが、今年6月ソフトバンクが買収に合意したと発表。そして、その技術力が健在である点を強調するためか、前述した動画を公開。1100万回を超える視聴回数を記録している。

ソフトバンクが欲しいのは「機動力」

 ソフトバンクグループは、2015年にリリースした法人向けロボットである「Pepper for Biz」を皮切りに、本格的にロボット事業を推進。しかし、Pepperの販売・開発を手掛ける子会社のソフトバンクロボティクスは、大幅な債務超過に陥っていることが判明し、ロボット事業の立て直しが課題となっていた。

 現時点のPepperは、商品説明など主に飲食店や小売りの接客で利用されている。「SoftBank Robot World 2017」の基調講演に登壇したソフトバンクロボティクスの冨澤文秀社長は、「現在、2000社を超える企業が導入している」と話し、Pepperが一定の成果を挙げている点を強調した。

 だが、同社が成長するには接客以外にもロボットの市場を拡大する必要がある。そこで期待されるのがBoston Dynamicsが保有する、ロボットに機動力、つまり「脚」を追加する技術だ。動画を見れば分かるように、Boston Dynamicsのロボットは、階段はもちろん多少の障害物があっても避けたり、ジャンプで乗り越えたりして歩き続けることができる。そして、この機動力を生かせる領域が、警備や建設とソフトバンクは見ているようだ。

ソフトバンクロボティクスの冨澤文秀社長
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Boston Dynamicsとの協業に3社が名乗り

 11月21日の「SoftBank Robot World 2017」の基調講演では、Boston DynamicsのFounder兼CEO・Marc Raibert氏も壇上に姿を現した。「人間や動物と同様かそれを超える機能を持つロボットを開発する」というBoston Dynamicsの研究目標などを紹介した。その後、セントラル警備保障、フジタ、竹中工務店の国内3社の代表が壇上に招かれ、Boston Dynamicsとの協業に前向きな企業と紹介された。

Boston DynamicsのFounder兼CEO・Marc Raibert氏
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 3社の主要な業務は警備や建設。それぞれ独自にロボットに対する戦略を立て、活用の道筋を探っている企業ばかりだ。セントラル警備保障の鎌田伸一郎社長は、高齢化による人手不足を懸念したうえで、「ロボットに機動力があれば、建物や施設内の巡回をこなすことができるので、人手不足の解消に期待が持てる」と話した。国内には業界全体で約54万人の警備員が働いているが、その平均年齢は60歳を超えているという。

檀上に登場したセントラル警備保障の鎌田社長、フジタの土屋達朗専務、竹中工務店の岡本達雄専務
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早期の製品化で先行者利益を確保

 確かにBoston Dynamicsの技術があれば、警備や建設の現場で役立つロボットが実現しそうだ。気になる製品化の時期については、現時点でBoston Dynamicsの買収は完了していないものの意外に早いと予想する。

 その理由としてまず挙げられるのが、下記の動画にある。これはBoston Dynamicsの「SpotMini」と呼ばれる四足歩行のロボットの動画だ。オフィスや家での利用を想定し、動作音が静かで、90分間の充電で使えるという。この動画の最後には「Coming soon」というテロップが現れる。外装パーツがしっかり取り付けられていることを見ても、おそらく商品化に向けてのめどが立ったのだろう。

 建物の巡回であれば二足歩行にこだわる必要はなく、より安定した機動力を発揮できる「SpotMini」のほうが実用度は高い。「SpotMini」が建物を巡回し、リアルタイムに送られてくる映像を守衛室などで確認すれば、巡回担当者の人手不足の解消に有効だろう。また、「SpotMini」はアームを追加して、何らかしらの作業させることもできる。こちらは建設現場での塗装作業などに活用できる可能性がある。基調講演で竹中工務店は、「SpotMini」に4本の手を持つ上半身を付加したケンタウロスのような万能建設ロボットのアイデアを披露し、場内を沸かせていた。

「SoftBank Robot World 2017」で展示された「SpotMini」。写真内の右下に首のようなアームが装備されたバージョンの画像がある
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 製品化の時期が早いと予想するもう一つの理由は、ソフトバンクが先行者利益の確保に動くからだ。今年10月に「Pepper」の開発責任者であるソフトバンクロボティクスの蓮実一隆氏は、ジャーナリストの津田大介氏との対談のなかで、「第1号の製品として誰かがそのリスクを負わなければ、ロボットと暮らす時代は来ないし、便利に使えるようにもならない」とし、「実際に市場に出してみて、驚くほどいろいろなことが見えてきた」とも語っている。

 先行者として「Pepper」でロボット市場を切り開いてきたソフトバンクは、ロボットの活用と運用のノウハウについて世界でもっとも詳細に知る企業の一つとなった。このノウハウはまさに市場に出してみて初めて分かることがほとんどだろう。Boston Dynamicsの技術を使ったロボットについてもノウハウという財産確保と収益のために製品投入を急ぐのは間違いない。

 人工知能などに多額の投資をするGoogleですら見放したともいえるBoston Dynamicsの技術を商品化できるのか? ソフトバンクの挑戦は、今後日本が抱えるであろうさまざまな業界での人手不足解消につながる試金石だ。2020年の東京五輪では、施設内を「SpotMini」や「Atlas」が警備で巡回している、そんな未来に期待したい。

(写真・文/稲垣宗彦)