幕張メッセで開催中のゲームの祭典「東京ゲームショウ2016」。9月16日のビジネスデー「女性活躍推進セミナー」には、恋愛ゲームのパイオニアであるボルテージの取締役副会長・東奈々子さんが登壇しました。テーマは「ゲーム業界で女性の活躍を推進するためには」。男性が多いゲーム業界で優秀な女性の人材を集め、マネジメントするにはどうすればよいのか。また女性がゲーム業界で結婚・出産を経て働き続けるためには、どんな心構えを持てばよいのか。ゲームビジネスにおける女性活躍推進のヒントについてお話しいただきました。

ボルテージ取締役副会長の東奈々子さん
ボルテージ取締役副会長の東奈々子さん

 ゲーム業界に「胸キュン」旋風を巻き起こしているボルテージは、東さんが夫婦で創業後、わずか15年で年間100億円の売上高を稼ぎ出す成長を遂げました。累計利用者数は全世界で5000万人にものぼり、現在では459人の社員を抱える注目企業です。

 ゲーム業界では女性の開発者比率は1割台という低さの「男性職場」が多く、長時間労働が前提の職場環境や女性のロールモデルがいないという課題を抱える企業が少なくありません。そんな中で3人の子どもを育てる東さんは「女性が働きやすい職場」を目指して同社の制度・風土作りに取り組み、今では女性社員が57.9%と過半数以上を占め、女性管理職比率は36%(2016年6月末)という高さを達成しました。

 その過程では、子会社設立を目的とした3年間の米国生活の中で、シリコンバレーで目にしたIT企業の働き方に大きな影響を受けたのだそう。「『男女、人種など多様な社員』『仕事の範囲や指示報告ラインの明確化』『時間給より成果給』などの必要性を実感しました」(東さん)

 東さんは「育児をしながら仕事を続けられない」と退社を選択することがないよう、女性の就業継続率を上げるために見つけ出した答えの一つに「出世や評価のイメージを変えていくこと」があるといいます。同社では女性が働きやすいキャリアパス設計を検討中で、「部下がつき、役職がつくライン以外に、職能で評価される『出世』があってもよいと考えています」とそのイメージを語ります。

 このほか、産休・育休や介護などで長期休暇を取るリーダーのポジションを代理で部下に任せる「サブステ制度」や、10カ月未満で復帰した場合には月給2カ月分の支援金を付与する「早期復帰支援金」制度などの施策を次々と実施。「子育て中の女性は残業などの長時間労働ができない…」という現場からの声には、フレックス勤務やテレワークを導入するほか、時間を必要以上にかけすぎる「過剰品質」の是正なども積極的に指導しているのだとか。

 一方、女性部下のモチベーションを上げるためには、本人の「得意分野」を伸ばすことがカギとなるそう。「チームの中での役割・期待を明確に伝えることが効果的です。上司が『見ているよ』とメッセージを送ることも重要です」

 また入社4~6年目ぐらいに多い残業・休日出勤もいとわない「仕事全力型」社員への目配りもポイントだとか。「周囲の社員が育休などで不在のときに、この社員たちに不満が溜まると組織全体のモチベーションの低下につながってしまいます。評価を伝えるとともに不満に感じている課題について、『どうしたらいいと思う?』などと一緒に解決策を考えることも有効です」

「時には男性の働き方を参考にすることも必要」

 一方、働く女性たちに対しては「男性の働き方を良く観察して、良いところも悪いところも参考にしてみてください」と東さんは語ります。

 「男性の仕事に対するゲーム感覚を見習ってみてほしいのです。真面目に背負い込みすぎず『たかだか仕事』という意識を持つことも、時には大事なこと。人間関係の悩みから一歩引いたり、自分の『手柄』をしっかり主張したりすることも、自分を追い詰めないために知っておいてほしいポイントです」

 そして同時に、男性と同じ働き方を目指さないことも必要だといいます。「何時間でも働く昭和な働き方を変えていく意識は持ってほしい。それには、子育てなどの事情がなくて可能でも『土日も働けます!』と手を挙げることはやめてみる。終わりの時間を決めてパフォーマンスを上げることが『自分らしい働き方』を実現する第一歩となります」

 そして長く働き続けるためには、「自分の居場所を作ること」にも目を向けてほしいと東さんはアドバイスします。「それには、『一目置かれること』を意識してみてください。何でもいいからスペシャリティを持つ。自分の差別化できるポイントを見極めて、周囲にアピールしていきましょう」

 また仕事を数字で語れることも武器になるのだとか。「成果をどう上げて、どう分析していくかを考えるときに、数字に強い社員は重宝されます。例えば、ディズニーランドに行ったときに『今日の入場者数は○万人ぐらいかな、入場料はいくらで、お土産は一人あたりこのぐらい買うだろうから……1日でこんなに儲かるんだ』と計算してみる。そういった数字のトレーニングを積み重ねて感覚を磨けば、さまざまな仕事のシーンで役に立つはず」

 最後に、参加者に「マイペースであれ」とメッセージを送ってくださった東さん。「周囲のさまざまな意見や過去の前例などにいったん目をつむって、自分自身の声に耳を傾けながら、最適な働き方をぜひ模索してみてください」と講演を締めくくりました。

満席の会場では熱心にメモを取りながら聞き入る参加者の姿が見られました
満席の会場では熱心にメモを取りながら聞き入る参加者の姿が見られました

(文/梶塚美帆 写真/柴田進)

※日経ウーマンオンラインから転載
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