ソニーは2017年秋、ヘッドホンやスマホ、カメラで、数々の新製品を発表した。その意図はどこにあるのか? ドイツ・ベルリンの家電見本市「IFA 2017」を取材したAV評論家、折原一也氏が分析する。

 IFA 2017でハイエンドヘッドホン・イヤホン「1000Xシリーズ」、1型CMOS搭載の超小型カメラ「Cyber-shot DSC-RX0」、スマートスピーカー「LF-S50G」、スマートフォン「Xperia XZ1」「Xperia XZ1 Compact」をはじめとした多数の新製品を発表したソニー。IFAのプレスカンファレンスに登壇した同社ヨーロッパ社長の粂川滋氏からうかがえるのは、ソニーが経営方針として制定している「プレミアム市場」への攻勢の成功だ。

同社のプレスカンファレンスに登壇したソニーヨーロッパ社長の粂川滋氏
同社のプレスカンファレンスに登壇したソニーヨーロッパ社長の粂川滋氏

有機ELテレビが売れている!

 テレビは今回、新製品の発表はなかったが、上記プレスカンファレンスで冒頭を飾ったのは、実は薄型テレビのOLED(有機EL)モデルである「BRAVIA OLED A1シリーズ」の成功だ。

 日本の報道陣に明かされた内容によると、55インチにおけるOLEDの割合は56%、60インチ以上における割合も39%と、ハイエンド薄型テレビはすでに有機ELの優勢に傾きつつある。さらにソニーは、有機EL・液晶テレビ全体としても55インチ市場におけるシェアは70%、65インチでも60%となり、薄型テレビはシェアを10%程度に保ちつつ利益の出る体制を確立した。

プレスカンファレンスの冒頭を飾ったのは日本でも発売中の「BRAVIA OLED A1シリーズ」
プレスカンファレンスの冒頭を飾ったのは日本でも発売中の「BRAVIA OLED A1シリーズ」
有機ELテレビは「プレミアムセグメント」を狙って成功
有機ELテレビは「プレミアムセグメント」を狙って成功

 IFA 2017で超小型「RX0」を発表したカメラ市場も、ソニーとして高付加価値製品が伸びている分野だ。(関連記事は「ソニー「RX0」 1型CMOS搭載でも超小型、防水&耐衝撃」)。

 特にハイエンド一眼カメラ「α9」の発売により、フルサイズ一眼カメラ市場におけるブランドシェアでソニーは欧州で31%と2位に浮上、さらにドイツ、スペイン、スイス、オーストリアでは市場1位を獲得した。欧州では従来タイプの一眼レフの割合が落ちる一方、ソニーが得意なミラーレス一眼が前年比10%以上の割合で伸びを示している。

 なお、レンズ交換タイプ以外のデジカメ製品は市場全体として見ると前年比2桁減が続いているが、セグメント別にみると、ソニーの注力するプレミアムコンパクトデジカメ「RXシリーズ」の市場は伸び続けている。

イメージングでは超小型のデジカメ「RX0」を発表
イメージングでは超小型のデジカメ「RX0」を発表
ビジネスとしてはフルサイズ一眼とプレミアムコンパクトが堅調
ビジネスとしてはフルサイズ一眼とプレミアムコンパクトが堅調

ハイレゾより「騒音カット」「外音取り込み」に力点

 ヘッドホンについても、今秋、ワイヤレスの新製品、1000Xシリーズを発表したきっかけにもなった先代モデル「MDR-1000X」が欧州でもヒット。もともとソニーは、欧州ではヘッドホン・イヤホンの台数シェアが1位だったが、今年6月から金額ベースのシェアでも1位を確保した。

 IFA 2017では新たに1000Xシリーズとして、オーバーヘッド型ヘッドホンの「WH-1000XM2」に加えて、首掛け仕様のワイヤレスイヤホン「WI-1000X」、そしてソニーとして初の製品となる左右独立の完全ワイヤレスイヤホン「WF-1000X」を展開。まさにヘッドホン・イヤホン市場におけるプレミアムセグメントを押さえにいく。

 上記の新製品は、他社製品との違いとして、騒音をカットするノイズキャンセルと共に、話す声などを外の音を選択して取り込む機能も搭載している。これらの機能が、ソニーの今後の高付加価値戦略の成否を占うキーワードとなりそうだ。

ワイヤレスでノイズキャンセル機能を搭載したヘッドホン・イヤホン、1000Xシリーズが目玉に
ワイヤレスでノイズキャンセル機能を搭載したヘッドホン・イヤホン、1000Xシリーズが目玉に
左右独立の完全ワイヤレスイヤホン「WF-1000X」
左右独立の完全ワイヤレスイヤホン「WF-1000X」
ソニーブースでは空港や航空機を模したブースでノイズキャンセルをアピール
ソニーブースでは空港や航空機を模したブースでノイズキャンセルをアピール

 なお、同社が以前から力を入れていた「ハイレゾ対応」については、同社の発表会では特別な言及はなかった。高音質で音楽を楽しむマインドは全世界的に高まりつつあるものの、欧州では音楽ストリーミングサービスが主流となるなかトーンダウンした感も否めない。

IFA 2017では、ウォークマンにも、新しいAシリーズである「ZX300」を出展
IFA 2017では、ウォークマンにも、新しいAシリーズである「ZX300」を出展

スマートスピーカーではどう攻める?

 同社は、Googleアシスタント対応のワイヤレススピーカー「LF-S50G」も発表した。IFA 2017ではアマゾンの音声アシスタント「Alexa」と合わせたスマートスピーカーが多数出展されていたが、ソニーとしてはあくまで「音楽再生」の立場からスピーカーに音声アシスタントを組み込むという現実的なアプローチ。他社のように「白物家電も含めてスマートホームの一部とする」といった構想は、同社にはまだ先のようだ。

Googleアシスタント対応のワイヤレススピーカー「LF-S50G」
Googleアシスタント対応のワイヤレススピーカー「LF-S50G」
ソニーブースでは、音声で指示すると音楽を流す機能をデモしていた
ソニーブースでは、音声で指示すると音楽を流す機能をデモしていた

 最後にスマホでは「Xperia XZ1」「Xperia XZ1 Compact」も発表。4.6インチの小型モデルであるXperia XZ1 Compactも含めて「Snapdragon835」搭載、さらに「3D Creator」というカメラによる3Dスキャン機能も搭載し、ハイエンドスマホとして引き続き差異化を図っていく。(関連記事は「Xperiaハイエンド機、2機種を発表 カメラがより充実」)

「Xperia XZ1」「Xperia XZ1 Compact」も発表
「Xperia XZ1」「Xperia XZ1 Compact」も発表
スマホのカメラのみで3Dモデルを生成できる「3D Creator」
スマホのカメラのみで3Dモデルを生成できる「3D Creator」

 今回の発表を全体としてみると、ソニーらしい新機軸の製品を出していくという感じではなかった。むしろプレミアムセグメントでの高付加価値戦略が成功したことを受けて、成功した分野でさらなる攻勢を仕掛けていく姿勢を鮮明にしたといえそうだ。

(文/折原一也)

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