個人の価値を反映したデジタルトークンを自由に発行し、他人と売買できるとうたうサービス「VALU」。人気YouTuberが自ら発行したトークンを「売り逃げ」、後に批判を受けて買い戻す事案が発生するなど、物議を醸している。
本記事では「デジタルトークン」という言葉を、何らかの権利や機能を付与し、他人への譲渡が可能な電子的チケット、貨幣、券面を指すものと定義しておこう。ビットコインなどの仮想通貨もデジタルトークンの一種だ。
VALUのトークンも、ビットコインのブロックチェーンを使って取引の記録を管理している。
VALUは、トークンを購入することを「VALUER(株主)」と表現するなど、あたかもトークンが株式であり、VALUトークンが個人の現在価値を反映しているかのように喧伝している。個人はトークンを発行して売ることで、株式公開のようなイメージで資金を調達できるというわけだ。
一方で海外では、VALUの規模をはるかに超える規模で、デジタルトークンによる資金調達が行われている。企業やプロジェクトがブロックチェーン上で独自のデジタルトークンを生成し、販売することで資金を調達する「ICO(Initial Coin Offering)」への投資が過熱しているのだ。わずか数分で数十億円もの資金を集めたプロジェクトもある。
ICOの場合、ビットコインでなくイーサリアム(Ethereum)上でデジタルトークンを発行するのが主流になっている。
ICOという言葉は、スタートアップ企業が株式を取引所に新規上場する「IPO(Initial Public Offering)」から派生したもの。やはり株式の配布を思い起こしてしまう。
国内外で投資が過熱するデジタルトークンの本質とは、株式なのか、あるいは権利などの裏付けがない電子チケットなのか。デジタルトークンの法的位置づけについて、専門家の意見を基に整理してみよう。
有価証券か否かは、トークンの性質次第
「デジタルトークンの法的位置づけは、ブロックチェーン上で生成した否かは関係なく、トークンの性質によって異なる」と、金融関連の法律に詳しい森・濱田松本法律事務所の増島雅和弁護士は語る。
一般的なデジタルトークンは、ゲームにおけるトレーディングカードのような位置づけになるという。ゲーム内では何らかの機能や価値を持ち、ゲームの人気が高まればレア(希少)カードが高値で売れる。ゲームの人気が落ち込めば、そのカードの価値も下がる。
ただし、デジタルトークンが備える機能によっては、株式をはじめ有価証券の取り扱いを定める金融商品取引法の規制対象になるケースがある。基準となるのは「トークンの持ち主に金銭が戻ってくるような仕組みがあるか否か」(増島氏)だ。
例えば、プロジェクトの運営で得た収益の分配を受けられる受益権がトークンに付与されていた場合、トークンは有価証券としての性質を帯びる。この場合、トークンの取り扱いには第二種金融商品取引業の登録が必要になる。
この基準からすると、VALUが扱うトークンはどのような扱いになるか。
VALUトークンには、株主優待を思い起こすような「優待を受ける権利」が付与されることがある。ただ優待の内容が金銭やそれに準じるものでなく、「セミナーを受講する権利」などにとどまる限り、規制対象となる「利益の分配」とは言いにくい。この点で、VALUが扱うトークンは有価証券とは言えないだろう。
ただし、有価証券に該当しないからといって、デジタルトークンの販売にまったく法規制が及ばないわけではない。デジタルトークンの販売は、物品をネット上で販売するEC(電子商取引)サイトと同じく、特定商取引法に基づく規制が受ける。つまり、規制の主体は金融庁ではなく、経済産業省や消費者庁になるわけだ。
ネット上で物品を販売するECサイトには、事業者の身元や問い合わせ先を明記する「特定商取引法に基づく表記」が必要になる。当然、VALUもWebサイト上に記載している。
ただし、仮にVALUが単なるECサイトでなく、個人にトークンの発行と売買の場を提供する「ECモール」だとし、VALU上でトークンの取引が継続的に行われているとすれば、VALUを発行した個人にも特定商取引法に基づく義務や責任が生じる可能性がある。
いずれにせよVALUトークンの販売がECサイト上の通販と同等と考えられる以上、トークンの販売について消費者に不当な損害を負わせないよう、事業者と個人の双方が責任を負っているとみるべきだろう。
最近では、日本でも企業がICOによる資金調達に挑戦する動きが見られ始めた。新たな資金調達の手法として注目されるICOの日本での法的位置づけについては、別の記事で考察する予定だ。
(文/浅川 直輝=日経コンピュータ)