東京ゲームショウ2017の「ゲームスクールコーナー」(展示ホール2~3)にある神奈川工科大学ブースでは、記者が自分の子供のみならず、世の中の多くの子供達にぜひ体験してもらいたいと感じた「地味だが生きていくうえで必要不可欠な知識」が身に付くVRゲームをデモしている。「避けチャリます」という自転車事故体験VRゲームがそれ。

神奈川工科大学ブースでデモしている自転車事故体験VRゲーム「避けチャリます」
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 「避けチャリます」は、同大学に通う学生達が「ゲームクリエイター特訓」と呼ぶ授業を通じて作成したVRゲーム。課題として出された二つあるテーマのうちの一つ、「現実問題解決型ゲーム」に対応したゲームとして作成された。作成したのは、情報学部情報メディア学科に在籍する武藏島雄理氏ら6人のチーム。2017年2月ころから開発を始め、実質4~5カ月で完成させたという。

開発を手がけたチームの一人、情報学部情報メディア学科の武藏島雄理氏
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 自転車事故という題材を選んだ理由は、「実際に普段、自分が自転車で車道を走っていて、左折時の巻き込みや一時停止無視などによる危険なシチュエーションをたびたび体験したり目撃したりしており、『この怖さをゲームで伝えられないか』と考えた」(武藏島氏)からだそうだ。

 ブース内で展示しているシステムは、本物の自転車とセンサー類、VR HMD(台湾HTC社の「Vive」)、VRアプリを組み合わせた構成になっている。自転車のハンドルを左右に動かすと、センサー(Viveトラッカー)を通じてVR空間内の自転車も同じように動く。

中央に取り付けたViveトラッカーで自転車のハンドルをコントローラー化
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 同様に、ブレーキをかけると磁気センサーを通じてその挙動がゲームアプリに入力され、VR空間内の自転車にブレーキがかかる。ただVR空間内の自転車を動かすだけなら、ゲーム機のコントローラーでも構わないのだが、「なるべく現実に近づけることで、多くの人に自転車事故の本当の怖さが伝わるようにしたい」という意味合いもあって、このような構成にしているそうだ。なお、ペダルについては自分でこぐ必要はなく、VR自転車側はゲーム中一定速度で自動的に進むようになっている。

磁気センサーでブレーキ入力を読み取る
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 VR HMDを装着して「避けチャリます」を起動すると、自分がVR自転車に乗った状態で市街地の車道上に現れる。

ゲームを起動すると、自分がVR自転車に乗った状態で市街地の車道上に現れる
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 この状態になったらもはや一瞬も気を抜いてはいけない。前方をしっかり見つつ、必要に応じて頭を動かして左右や後方を確認したりブレーキをかけたりしながら慎重に走らせなければならない。気を抜いて必要な操作や確認を怠ると、すぐに車にひかれるなどして“あの世行き”(ゲームオーバー)だ。

気を抜くとすぐにゲームオーバー
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 実際にプレーしてみると、かなり頻繁にゲームオーバーになり、「こんなに危険だと、いくら道路交通法で『歩道と車道の区別があるところでは、自転車は原則、車道の左側に寄って通行しなければならない』と決められていると言われても、怖くてとても無理だ」と感じてしまう。最初は普段自転車に乗らない記者が下手なだけかと思ったが、ブースを訪れた他の人のプレーを見ていても特に大きな差は感じない。

 実はこれには理由があった。「こういうタイプのVRアプリでは、操作感をはじめはなるべく現実に近づける必要がある。ただし、“リアルにし過ぎる”のも問題。現実では多少気を抜いてもそれほど頻繁には重大事故に巻き込まれないため、怖さを感じるどころか、ただのサイクリングシミュレーションゲームになってしまう」(神奈川工科大学 情報メディア学科の中村隆之特任准教授)。武藏島氏によれば、ゲーム開発に当たっては、このあたりの調整のさじ加減が難しかったという。

 今回の「避けチャリます」は自転車と自動車が絡む事故を扱うゲームだが、中村特任准教授によれば、今後の展開として当然、自転車と歩行者間の事故を扱うことも視野に入れているという。「自分の頭を動かして後方確認などができるVRは、今回のような題材を扱うのに最適。ゆくゆくは、各地の交通安全イベントなどでもこうしたVRアプリが使われるようにしていきたいという。

(文・写真/斉藤 栄太郎=nikkei BPnet)