東京ゲームショウ2017 ビジネスデイの2017年9月22日に行われた「TGSフォーラム」専門セッションでは、慶應義塾大学大学院 メディアデザイン研究科 准教授の南澤孝太氏によって「『触感』で進化するゲーム体験」と題した講演が行われた。

「『触感』で進化するゲーム体験」講演の様子
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 南澤氏は昨年開催された東京ゲームショウ2016の企画展示「エンタテインメントの未来」に出展したさまざまな触感体験を最初に紹介した。

慶應義塾大学大学院 メディアデザイン研究科 准教授の南澤孝太氏
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 PS4+PS VR向けタイトル『Rez Infinite』とライゾマティクス社とのコラボプロジェクトによって生まれた「シナスタジア・スーツ2.0」は、「『Rez Infinite』の感覚を触覚として感じるというゲーム体験を目的に開発した」(南澤氏)という。

東京ゲームショウ2016の企画展示「エンタテインメントの未来」に出展された「シナスタジア・スーツ2.0」の体験の様子
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 VR(仮想現実)のアイデアはMIT(マサチューセッツ工科大学)の研究者であったアイヴァン・サザーランド氏によって約50年前の1968年に生まれた。まだパソコンすらない当時、サザーランド氏は「(VRの世界は)いずれリアルな映像になるだろうと予言した」と南澤氏は語る。

 南澤氏はさらに続ける。

 「会話でコミュニケーションしたりできるようになると、モノからのインタラクション(対話)として力やテクスチャー、触感などが重要になるのではないか。そうするとコンピューターの世界の中で、現実世界にはできないような物理法則も実現できるだろう。これはもはやアリスの『不思議の国』のようなワンダーランドではないかと50年前に予言した」

 現在、ゲーム機やアトラクションなどでVRが盛んになっているが、現状ではさまざまな機器を装着するため体を自由に動かすことが難しく、走り回ったり飛び回ったりできない。それができるようになると、「人間の可能性を広げられるのではないか、あるいは人と人をつなげられるのではないか」(南澤氏)という。

 そこで重要になるのが「触覚」というわけだ。

 「映像を見ただけでは、人はそこにそれがあると信じることはできない。しかしそこでものをつかんだり、持ち上げたりできたら、確かに存在するんだと感じることができる」(南澤氏)

 南澤氏は、子供でもいろいろなコンテンツを体験できるだけでなく、子供たちが自分自身で触覚を使ったコンテンツを作り出せるようにするために2011年に作った「TECHTILE toolkit(テクタイル・ツールキット)」を紹介した。音声信号を用いることで、触感の記録と再生が手軽にできるというものだ。

紙コップに砂やビー玉を入れるときの触感を再現する「TECHTILE toolkit(テクタイル・ツールキット)」(東京ゲームショウ2016の展示より)
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 物体を指でさわるときに指と物体との間に振動が生じるため、その振動を記録することでさわり心地を再現できる。音声信号で伝送すれば、テレビの音声信号でスポーツ中継やテレビドラマの中で生じる触感を伝送するといったことも原理的には可能になるという。

 触感を再現することは「障害者にとっての価値もものすごく大きい」と南澤氏は語る。

 「目の見えない方や耳の聞こえない方がゲームやエンタテインメントを体験するのは非常に限られる。しかし耳の聞こえない方でも触覚を再現することでダンサーの足踏みのリズム、すり足の感覚などの感覚が伝わる。音楽のリズムは分からなくても、視覚と触覚によって新しい体験ができるようになる」

 触覚は「実感」を得るうえでも重要になる。

 「『触覚』=『質感』というのが共通認識だが、それだけではない。自分自身がここにいるというのは床を踏みしめている感覚、何かにぶつかった感覚、空気の流れを皮膚で感じる感覚などで得られる。皮膚感覚が失われる病気があるが、自分が本当にここにいるか信じられなくなるという。ものがあっても持ち上げた感覚がないので、周りが本物で自分がゴーストになったみたいだと聞いた。それはVRでも生じる。(ものを持つ感覚がないと)自分の存在感がやはり薄れてしまう。そこで触覚、身体感覚を適切に伝えることで、実感を生み出すことができる」(南澤氏)

 VRゲームだけでなくさまざまなコンテンツなどでリアリティーを追求するため、今後は「質感・実感・情感をデザインする『Haptic(触感)デザイナー』がこれから生まれてくるだろう」と南澤氏は語った。

講演終了後には多くの受講者が「TECHTILE toolkit」を体験していた
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(文/安蔵 靖志、写真/中村宏)