ハウステンボス取締役CTOで、サービスロボット会社のHapi-robo st代表取締役社長の富田直美氏は、「変なホテル」や「変なレストラン」のロボット、ドローンの編隊飛行など、1つの国のように広大な敷地を持つハウステンボス内で様々な実験に取り組み、イノベーションを先導している。人工知能(AI)の時代に日本企業がイノベーションを起こし、競争力を取り戻すための条件について聞いた。

富田 直美 |Naomi TOMITA
ハウステンボス取締役CTO(最高技術責任者)兼エイチ・アイ・エス(HIS)取締役CIO(最高情報責任者)兼Hapi-robo st代表取締役社長。外資系IT企業の日本法人社長など9社の経営に携わり、財団法人日本総合研究所理事、社会開発研究センター理事、アジア太平洋地域ラジコンカー協会の初代会長などを歴任。多摩大学客員教授(写真︓室川イサオ、以下同)
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 今、大手企業を中心に「イノベーションが起こせない」と悩んでいる担当者が増えているように思う。

 それは少し違うのではないか?イノベーションを上からの命令で仕方なくやっているというのが多いような気がするが、おかしい。そこに自発的なやる気や、強い想いがないとイノベーションを起こすなんて到底無理だ。「うちの会社では無理」というのもよく聞くが、想いがあるなら会社を辞めてでも飛び出してやり遂げるべき。

熱意のあるものから生み出される

 私は結構飽きっぽい性格だが、時々無性に1つの事に打ち込みたくなる。それがラジコンだったり模型だったりという具合だ。熱意がある時に取り組むとそうでない時に比べて、段違いに集中しており、新しいことを発見できる。実はこれらが仕事につながることが少なくない。私はもう70歳になろうとしているが、若い者に負けないのはこうした積み重ねがあるからだ。

 こうして自ら取り組むところにイノベーションが起きる。上司に押し付けられたようなものは「来週までにやらねばならない」といった改善と同じか、そこにも至らない。

 そもそもイノベーションとは何か。

 正しい定義かどうか分からないが、自分で考え抜いて、新しいことをする試みではないか。今までの常識を新しいものに置き換えて、再定義していくのだ。本質的なものを実現することだが、その本質が今はまだ見えていないこともあるだろう。

 変なホテルでもイノベーションを試しているのか。

 変なホテルで100以上のロボットを投入して、実質1人や2人のスタッフで運営できるようにしたのも、ある意味イノベーションだろう。

変なホテルは世界に100造る

 変なホテルを世界中に100カ所ぐらい造ろうとしている。生産性の高いホテルブランドとして、世界中に展開できるのではないか。そんなに時間はかからない。アフリカのような電気や水のインフラが整備されていない場所で、変なホテルを運営できないか真剣に考えている。砂漠でも植物を栽培できるようにしたり、植物由来のバッテリーなどに取り組んだりしている。

 今夏、長崎のハウステンボスで300機のドローンを編隊飛行させた。何のためにそのようなことに取り組んだのか。

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 ドローンは単なるヘリコプターではない。飛ぶロボットのようなもので、自律的な制御によって、安全性に配慮したうえで様々なサービスに適用していくことができる。

数が増えると可能になることもある

 こうした特徴を利用して、300機のドローンを群として制御できるかどうかを米インテルなどと試したのだ。ドローンは基本的に1人で1台を操作して飛ばすものだが、それぞれを連係させることができれば300機を1人で操ることができるようになる。

 今回ハウステンボスでは花火のようにドローンで光のアートを実験した。ほかにも、スプレーを装着すれば、外壁を一気に塗ることなどが考えられる。質も大事だけど、数が増えることでこれまでにないようなことができるようになる。

 「イノベーションの定義は何だ」という質問があったけど、今回のドローンのプロジェクトはまさにそうではないか。エンジニアだけでなく様々な立場の人が1つの新たな場に集まって、シンクロしながら熱意を持って進めることで、創造的なことが生まれる。

