9月21~24日まで千葉・幕張メッセで開催中の東京ゲームショウ2017では、新興ゲームを表彰するアワード「センス・オブ・ワンダー・ナイト2017(SOWN2017)」が開催された。今回で記念すべき10回目を迎えたこのアワードは、個人やベンチャー企業のゲーム開発者にスポットライトを当て、新しいゲームのアイデアを発掘することを目的としたものだ。
最も栄誉ある賞「オーディエンス・アワード」は、魚を題材にした本格派3Dシューティングゲーム『ACE OF SEAFOOD』がもぎ取った。
選考は9人の選考委員と、会場に集まった一般の来場者によって行われる。ノミネート作品の開発者が、アワードの会場でゲームのコンセプトや開発のポイントなどを伝えるプレゼンテーションを行い、選考委員と来場者に作品のアイデアをアピールする。
会場に集まった一般の来場者にはあらかじめ音の鳴るハンマーが渡されており、開発者のプレゼンテーション中に驚いたり面白いと感じたりすると、一斉にハンマーを鳴らす。ハンマーの音の大きさがすなわち、支持率を示すわけだ。オーディエンス・アワードはその名の通り、来場者が最も大きくハンマーを鳴らして、支持を得たと判断された作品が選ばれるのだ。
300作品のうち64作品を展示中
今年は300作品の応募があった。その中から選ばれた64作品は、東京ゲームショウの会場に出展されており、実際に体験できる。アワードでは展示されている64作品のうち、さらに優秀な8作品を選出。各作品の開発者がプレゼンテーションを行った。
オーディエンス・アワードを受賞した『ACE OF SEAFOOD』は、機体を操って、迫り来る敵をレーザービームで撃ち落していくシューティングゲーム。ただし、操る機体は飛行機や宇宙船ではなく魚介類という一風変わった視点で開発されている。レーザービームを“搭載した”イワシやカニを操って、迫り来るマグロやサメといった大型の魚を撃ち落して進んでいく。スマートフォン向けアプリや、任天堂「Wii U」のダウンロードサービスなどで利用できる。
プレゼンテーションでは、ゲームを開発した大貫真史氏が「魚介類に敬意を払い、生態の特徴をゲームの取り入れている」と説明した。例として、小魚は個々が標的になることを避けるために群れるという習性を取り入れて、他の魚が食べられている間に、遠くから迎撃するといった戦術を紹介。すると、会場は大きな笑い声で包まれ、同時にハンマーの音が大きく鳴り響いた。
また、コンセプトだけを聞くとコミカルなゲームを想像されるかもしれないが、実際は機体の魚視点で進む本格的なファーストパーソン・シューティングゲームとなっている。それゆえ、同作品は最も技術力のあるゲームを表彰する部門賞「ベスト・テクノロジカル・アワード」も同時に獲得している。こうした、アイデア面と技術面の両方が評価されて、大きな支持を得たことが、受賞につながった。
開発者の大貫さんに受賞のポイントを聞くと、「見た目のインパクト、絵面において独特の世界観を目指してゲームを開発した。そのコンセプトがようやく受け入れられた」と笑顔で語った。
開発3カ月、構想は0.1秒
『ACE OF SEAFOOD』と大賞を争ったものの、わずかに及ばなかった作品が『EARTH DEFENSE SATELLITE』だ。同作品は「ベスト・プレゼンテーション・アワード」を受賞している通り、開発者のニカイドウレンジ氏による笑いと緊張感を織り交ぜたプレゼンテーションが、会場からの大きな支持につながった。
『EARTH DEFENSE SATELLITE』は、ニカイドウ氏が3カ月をかけて1人で開発した。ところが、「構想にかけた時間は0.1秒」(ニカイドウ氏)と、開口一番で笑いを誘うと同時に、ハンマーの音がけたたましく鳴り響いた。
ゲームの内容も独特だ。コンセプトは「侵略を狙う宇宙人の戦艦から地球を守る」というもの。この説明だけでは一見、普通に思えるかもしれないが、地球を守るのは地球自身だ。地球を動かすことで遠心力を働かせて、衛星である月をうまく動かし、戦艦にぶつけて破壊することで防衛する。パソコンでダウンロードして利用できる。
なぜ、このような仕組みを思いついたのか。ニカイドウ氏が「地球はそれ自体が大きな生命体である」とするガイア理論を引き合いに出し、「生命体であるならば、自分自身は自分で守るべきと考えた」と、独自の感性で説明すると、ハンマーの音が一段と増した。
さらに、プレゼンテーション中に実際にゲームをプレーをしながら、内容を紹介。最後の敵は全方位からレーザービームを放射してくる強敵。「ぶっつけ本番」(ニカイドウ氏)という緊張感の中、見事に撃退すると会場からは大きな歓声が上がった。
ニカイドウ氏は受賞後に「利用者からは非常に難易度が高いゲームと評価されている。自分自身は開発過程で何度もプレーしているためコツはつかんでいるが、それでもミスしたら1回で終わってしまう。そうした緊張感の中、ピンチも演出しつつ、最後までやり切れたことが良かった」と安堵の表情をのぞかせた。
クリエーターに直接聞いてみたい作品が多い
また、海外勢として、スペインや米国などから応募された3作品がノミネートされた。そのうち、「ベスト・アーツ・アワード」に選ばれたのが、オーストリアに拠点を置くゲーム開発会社Broken Rulesが開発した『Old Man's Journey』だ。
『Old Man's Journey』は、1人の老人の旅をテーマにしたパズルゲーム。老人はパズルを解いて道を作り、旅を進めていく。旅の途中では老人が若かりしころの回想が映像として差し込まれ、老人の過去が徐々に明らかになっていくストーリーとなっている。
同ゲームはBroken Rulesの創業メンバーが結婚して、子供を持ち、仕事と私生活のバランスに悩む中で生まれた。同じような悩みを持つ人は世界中におり、そうした人生の苦労をテーマにすれば大きな共感を得られると考えたのが開発のきっかけだそうだ。このような世界観や、回想シーンの映像の美しさといった芸術性が評価されて、ベスト・アーツ・アワードの受賞となった。
選考委員を務めたソニー・インタラクティブエンタテインメントのジャパンアジア戦略企画部ビジネスプランニング課の多田浩二課長は「今年はゲーム性自体が珍しいものは少なかった。一方で、実際にやってみるとパズルでありながら、ストーリーを重視するようなゲームもあるなど、クリエーターがなぜそうした表現をしたいと思ったのかを直接、聞いてみたい作品が多かった」と今年の傾向を振り返った。
最後に司会進行を務めたジャーナリストの新清士氏が「来年も遊びにきてくれますか?」と会場に問いかけると、一斉に同意のハンマーが鳴らされて、幕を下ろした。
そのほか受賞作品は以下の通り。
・ベスト・エクスペリメンタル・ゲーム・アワード:『Strange Telephone(HZ3 Software)』
・ベスト・テクノロジカル・アワード:『ACE OF SEAFOOD(Nussoft)』
・ベスト・ゲーム・デザイン・アワード:『Conga Master(Undercoders)』
・ベスト・アーツ・アワード:『Old Man's Journey(Broken Rules)』
・ベスト・プレゼンテーション・アワード:『EARTH DEFENSE SATELLITE(ニカイドウレンジ)』
・オーディエンス・アワード:『ACE OF SEAFOOD(Nussoft)』
(文/中村勇介=日経トレンディネット、写真/中村宏)