ソニー社長兼CEO平井一夫氏。1960年生まれ。84年CBS・ソニー(現ソニー・ミュージックエンタテインメント)入社。97年ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCEI、現ソニー・インタラクティブエンタテインメント)執行役員、2006年SCEI社長兼グループCOOなどを経て、12年4月から現職
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 2018年3月期の連結営業利益で20年ぶりに過去最高を見込むソニー。不振のさなかにあった2012年に社長に就任した平井一夫氏は、復活に向けて、何を変えて何を変えなかったのか。「平井マジック」の要諦を聞いた。

商品自体の魅力で勝負する

 私がソニーグループに入社したのは1984年。その当時は、他にはない面白い商品やサービスがいっぱいありました。しかし、あるときからだんだんと、価格を含めて他のメーカーを意識して戦い始めるようになった。そのため、ハードの技術開発がスローダウンし、差別化ができなくなっていた。これが、社長になる以前から感じていたソニーの問題点でした。

 ソニーらしい商品やサービスとは何か。ひと言で言うと、「感動を生むもの」です。お客様に「これ、すごいね」と感動してもらえるような技術やデザインを込めたものでなければいけません。それをまず、皆で徹底していく。そのうえで、「量」ではなく、商品自体の魅力で勝負する。

 マーケットシェアが大事だとよくいわれますが、規模を追うと必ず価格競争に陥り、商品もブレていく。規模を追う戦略から転換したテレビ事業が回復したことが、この戦略の正しさを証明していると思います。

 エレクトロニクス、エンターテインメント、金融、半導体……ソニーにはいろいろなビジネスがあります。改革に当たって、皆が同じ方向に向かっているんだという認識を共有することが大事だと思い、「One Sony」というスローガンを打ち出しました。同じ方向とは、繰り返しになりますが、「感動ビジネスをする」ということです。重要なのは、グループ内の情報を皆でシェアすること。そのうえで対話が生まれることです。

社長直轄で新規事業を育てる

 イノベーションにはいろいろな意味と形があります。例えば、テレビやカメラ、スマホ、ゲーム機といった既存事業をどんどん新しいものに変え、徹底的に深掘りすることが一つ。さらに、従来にはない斬新なアイデアやビジネスモデルを形にすることも一つです。

SAPからは香りを持ち運べる「AROMASTIC」などの新機軸製品が誕生
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 しかしそれは、既存の枠組みでは難しい。そこで、アイデアを広く公募し、オーディションを通じて新規事業の種を育てる「SAP(Seed Acceleration Program)」や、従来の事業部の枠に縛られない「TS事業準備室」をつくりました。

TS事業準備室は新技術をいち早く取り入れて製品化。写真は音を360度に広げるグラスサウンドスピーカー
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本社に社内外の人が集まれる交流の場を設置

 ソニーが小さかった昔は、エンジニアが上司に黙ってこっそりとプロトタイプを作り、そこそこ形になってから、「実はこんなことをやっていました」と見せて製品化につながったという、「伝説的」な事例が少なからずありました。今は予算管理もきっちりしていますので、隠れてやるのは難しい。だから、会社が公に認め、社長もサポートするSAPのようなシステムが重要。新しいイノベーションのつくり方だと思います。