 年初に様々な分野で活用するロボットを手掛ける会社を作った。

 澤田(秀雄HIS会長兼社長)と一緒に立ち上げた。ただし、ロボットを作る会社ではない。ロボット業界の商社やゼネコンと思っており、顧客が欲しいものを組み合わせてプロデュースしていく。もちろんロボットを作れるメンバーもおり、熟知したうえで取り組んでいるし、ロボットを未来永劫作らないというわけでもない。

 我々が変なホテルでホテル業界のサービスをロボットに置き換えたように、様々な分野でサービスや事業に使うロボットについて教えてほしいという問い合わせが増えている。現在はそうした会社の支援をしている段階だ。

 日本における第3次AIブームをどのように見ているか。

 そもそも第3次とか言っているのは、大学の研究者やマスメディアではないか。人工の知能と解釈すれば、人間を楽にしたり便利にしたりするITのほとんどがAIに入ってくるのではないか。人間が人工的に作ったものであればAIと言える。

ロボットは完全でない方がいい場合も

 AIと人間の本質的な違いは、人間の五感はすごいということ。AIがこれを超えるのは難しい。AIは想定外のことが起こった際の対応も苦手だ。一方でコンピュータはものすごい大きな記憶領域を持っており、特に繰り返しの高速演算に強い。

 AIやロボットの完成度が増していくにしたがって、それこそ人間の個性の価値が出てくる。ロボットは同じものをコピーし同じものが世の中に存在する。人間は唯一無二の存在だ。変なホテルで分かってきたのは、受付などのロボットを完全に人間のコピーのようにしないほうがいいということ。そうすれば、顧客のほうから歩み寄って対応してくれる。ペットに対してやさしく接するようなものだ。

 日本のAI業界は、米グーグルなど海外のIT大手に人材や保有するデータの量や種類で勝つことが難しいと言われる。

 日本は、地球や社会の重要な課題を解決するという方向を目指していけば勝てる。世界でこれからますます必要となるところであり、侘び寂びの精神があり、周囲の人のことを思いやることができる日本ならではのものが出てくるだろう。

 今世界では、資金はマネーゲームとなって、必要なところへの再配分にあまり回っていないのではないか。テクノロジーも集中しつつある。

 例えば、自動運転は先進国のお金持ちを楽にさせるためのものでいいのか。優秀なエンジニアもそうしたところの開発に集められ、集まっている。目先の「小欲」であり、世の中をよくする「大欲」のほうに向くべきではないだろうか。

 今回、ノーベル平和賞をとったNGO「核兵器廃絶国際キャンペーン」がいい例だ。スイスのジュネーブに本拠を置くNGOで、広島・長崎の原爆の状況を知り、そのうえでSNSを活用して核廃絶のロビー活動をしていた。日本人として恥ずかしいと思う一方で、あのような小さな組織でも精力的に工夫をして取り組めば短期間に世界で認められる存在になれる。

富田氏が中国・深センから購入したばかりだという電動アシストのバイク
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イノベーションは米シリコンバレーよりも中国

 ここ最近の状況を見ていると、イノベーションは米シリコンバレーでなく、中国の深センや上海で起きていくのではと感じている。米国の一流の教育を受けた中国人が戻ってきて、ものすごい資金力で競争力のある商品やサービスを開発してしまう。そしてそれを対応力の高いEMSなどに依託して、大量に製造して売りさばくというものだ。

 新たな資源と呼べるデータも中国企業の集め方はうまい。中国には大手のドローン企業があるが、サポートをするために様々な稼働データをとっているようだ。別にビッグデータ企業とは言っていないけど、そうしたメーカーにもビッグデータが集まっている。

 私事だがこうしたことを実感した。先日、中国の深センのショップに電動アシストのバイクを注文したところ、1週間ほどで届いた。それも送料が無料だ。そして価格の安さもさることながら、デザインや細部の仕上げのよさを見て本当に驚いた。これでは日本企業は太刀打ちできなくなる。

(文/市嶋 洋平)