格安スマホを展開するMVNO(仮想移動体通信事業者)は事業許可制にすべきだった――。先日、慶應義塾大学政策・メディア研究科の夏野剛・特別招聘教授にこのような指摘を受け、思わず考え込んでしまった。総務省によると、MVNOの事業者数は2017年3月末時点で684社。この期に及んで事業許可制に切り替えるわけにもいかないのだが、根拠を聞くと、確かにうなずけるものがある。

多くの課題を一気に解決できる

 MVNOを事業許可制にすべきとする第1の根拠は、参入事業者を絞ることで強力なプレーヤーを育成しやすいことだ。携帯電話市場はプレーヤーが大手3社に収れんして「協調的寡占」の傾向が強まっている。総務省はMVNOを「第4の勢力」に育てることで市場の活性化につなげる狙いだが、大手3社の経営を大きく揺さぶるほどの対抗勢力にはなっていない。

MVNOの事業者数の推移。2017年3月末時点で684社に達した(出所:総務省)
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 MVNO市場は現状、あまりに多くのプレーヤーが乱立し、消費者にとってもどこを選べば良いのか分かりにくい。事業許可制でプレーヤーを絞れば顧客が選びやすくなるほか、MVNOも集約効果で一定の規模を確保できるようになり、大胆な競争を仕掛けやすくなる。さらに「(携帯電話事業者がMVNOに設備を貸し出す際の)卸料金も総務省が競争しやすい水準を維持する建て付けとすれば、それこそ大手3社に対抗できる強力なプレーヤーが生まれていたはず」(夏野特別招聘教授)と指摘する。

 第2の根拠は、参入事業者を絞ることによる信用力の底上げだ。MVNO市場は「百花繚乱」と言えば聞こえがいいが、「有象無象」といった側面も見られる。一部では悪質な販売を問題視する声も高まってきた。もちろん、多くのMVNOは丁寧な販売を心掛けているわけだが、プレーヤーが増えて悪質な事業者が混在してくると、負の部分だけが目立ち、MVNO全体のイメージ低下につながりかねない。事業許可制を採用すれば優良なプレーヤーに絞れるというわけだ。

 2017年4月には国民生活センターが格安スマホにまつわるトラブルの相談件数が増えているとして注意喚起を出した。携帯電話大手3社とのサービスの違いや、端末とSIMカードを別々に購入することに起因したトラブルが多いという。格安スマホの特徴をしっかり理解したうえで契約したユーザーの満足度は高いわけだが、この状況を放置すればMVNO全体が「安かろう悪かろう」で片づけられてしまいかねず、大きな正念場を迎えている。この点でも「当初は優良なプレーヤーに限定し、市場を丁寧に立ち上げていくべきだった」という見方ができる。

格安スマホのトラブルに関する相談件数の推移。2016年度は1045件と、2015年度に比べて2.75倍に拡大した(出所:国民生活センター)
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 このほか、事業許可制を採用していれば「サブブランド問題」も解消できたかもしれない。最近ではソフトバンクの「Y!mobile」とKDDI系のUQコミュニケーションズの「UQ mobile」が格安スマホ市場で急速に勢いを伸ばしており、「大手の参入は競争条件の公平性の観点で問題がある」として多くのMVNOが不満を募らせる。制度の細かな建て付けはともかく、事業許可制においては「1社に2つの免許は不要なのでサブブランドは認めないという考え方が十分に成り立つ」(夏野特別招聘教授)。