「コーヒーのお好みの味を指定してください。それじゃあ、コーヒー薄めで入れちゃってください!」

 ソフトバンクロボティクスの人型ロボット「Pepper」の掛け声とともに、川崎重工業の双腕ロボット「duAro(デュアロ)」が勢い良く動きだす。duAroは胴体から伸びた2本のアームがそれぞれ独立して動き、人の両腕のように作業できるロボットだ。このduAroがネスレ日本のコーヒーメーカー「ネスカフェ ゴールドブレンド バリスタ50」を操作して、コーヒーをいれ始める。

 バリスタの作動中にはPepperが歌い、待ち時間も退屈させない。コーヒーをいれ終わると、duAroがいれたてのコーヒーのカップと、チョコレート菓子「キットカット」をトレーに載せて来店者に提供する。

「おもてなし無人カフェ」では人型ロボット「Pepper」が店員となって、来店者をおもてなしする
「おもてなし無人カフェ」では人型ロボット「Pepper」が店員となって、来店者をおもてなしする

 東京・原宿に無人のロボットカフェが誕生した。「ネスカフェ 原宿」では、11月16日から10日間限定で、ロボットを活用した無人店舗の体験イベント「おもてなし無人カフェ」を実施中だ。Pepper、duAro、バリスタを連携することで、注文の受付から接客、商品の提供までをすべてロボットが行う。ネスカフェ 原宿店で飲料などを1品購入するだけで誰でも体験できる。

 本取組はロボットの活用によって、外食産業の頭痛の種となっている人手不足の解決策の糸口を探るのが狙いだ。「注文から接客までのサービスを人の手を使わずにロボットだけで完結する店舗を作ることで、どんな価値を顧客に提供できるかを研究するうえで実施した」(ネスレ飲料事業本部レギュラーソリュブルコーヒービジネス部の島川基部長)。

 とはいえ、単なる無人店舗であればバリスタを設置するだけでも、セルフサービス型なら実現できる。今回、わざわざPepperなどを設置した理由は接客を通じた、来店者とのコミュニケーションに重きを置いているからだ。

顧客の顔を覚えて接客するPepper

 島川氏は「当社が展開する(立ち飲み型のコーヒー店)『ネスカフェ スタンド』が成功しているのは、店員がコーヒーをいれて提供するまでのコミュニケーションが大きいと見ている」と説明する。そのため今後、本格的に無人店舗の実現を目指すうえでも、接客は欠かせないとの考えに至った。そこで、接客役として起用したのがPepperだ。

 無人店舗の来店者はまず、Pepperの胴体に取り付けられているタブレット端末の画面に表示されたボタンをタップして、コーヒーの注文を始める。ボタンをタップすると、Pepperが気さくにコーヒーの濃さなどの味の好みを尋ねてくる。来店者は質問に応じてタブレット端末を操作して、自分好みのコーヒーの味を設定する。

 今回コーヒーメーカーとして使用するバリスタ50は、Bluetoothを使った通信機能を搭載している。専用のスマートフォン向けアプリ上で、自分好みのコーヒーを設定して、送信するだけで設定通りのコーヒーができあがる。無人店舗ではこの機能を利用して、Pepperが来店者の設定したコーヒーの味をバリスタに送信する。そして、duAroがバリスタを操作してコーヒーを入れる。こんな仕組みになっている。

注文を受け付けると双腕ロボット「duAro」がコーヒーをいれ、チョコレート菓子「キットカット」と併せて提供する
注文を受け付けると双腕ロボット「duAro」がコーヒーをいれ、チョコレート菓子「キットカット」と併せて提供する

 さらに、Pepperには顔認識技術を活用することできちんと来店者の顔を覚えて、一人ひとりに対してパーソナライズした接客サービスを提供できる機能を搭載している。このようにロボットであっても、人間味を感じられる設計を目指した。

 具体的には、コーヒーを抽出している間に、Pepperが「僕とお友達になってください」と話しかけてくる。このとき「はい」と答えると、呼び名を尋ねられるので、タブレット端末を操作して名前や愛称を入力する。Pepperは顔認識技術によって注文者の顔と併せて、入力された名前や注文したコーヒーの好みの味を併せてデータとして蓄積することで顧客を覚える。次の来店時には、顔を見るだけで過去のデータに基づいて、自動で好みの味のコーヒーをお薦めできるようになる。

 今回の取り組みは実験的な趣が強い。ただロボットの活用でサービス産業の人手不足を補う取り組みでは、H.I.S.ホテルホールディングスがロボットによる運営を中心としたホテル「変なホテル」が実際に稼働しているなど、先行事例はすでにある。ロボットを活用した無人のカフェが、あなたの街に登場する日もそう遠くはなさそうだ。

(文/中村勇介=日経トレンディネット)

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