「300人の鑑定士を抱える当社がフリマ(フリーマーケット)アプリ市場に参入することで、リユース市場の課題であるコピー品の排除に取り組んでいく」

 2017年11月7日、ブランド品リユース最大手のコメ兵はスマートフォン向けアプリ「KANTE」を投入して、フリマアプリ市場に参入すると発表。同アプリの発表会に登壇した石原卓児社長は、アプリ提供によって、より安心安全なフリマ市場の確立を目指すと宣言した。

フリマアプリに参入したコメ兵の東京・銀座店の店内
フリマアプリに参入したコメ兵の東京・銀座店の店内

 誰もがスマートフォンで簡単に売り買いできるフリマアプリの誕生により、CtoC(消費者間取引)市場が急拡大している。経済産業省は2017年4月にフリマアプリの推定市場規模を初めて発表した。同省は2016年の推定市場規模を3052億円と試算する。フリマアプリの誕生からわずか4年でこの規模にまで膨らんだ。

 フリマアプリの最大の特徴は利用が簡単であること。スマホで商品を撮影して、すぐに出品できる。こうした手軽さが受けて、それまでネットオークションサイトを使ったことがない若年層や女性を中心に支持を集めた。フリマアプリ代表格であるメルカリ(東京都港区)が提供する「メルカリ」のダウンロード数は5000人を超える。毎日100万点を超える商品が出品されており、1日当たりの取引額は100億円超に達している。

「メルカリ」は国内で5000万人以上が利用する。毎日100万以上の商品が出品され、100億円を超える売買がされている
「メルカリ」は国内で5000万人以上が利用する。毎日100万以上の商品が出品され、100億円を超える売買がされている

 ところが市場が広がる一方で、新たな課題も次々に生まれている。ブランド模倣品の流通の温床と化していることもその1つ。財務省が発表している2017年1~6月の税関における「知的財産侵害物品の差止状況」によれば、輸入差止件数は1万5393件(前年同期比11.1%増)で、上半期の輸入差止件数としては過去3番目の高水準だったという。このうち98%を占めるのが偽ブランド品などの商標権侵害物品だ。

 模倣品が作られるブランドの幅も広がっている。「一昔前はルイ・ヴィトンやボッテガ・ヴェネタなどの高級ブランドが中心だったが、最近ではアークテリクスなどのアウトドアブランドの模倣品まで出回っている。もはや当社で取り扱うほとんどの商品に偽物が存在すると言っても過言ではない」。コメ兵の執行役員の藤原義昭マーケティング統括部長はこう明かす。

リユース市場の冷え込みの懸念

 海外から持ち込まれた模倣品の売買の場の1つとしてフリマアプリが利用されている。「インターネットで購入して愛用した後に、当社に買い取りの申し込みに来られて初めて偽物だったことに気付くケースもある」(藤原氏)。シェアリングエコノミーの一貫として、フリマアプリを含むリユース市場が成長を続ける一方で、模倣品の被害に遭うケースが増えれば、「信用を失いリユース市場の冷え込みにもつながりかねない」と石原社長は危機感を強める。

 そこで、消費者がより安心安全にブランド品を売買できる場としてKANTEの提供を始めた。同アプリの最大の特徴は消費者間取り引きのフリマアプリでありながら、購入者がコメ兵の鑑定士に購入商品の真贋の鑑定を依頼できることにある。

 鑑定の対象となる商品の場合、鑑定サービスの「KOMEHYOカンテイ」を利用して購入できる。もし鑑定サービスを利用しない場合は、2~5%程度安価で購入できる。鑑定の依頼を受けた出品者は、商品を一度コメ兵に送り、コメ兵の専門家が鑑定をした後に購入者に発送する流れとなる。売買の仲介役として、コメ兵の鑑定士が入ることで安心してブランド品の購入をしてもらう。

コメ兵のフリマアプリ「KANTE」は1万円以上のブランド品に特化している
コメ兵のフリマアプリ「KANTE」は1万円以上のブランド品に特化している
KANTEはコメ兵の鑑定士による鑑定機能が搭載されているのが特徴だ
KANTEはコメ兵の鑑定士による鑑定機能が搭載されているのが特徴だ

 KANTEはブランド品の売買に特化したサービスのため、出品できる商品を1万円以上に絞っているのも特徴だ。その理由は2つある。まず、メルカリやオークションサービスの「ヤフオク!」といった、先行するCtoC事業者と真正面からぶつかっても勝ち目が薄いという点が1つ。「メルカリは大きな市場ではあるが、高額品の取引は非常に少ない。高額品に絞り込んだカテゴリーキラーとして参入する」(藤原氏)ことで差異化を図る。

