先日、米宇宙開発ベンチャー、スペースXのイーロン・マスクCEOが火星移住計画を発表するなど、宇宙進出や惑星移住が徐々に現実味を帯びてきた。宇宙開発の分野で活用が広がっているのが3Dプリンターだ。世界の名だたる建設会社や設計事務所は、3Dプリンターを活用して、宇宙建築の研究を進めている。

 バブル経済華やかかりしころ、建設業界では「宇宙ホテル」や「軌道エレベーター」など、SF映画のような巨大プロジェクトの構想が次々と立ち上がった。世界的な景気の冷え込みなど資金面の厳しさを受けて、それら計画はいつか非現実的として技術者たちの夢にとどまっていた。しかし、「宇宙建築」を研究してフロンティアの開拓を目指す人々の熱意は冷めていなかった。

 日本では東急建設が、月面に拠点をつくる際に、現地にある「レゴリス」(地表を覆う砂などの堆積物)などを活用して建築資材を生産する「地産地消型宇宙建築」の研究を近年に本格化している。宇宙開発で先行する米国では、マサチューセッツ工科大学(MIT)やコロンビア大学の授業で、設計演習のひとつとして宇宙建築に関する研究を続けている。

東急建設が研究を進めてきた月面で建築資材を現地生産する技術のイメージ(資料:東急建設)
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宇宙基地を3Dプリンターで建築する時代に

 そんな宇宙建築の中で、存在感を高めているのが3Dプリンターだ。建築業界では、3Dプリンターを模型の作成で活用してきた。複雑な立体構造を再現できる3Dプリンターは、建築家の想像力を具現化する武器となったのだ。その活用範囲は広がりを見せており、近年では建設現場への導入も始まっている。例えば、オランダのアムステルダムでは、溶接機のような3Dプリンターを用いた鉄橋を架設している。中東のドバイでは今年、3Dプリンターだけで建設した低予算のビルが完成した。こうした技術が宇宙建築でも応用できないかと検討が始まっているのだ。

 2015年秋には、米航空宇宙局(NASA)が2035年ごろの実現を目指す火星有人探査基地のコンセプト設計コンペを開催した。「3D Printed Habitat Challenge」と銘打ったこのコンペは、3Dプリンターの活用が肝となった。火星に存在する材料を生かし、4人が1年間暮らせる約90平方メートルの住居を3Dプリンターで建設することが条件だった。世界から集まった165件のアイデアのうち、1位に選ばれたのは日本人2人を含む米国の建築家グループ(Clouds Architecture OfficeとSEArchで構成)。平均気温が氷点下43℃という火星の極寒の環境を逆手にとり、水を材料に3Dプリンターで氷の外壁をつくる斬新なアイデアを提案したのだ(関連記事:NASA火星基地コンペに勝った日本人建築家)。

NASAの火星有人探査基地のコンペで優勝した作品。氷で外壁をつくり、地表から芽が出たようなイメージでデザインとなる。氷の壁の内部では居住空間の温度が20℃ほどに保たれる(資料:Clouds AO/SEArch)
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