シャープが広島東洋カープのファン向けに開発した野球応援用の時計型ウエアラブル端末「funband(ファンバンド) 広島東洋カープモデル」。6月に1000台限定で発売するとあっという間に完売し、8月から本格販売を始めた。ネットなどでの反響も大きく、すぐにソフトバンクホークスモデル、横浜DeNAベイスターズモデルを追加。現在は3球団4モデルがそろった。さて、どんな楽しみ方ができるのか。広島県出身のカープファンが試してもらった。

 funband 広島東洋カープモデルは、カープを象徴する真っ赤なバンドに液晶がついており、Bluetoothでスマートフォン専用アプリ(月額120円・税込み)と連携。設定には、「試合通知」と「球場・テレビ観戦」の2つのモードがあり、通知モードでは試合中にブルッと振動してディスプレーに試合状況を表示したり、カープカラーの赤色のLEDでチャンスを、青色のLEDでピンチを知らせたりする。

カープを象徴する赤いバンドが特徴の「funband 広島東洋カープモデル」(左)。あとからホームカラーの白も追加された。価格はいずれも1万円。広島県の「ゆめタウン」「ゆめマート」各店、広島市内の一部電器販売店で販売
カープを象徴する赤いバンドが特徴の「funband 広島東洋カープモデル」(左)。あとからホームカラーの白も追加された。価格はいずれも1万円。広島県の「ゆめタウン」「ゆめマート」各店、広島市内の一部電器販売店で販売

 球場・テレビ観戦モードでは、過去の対戦履歴など、テレビ中継や球場のバックスクリーンには表示されない情報や選手への応援メッセージを表示するという。このほか、腕の動きをモーションセンサーが感知して、応援ポイントに換算、ユーザーによる選手の人気投票に使える機能もある。

funbandは専用アプリと連携。データスタジアムの情報を基に試合の経過を表示する。画面下の「盛り上がり」は、funbandのモーションセンサーで感知したユーザーの腕の動きを集計し、グラフ化したもの
funbandは専用アプリと連携。データスタジアムの情報を基に試合の経過を表示する。画面下の「盛り上がり」は、funbandのモーションセンサーで感知したユーザーの腕の動きを集計し、グラフ化したもの
応援ポイントはユーザーによる選手の人気投票に使える
応援ポイントはユーザーによる選手の人気投票に使える

広島の事業所がカープに貢献できる喜びで開発した

 funband カープモデルができたのは、シャープの事業所が広島にあるのがきっかけの1つだ。事業所には当然のようにカープファンが多く、開発にかかわったIoT通信事業本部IoTクラウド事業部サービスマーケティング部の和田山稔課長は、「皆、カープに貢献できるという喜びでいっぱいで、開発の苦労も苦にならなかった」と満面の笑みで話す。

 一般的にスポーツ関連の情報は、試合の展開や結果を客観的に淡々と伝えるものが多いが「funbandとそのアプリは超が付くカープびいき。球場に行けなくても、野球中継を見られなくてもファン同士がつながる道具になってほしい」(和田山課長)という思いで開発したそうだ。

 周囲の野球好きにこの話をしてみると、他球団のファンの中にも「欲しい」という人は多い。食いつきが良かったのは意外にも女性ファン。「友人と食事をしているときにも試合が気になる。スマホのスポーツニュースアプリなどでチェックするんだけれど、食事中にしょっちゅうスマホを見るのも友人に悪いから、もっとさりげなく知らせてくれるグッズがあればいいのに」(ドラゴンズファン)という。そこで、実際にカープファンに試してもらった。

広島県人は、野球に興味がなくてもカープファン

 今回協力してもらったカープファンは、広島県出身の30代女性。本人曰く「野球自体に興味はないが、カープファンにはならざるを得ない環境で育った」という。「実家の近くにある個人商店は、カープが勝った翌日はセールをしているから、幼いころから試合結果をチェックする習慣が付く。1991年にリーグ優勝して日本シリーズに進んだときは、第7戦までもつれてデーゲームになったんだけど、試合中継の時間が“体育の授業”扱いになった。欠席する生徒が増えることを危惧した学校が特別措置を取ったから」。広島では銀行の金利がカープの順位で決まるし、テレビのニュースは全国版から地方版に切り替わった途端、カープ情報、サンフレッチェ情報、広島出身の力士情報、地方政治と続くとも言っていた。なんかすごい。

カープの本拠地、	広島市民球場近くではローソンさえも赤いという
カープの本拠地、 広島市民球場近くではローソンさえも赤いという

 ところが、彼女が大学進学を機に東京に出ると、東京ではカープの試合はほとんど中継されていなかった。それ以降、彼女の野球観戦ツールは、カープファンの友人のTwitter、スポーツニュースサイト「スポーツナビ」(ヤフー)の一球速報、そして家族からの実況メールだ。「家族のなかで最も熱狂的なカープファンだった祖母は、年に1回は球場へ足を運び、テレビで中継がないときはラジオで中継を聴いていた。私が東京ではカープの試合がなかなか中継されないと言うと、途中経過を携帯にメールしてくるようになった。祖母が亡くなった今は、母が後を継いでいる」という。

回を終えるごとに母親から送られてくるという実況メール。他人から見るとものすごく書き慣れていることに驚く
回を終えるごとに母親から送られてくるという実況メール。他人から見るとものすごく書き慣れていることに驚く

