近年、世界各国で新しい製品やサービスを生み出し、話題を集める企業には、スタートアップが多い。そのスタートアップの最新動向を知る一つの場になっているのが、毎年、ドイツの首都・ベルリンで開催される「IFA」(今年は9月1~6日に開催)だ。

 IFAはもともと1924年にドイツのラジオ放送の技術を集めた見本市としてスタートした。1930年にはアルバート・アインシュタインが開幕基調講演の壇上に立ち、そのスピーチで「発明こそがデモクラシーを推進する原動力になる」という言葉を残したという。

 その後もIFAはコンシューマーエレクトロニクスやIT・通信、白物家電の領域を取り込みながら世界最大級のエレクトロニクスショーとして進化してきたが、今年は遂に欧州のスタートアップを一堂に集めたテーマ展示「IFA NEXT」が始まったのだ。しかも、IFA本会場の最も大きなホールの1つを使って開催。ドイツや欧州の国々を中心に約130のスタートアップが集まった。その中から、今後、日本に来たら話題になりそうな、ひねりのきいたスマート家電をピックアップしよう。

IFAにスタートアップの出展が増えている
IFAにスタートアップの出展が増えている
2017年から始まった特別展示「IFA NEXT」に欧州から本格派スタートアップが集まった
2017年から始まった特別展示「IFA NEXT」に欧州から本格派スタートアップが集まった

 IFA NEXT は、CESやMWCなど、海外で開催される大規模なエレクトロニクス関連のイベントも、最近は多くのスタートアップを集めている。ただ、IFA NEXTは黒物・白物家電のエッセンスを備えたり、それらの家電と連携したりすることで生活を豊かにするデバイスやサービスが多く出展されていたように感じた。

AIコンシェルジュで好みのコーヒーを

 地元ドイツ・ベルリンのスタートアップ、BONAVERDEが出展していたのはコーヒー豆を焙煎して、挽いてから淹れるまでをワンストップでこなしてしまうフルオートのコーヒーメーカー「Berlin」だ。

 全45種類を販売するコーヒー豆はパッケージにバーコードが貼られていて、そこにはお薦めの焙煎からグラインド、ドリップまでのレシピが登録されている。これをコーヒーメーカーに読み込ませてパッケージをセットすると、約17分でポットがおいしいコーヒーで満たされる仕組みだ。

豆の焙煎からドリップまでフルオートのコーヒーマシン「Berlin」(BONAVERDE)
豆の焙煎からドリップまでフルオートのコーヒーマシン「Berlin」(BONAVERDE)
豆のパック。写真右上の銀色のタグを読み込むと焙煎や挽き方のインストラクションが読み込まれて自動的にベストな味のコーヒーに仕上げてくれる
豆のパック。写真右上の銀色のタグを読み込むと焙煎や挽き方のインストラクションが読み込まれて自動的にベストな味のコーヒーに仕上げてくれる

 このフルオートのプロセスを味気なく感じるという人のために、AI化されたコーヒーコンシェルジュとFacebookメッセンジャーでチャットをしながら、より好みに近い味にカスタマイズされたコーヒーを淹れられるユニークな機能も搭載する。

 タブレットやスマホからコーヒーの濃さ、香りの好みなどコンシェルジュの質問に答えていくと、好みに合うレシピが完成。これをコーヒーマシンが読み込んでユーザーのテイストに合わせた味を引き出す。

 Berlinは現在同社の直販サイトで販売中。価格は799ユーロ(約10万円)となっている。スタッフにたずねたところ日本で取り扱う代理店はまだないそうだ。

さらに味をカスタマイズしたい場合はFacebookメッセージで同社が開発したコンシェルジュAIエンジンと対話しながら好みの味に追い込んでいける
さらに味をカスタマイズしたい場合はFacebookメッセージで同社が開発したコンシェルジュAIエンジンと対話しながら好みの味に追い込んでいける

AlexaコントローラーにもなるLED照明

 ドイツ・ベルリンに拠点を置くスタートアップのSENICは、米Amazonが提供する音声アシスタントサービス「Amazon Alexa」を搭載するスマートLEDライト「COVI」を出展していた。