 もう1つはKANTEを既存事業の成長のドライバー(駆動力)として活用するためだ。KANTEでは出品から1~2カ月が経過した商品に対して、コメ兵側から価格を提示して、買取を提案する。「他社のフリマアプリを見ていると、当社での買取価格のほうが高い取引が散見される」(藤原氏)。ところが、「来店が面倒」「買いたたかれるのではないか」、そんな不安からフリマアプリを通じて売買されてしまっているケースは少なくないという。

 KANTEは既存のフリマアプリ同様、スマホで撮影して簡単に出品できる。しかも出品手数料は無料。商品が売れたときに販売額に応じて10~15%の手数料がかかるため、出品する分には1円もかからない。これにより「もしかしたら高く売れるかもしれない。そんな商品をとりあえず出品してもらう」(藤原氏)。買取市場には出にくかった商品がKANTE上で流通しやすい土壌を作る。その後にコメ兵から買取を提案する新しいエコシステムを作り出したい考えだ。

機械と人がタッグを組んだ監視体制

 もっとも、既存のCtoC事業者も模造品の排除に対して手をこまぬいているわけではない。メルカリは年内に、ヤフーは2018年中にも人工知能(AI)を活用した模造品の排除の取り組みを始める方針だ。

 メルカリではすでにゲーム上のアカウントやアイテムを現金で売買するRTM(リアルマネートレーディング)の防止にAIを活用している。「商品画像や商品情報として入力される情報に規則性があり、判別がしやすい」(メルカリ執行役員CS担当の山田和弘氏)のがその理由だ。この仕組みの適応範囲をブランド品にも広げる。

 同社では250人の監視体制を敷き365日24時間体制でサービスを監視しており、模造品を含む問題のある出品物の削除、出品者の利用制限などに努めている。鑑定士も数人が在籍する。こうした監視体制で検閲して、削除した商品のデータを蓄積している。このデータを分析すると、模倣品の商品画像や情報には「一定の傾向やはやり文句が見えてくる」(山田氏)。例えば、「香港のどこどこで購入した商品です」と説明の商品は一律で偽物と判別できるという。

 また、メルカリが8月に提供を始めた査定付きブランド品専用フリマアプリ「メゾンズ」では、正しく査定をするうえで商品を撮影する角度などを指定することで、より模倣品かどうかを判断しやすい商品画像を収集している。

 加えて自社でデータを収集するだけではなく、外部の事業者や調査機関との連携にも力を入れる。700超のブランド権利者や、ブランドを取りまとめる業界団体から模倣品の情報を逐次、得ている。これらはAIが模倣品の判別をするうえで、学習するための貴重なデータとなる。学習が進んだことで「年内にもAIを活用した、新しいパトロールを始める」(山田氏)準備が整った。

 ヤフーも「2018年から機械学習による判別をパトロールに組み込んでいく」(ヤフオク!ユニットの林啓太ユニットマネージャー)方針だ。ヤフオク!は1999年にサービスを開始した、ネットオークションの老舗サービスゆえに、蓄積された商品などのデータ量では一日の長がある。

 加えてヤフー独自の取り組みとして、検索データの活用も検討を進めている。例えば、模倣品を購入したくない、あるいは購入してしまった人がよく検索するブランド名や商品名などの検索キーワードは一案として挙がっている。こうした検索行動のデータも模造品を判断するためのAIの学習データとして活用できる可能性があるという。

 また、ヤフーも権利者から情報を募る「知的財産権保護プログラム」を実施しており、ブランド権利者にとどまらず、音楽業界や放送局から海賊版などに関する情報も収集している。これらの社内外のデータで学習したAIをパトロールの一貫として組み込んでいく。「サポート体制をどれだけ強化しても、全商品を人の目で確認することは難しい。AIで模倣品の可能性が高い商品をリスト化して、それを人の目で判断していく」(林氏)。機械と人間がタッグを組んで模倣品の撲滅に挑む。

 メルカリとヤフーは8月に安心安全なEC(電子商取引)市場の環境整備を目指した「EC事業者協議会」を設立している。同協議会には消費者庁、総務省、経済産業省もオブザーバーとして参加しており、官民一体となって模倣品の取り締まりに取り組んでいく。

(文/中村勇介=日経トレンディネット)

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