2020年度から小学校でプログラミング教育が導入される。それに先駆けて、産官学民との連携を進めて積極的にプログラミング教育に取り組んでいるのが埼玉県戸田市だ。教育長として先進的な取り組みを率先する戸ヶ崎勤氏にその狙いを聞いた。

写真1●戸田市教育長の戸ヶ崎勤氏
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――インテルと提携してプログラミング教育などに向けた教員研修を実施するなど、積極的ですね(関連記事:公立小中学校の教員にプログラミング教育研修を実施)。

戸ヶ崎勤氏(以下、戸ヶ崎氏):戸田市として産官学民との連携を推進しており、プログラミング教育ということでは、インテルだけでなく、ベネッセコーポレーションやソニー・グローバルエデュケーションなどとも提携しています。また、ICT活用ということでは、グーグルやマイクロソフトなどの企業などと連携しています。

 このほか複数の大学や行政機関、NPO団体とも協力し、プログラミング教育を含むさまざまな教育改革を進めています。これだけいろいろな組織と組んでいる自治体は少ないのではないかと思っています。

――なぜ、外部と積極的に連携するのでしょうか?

戸ヶ崎氏:未来社会は予測不可能性が加速度的に高まると言われています。そのような社会で活躍する子供たちには、21世紀型、汎用的、非認知の3つのスキルを身に付けてほしいと考えました。これらの育成に向けては市内の限られた知見だけではなく、産官学民の知のリソースの活用が重要とも考えました。

 そこで、こちらは学校や教室といった場を提供するので、外部からは先進的なプログラムを提供してもらったり、ICT環境を補完してもらったりしてもらう。そうしてお互いが実績を積み重ねていきながら、教育改革を実証的に進める。このウィンウィンの関係により、安価で効率的に、最先端で質の高い教育が提供されていくと確信しています。

――前例が少ないと思うのですが、どのような壁がありましたか?

戸ヶ崎氏:例えば、学校全体でICT環境を整えるといっても、「なんで体育館に無線LANが必要なんだ?」ということになるわけです。必要不可欠であるという説明はしにくいのです。そこで、体育の跳び箱の授業において、タブレットで録画したスロー動画を見せることで、言葉だけの説明よりも技のポイントを理解しやすくなることを示しました。それでようやく必要性を分かってもらえて広く展開できるようになりました。

 こうした地道な活動の積み重ねでICT環境が整ってきて、外部と連携できる下地ができます。今はそれがないと、企業だって来てくれないわけです。そのため、まずはICT環境の整備に取り組みました。生みの苦しみで、1年半ぐらい大変でしたけれども。

 もう1つは埼玉県学力・学習状況調査を有効に活用してエビデンスに基づく検証ができる基盤を整備しました。このことで、導入した成果の実証ができる可能性が広がったことも企業のメリットとして大きいと思います。

 こうしてICT環境を整備しつつ、「新しい学び」の共同研究でベネッセと2015年6月に包括提携、2017年2月には教員研修の取り組みでインテルと提携しました。

 インテルとの提携では、インテルの教員研修プログラム「Intel Teachプログラム」を導入しました。このプログラムを効率よく研修できるように、2~3時間の戸田市専用プログラムにアレンジして導入しています。

写真2●2017年7月末に開かれた、「Intel Teachプログラム」を導入した教員研修の様子
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 なぜ、2~3時間のプログラムにしたかというと、すべての教員が研修を受けられるようにしたかったからです。管理職にも、中堅教員にも、若手・新任教員にも、さらには臨任者にも受けてもらう。でないと学校一体となって教育改革に取り組めません。

――先進的な取り組みへの理解は進みましたか?

戸ヶ崎氏:まずは管理職の意識改革に壁がありました。保護者の一部からも、外部の協力を得ることに対して、教員としての誇りがないのかという意見も少数ですがありました。自分たちの指導に自信がないから、外部に頼るのだろうと。

 新しいことをすると往々にして反対意見が目立つ形になります。サイレントマジョリティ、つまり、賛成意見は声高に聞こえてこないのです。ですが、先に進むためには、小さな実績を一つひとつ積み重ねながら理解を深めて、進めていくしかないと思っています。

――トップダウンで推進していくわけですね。

戸ヶ崎氏:逆です。ボトムアップでないとダメだと思います。確かにスタート時は、トップダウンが多かったです。ICT環境の整備などですね。しかし、それから先はボトムアップでないと、教育改革は継続しないと思います。トップが代わったら終わってしまうようではいけないのです。

 新学習指導要領では、カリキュラム・マネジメントや、社会に開かれた教育課程などが強調されています。これらは教育委員会のトップダウンでは進展しません。学校管理職と教職員とが共通理解を図り、ボトムアップで進めていく必要があります。

 私は、教育改革の推進と同時に、「継続」を特に重視しています。教育で一番難しいのは長続きさせることです。一時の花火を打ち上げるのは比較的簡単ですが、それでは成果を出せないでしょう。せっかく教育委員会も学校も皆が苦労して取り組んでいるわけですから、継続して成果を出したいと考えています。

(文/田島 篤=出版局)

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