 2017年のIFAではたくさんのメーカーからAmazon Alexaを搭載するスマートスピーカーが発表されたが、COVIはオーディオ再生機能を持たないAlexa対応のスマートデバイスだ。

 Alexaと連携する単体のスマートLEDライトもたくさん商品化されているが、COVIはライトそのものにAlexaを一体化してしまったところが面白い。オーディオの再生はできないが、ボイスコマンドに応えるための小さなスピーカーは搭載されている。

 COVIに話しかけて、本体の照明の明るさを調節したり、ネットワークにつながっているスマート家電を操作したりすることも可能だ。Alexaを搭載する音楽用スピーカー以外のスマートコントローラーが欲しいという人にお薦めだ。

 こちらは2018年からホームページで先行予約を開始する。価格は未定。現在、取り扱い代理店を募集中だ。

Alexa搭載のスマートLED照明「COVI」
Alexa搭載のスマートLED照明「COVI」

低音を振動で体感できるリストバンド

 LOFELTもドイツ・ベルリンの若いスタートアップだ。同社が革新しようとしているのはポータブルオーディオ再生の体験だ。通勤電車の中など、アウトドアで音楽を聴くときには遮音性の高いヘッドホンを使っていても周囲の環境音に邪魔されてしまい、特に低音のリスニング感が落ちてしまうことがある。

 そこに目を付けた同社はヘッドホンやイヤホンで聴いている音楽の低音を、腕時計のように手首に身に着ける“振動するウエアラブル”「Basslet」で補うという奇想天外な発想をかたちにした。

LOFELTの手首に重低音を感じさせる「Basslet」
LOFELTの手首に重低音を感じさせる「Basslet」

 使用方法はとても簡単で、Bassletの本体と、低域の振動情報だけを送るBluetoothトランスミッターを接続。プレーヤーになるスマホと、ヘッドホンの間にトランスミッターを介するかたちでアナログイヤホンケーブルにつないで音楽を再生する。すると、低音成分だけがトランスミッターからBassletに伝わるという仕組みだ。騒音に囲まれるアウトドアでもディープな低音の響きを体で感じることができるという。

 筆者も試してみたが、ウェアラブルデバイスの振動がかなり強めで、手首が少しむずがゆくなった。もし日本で朝の通勤ラッシュのときにこれを使ったら、周囲に振動が伝わらないか気になりそうだ。ただ、目の付けどころはユニークだ。

音楽を再生するとリストバンドがバイブして、低音のエッセンスをこってりと伝えてくれる
音楽を再生するとリストバンドがバイブして、低音のエッセンスをこってりと伝えてくれる
スマホにケーブルで出力したトランスミッターからリストバンドに振動情報が伝わってくる
スマホにケーブルで出力したトランスミッターからリストバンドに振動情報が伝わってくる

スマートな頭脳を乗せたアラーム時計

 最後に紹介するのがフランス・リヨンに拠点を構えるholiのスマートアラーム時計「BONJOUR」だ。

 BONJOURは、独自のAIエンジンと音声アシスタントを搭載して、ユーザーの生活パターンを学習しながら、より健康的な1日が過ごせる起床時間を自動で設定して起こしてくれる目覚まし時計だ。ちなみに、ユーザーとのボイスチャットを使い込むほどスムーズな会話ができるようになるという機能も搭載されている。

スマートアラーム「Bonjour」。なかの液晶表示に時計やカレンダー、捜査結果などが表示される
スマートアラーム「Bonjour」。なかの液晶表示に時計やカレンダー、捜査結果などが表示される
スマートLED照明をアラームからオン・オフすることもできる
スマートLED照明をアラームからオン・オフすることもできる

 音声アシスタントはAlexaではないが、「Alexaに相当する幅広いスマート家電との互換性が特徴」とスタッフはアピールする。本機はKickstarterにプロジェクトが公開されており、既に目標の投資金額を達成。2017年10月から先行予約購入分の発送を開始する。

 フランスでは政府がハイテク産業企業をバックアップする「フレンチ・テック」のプロジェクトが好調であるためか、同社のようなスタートアップがIFA NEXTにも数多く参加していた。会場のにぎわいぶりから、2018年はIFA NEXTの規模もさらに拡大するのではないだろうか。

(文/山本敦)

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