 そんな彼女がfunbandを使ったら……次ページから体験記をご覧ください。

通知が気になって、仕事に集中できない

 funbandを受け取った日。試合開始時間までに仕事が終わらなかったので、オフィスでfunbandとアプリをBluetoothで接続し、設定を「試合通知」モードにして仕事を再開した。その時点では、2回表で阪神4-広島1。2回、3回と試合は淡々と進んだため、funbandから届く通知も打者や攻守交代のタイミングで淡々としたものだった。ただ、カープの攻撃でチャンスが潰れるたびに、funbandがブルッと震えてピンチを示す青色が点滅する。そのたびに徐々に落ち込むようになってきた。

試合通知モードにした途端、「2回表 阪神4-広島1」の通知が
試合通知モードにした途端、「2回表 阪神4-広島1」の通知が

 4回表の阪神の攻撃中には、またブルッと震え、青色の点滅とともに「(>_<)」という画面表示が。ピンチらしいが、これではさすがに何が起こっているのか分からないので一球速報でチェックすると、その瞬間、ヒットを打たれて「阪神5-広島1」に……。

 この頃になると、ブルッと震えるたびに気になり、青色が点滅すると落ち着かなくもなる。一球速報もチェックしたくなるので、仕事にならない。今日は負け試合かと半分諦め、いったん、funbandの通知をオフにして仕事に集中することにした。

チャンスが潰れたりピンチになったりすると青く光る
チャンスが潰れたりピンチになったりすると青く光る
チャンスには赤く光る
チャンスには赤く光る

 ようやく仕事に区切りがついたので、再び「試合通知」をオンにしてみた。結果をチェックするつもりだったが、まだ9回裏のカープ攻撃中で、「阪神5-広島2」。すると「チャンス」の表示! ここからは、funbandだけでは足りず、一球速報でも観戦した。結局この日は引き分けでゲーム終了。引き分けたせいもあるかもしれないが、いつも以上に疲労を感じながら、funbandの電源を落とした。

劣勢でも諦めないfunbandに励まされる

 初日に使った通知モードだけでなく、球場やテレビで観戦しながら使用する「球場・テレビ観戦」モードも試したいと思いながら、しばらくは球場に行くことも数少ないテレビ中継を見ることもできない日々が続いていた。

 そんなある日、7回裏からだが、ようやくテレビ中継を見ることができた。初めてfunbandを「球場・テレビ観戦」モードにして観戦。ただし、試合は「ヤクルト5-広島0」。しかも満塁ホームランを打たれた直後という、気分が乗らないタイミングだった。

 普段なら「今日は見なくていいや」とテレビを消してしまうところだが、「funbandがあるから」と見続けていると、funbandから「ラッキー7 さあ反撃開始」という、試合を諦める気配が全くない通知が届く。試合はラッキーなヒットや相手側のミスでノーアウト満塁に! するとfunbandは「チャンス★」「大チャンス★」と立て続けに通知してきた。

「チャンス★」の通知
「チャンス★」の通知
立て続けに「大チャンス★」の通知
立て続けに「大チャンス★」の通知

 それでも、この日のカープは2人続けてアウトになるなど不調モードから抜け出せない。再び諦めかけたところで、まさにファンの心理をつくような「頼むぞ田中 ここで1打」の通知が飛び込んできた(残念なことに、1点も取れず、交代)。

「頼むぞ田中 ここで1打」
「頼むぞ田中 ここで1打」
「打たせてとる 流石!ブレイシア」
「打たせてとる 流石!ブレイシア」

 その後もパッとしない攻撃が続き、9回表の守備に移った。個人的には既に諦めモード全開で、集中力が切れ始めていたのだが、funbandに「打たせてとる 流石!ブレイシア」と励まされ、ちょっとだけ応援モードが回復する。9回裏になると、これでもかとfunbandから熱い応援通知が届きまくった。結局、試合には負けたものの、最後まで諦めないfunbandに、同じカープファンとして脱帽した。

funbandは地元のファンと観戦している気分になれる

 10日ほどfunbandを使ってみたが、印象は使う前とは少し違った。当初は「中継が見られないときのお楽しみ」と思っていたのだが、試合通知モードにしていると、ブルッと震えて通知が来るたびに詳しい試合経過を知りたくなり、やがてはネットの一球速報にかぶりついてしまう。そうすると残念なのが、funbandの通知よりネット速報のほうが情報が速いこと。ピンチもチャンスも既に分かっているので、気分をさらに盛り上げる/下げるだけになってしまう。

 むしろ、試合を見ながら使う球場・テレビ観戦モードのほうが楽しかった。東京にいるのに、地元の“濃い”ファンと観戦している気分になれる。早々に諦めモードになった自分を無理やり盛り上げる、あの地元の空気感を思い出した。球場に行けない、中継が見られないときでも、球場・テレビ観戦モードのノリなら、使い続けたい。

funbandは劣勢でも決して諦めなかった
funbandは劣勢でも決して諦めなかった

 一つ要望するなら、funbandに通知したメッセージや試合経過(○○選手がヒットで2塁など)を、専用アプリでさかのぼれるようにしてほしい。試合の展開が早ければ早いほど、通知はどんどん来るので、片手間では見逃してしまう。見逃したときに、専用アプリで見られれば便利だ。

 最後に、funbandを使ってみてやっぱり試合観戦の日は仕事を早く切り上げるべきだと痛感した。仕事中にfunbandを付けると、まったく仕事ができなかったから。

◇  ◇  ◇

 どうやらfunbandは、応援気分をかなり盛り上げてくれるよう。現在は、広島東洋カープ、ソフトバンクホークス、横浜DeNAベイスターズの3球団分だが、シャープの和田山課長は「いずれは12球団すべてをそろえたい。グランドの上では選手が野球で、外ではfunbandを付けたファンが応援で戦うのが夢」と意気込んでいる。他球団のファンは楽しみに待とう。

(文/平野亜矢=日経トレンディネット)

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