「ポケモンGO」は7月6日にリリース1周年を迎える。あの大ヒットアプリは、1年たってどうなっているのか。今後、他のスマホゲームに対抗できるのか。ポケモンGOについての著書があるITジャーナリストの西田宗千佳氏が分析した。

 ポケモンGOがサービスを開始して、そろそろ1年になろうとしている。当初は熱狂的に受け入れられたものの、いまやブームも去り……と思っている人が多いのではないだろうか。

 確かに熱狂的なブーム的は去ったものの、後述する数字から見る限り、ポケモンGOはいまだ大きなビジネスである。1年を経たポケモンGOを他のスマホゲームアプリと比較しながら、「結局どんなアプリだったのか」を考えてみたい。

西田氏の著書『ポケモンGOは終わらない』(朝日新聞出版)
西田氏の著書『ポケモンGOは終わらない』(朝日新聞出版)

今どのぐらい遊ばれている?

 ポケモンGOは、今どのくらい遊ばれているのだろうか?

 ひとつの指針は、アプリのダウンロード数と売り上げのランキングだ。ここでは、アプリマーケティング情報の調査会社であるApp Annieのデータを使って検証してみよう(以下、iOS向けのストアであるApp Storeの結果を集計したものを例示している)。

 日本(青)と米国(茶色)でのダウンロードランキングとセールスランキングは図1・2のような感じだ。ブームが落ち着くと同時に減っている印象である。

ポケモンGOアプリ・ダウンロード数ランキング推移(図1)
ポケモンGOアプリ・ダウンロード数ランキング推移(図1)
アップルのApp Storeにおける、ポケモンGOの1年間でのダウンロード数順位の推移。次第に落ちているが、時折大きく持ち直している
ポケモンGO・売り上げランキング推移(図2)
ポケモンGO・売り上げランキング推移(図2)
App Storeにおける、ポケモンGOの1年間での売り上げランキング推移。米国ではしばらく1位を独占したが、こちらも落ちてきた。しかし時折1位に浮上する

 App Annieの調べでは、2016年でもっとも月間アクティブユーザー数を集めたゲームはポケモンGOだった。ここで、第3位にランキングしている世界的なヒットゲーム「クラッシュ・オブ・クラン」の米国でのデータを見てもらおう(図3)。ポケモンGOの初期ブームが去るとセールスは持ち直し、時々トップに来るものの、ポケモンGOほど上位にいるわけではない。

「クラッシュ・オブ・クラン」・ダウンロード数・売り上げランキング推移(図3)
「クラッシュ・オブ・クラン」・ダウンロード数・売り上げランキング推移(図3)
ダウンロード数はランキング上位にはいるが、トップにはいない。売り上げランキングはスパイク状に1位へと持ち直している

「モンスト」と比べると?

 では日本のアプリだとどうなるか? 「モンスターストライク」を例にとると、その状況は、かなり海外と異なっているのが見えてくる(図4)。売り上げ(下グラフ)でいえば圧倒的だ。ポケモンGOより上で、1位に張り付きっぱなしである。

 一方、ダウンロード数(上グラフ)は「1位独占」ではない。このことは、日本のトップスマホゲームの収益性が、他国のそれに比べ恐ろしく高いことを示している。

「モンスターストライク」・ダウンロード数と売り上げのランキング推移(図4)
「モンスターストライク」・ダウンロード数と売り上げのランキング推移(図4)
1年間のダウンロードランキングはかなり上下がある。売り上げランキング(下グラフ)はほぼ常に1位でポケモンGOより上位にあり、収益性の高さがわかる

 そもそも、アプリのダウンロードやセールスのトップランキングに「ずっといつづける」ことは非常に特別なことだ。

 スマホアプリ業界では「アプリの公開から90日が経過すると、9割がアンインストールされる」と言われている。それを超えて使われるアプリは収益が安定していくが、より重要なのは、アプリを新たに使い始める「新規ユーザー」を獲得するために、継続的なマーケティングを行うことである。

 テレビやネットでスマホゲーム・アプリの広告を見ることが多いのは、広告による新規ユーザー獲得が、それだけ重要な要素になっているからだ。

今年、ポケモンGOに人が戻ってきた?

 ここでまた別のデータを見ていただきたい。これは、Googleの検索量をベースに、どれだけキーワードが「ホット」な情報であるかを示す「Googleトレンド」の結果である。数字は相対値なので、増減だけに注目していただきたい。ここでは比較のために、ポケモンGOと「モンスターストライク(モンスト)」「クラッシュ・オブ・クラン(Clash of Clans)」の検索量を表示している(図7・8)。

米国で「Pokemon GO」(青)と「Clash of Clans」(赤)が1年間検索された量を比較(図7)
米国で「Pokemon GO」(青)と「Clash of Clans」(赤)が1年間検索された量を比較(図7)
圧倒的にポケモンGOの勝利だが、初期のブームの凄さが目立つ
日本で「ポケモンGO」(青)と「モンスト」(赤)が1年間検索された量を比較(図8)
日本で「ポケモンGO」(青)と「モンスト」(赤)が1年間検索された量を比較(図8)
やはり初期は日本でもポケモンGOがブーム的動きを見せるが、モンストも継続的に大量の検索がなされている

 検索キーワードを見ると、ポケモンGOの検索量は突出しており、サービスがスタートするとすぐに猛烈に注目されたことが分かる。この検索量は「オリンピック」などと同水準であり、昨年16年のブームがある種、社会現象化していたことが分かる。だがそのあとはずっと落ち着いている印象だ。

 米国ではクラッシュ・オブ・クランに対し圧倒的な注目量なのだが、日本においては、モンスターストライクもかなりの水準で検索されている。これには秘密があって、検索キーワードにCMで使われている「モンスト」を使うとこうなるのだ。この辺は、日本において、いかにマス広告がアプリの認知に影響しているかを知る、大きな手がかりといえる。

 ここで、注目する期間をサービス開始以来の1年ではなく、2017年に入ってからに変えてみよう。そうすると、注目が落ち着いた中での状況が見えてくる(図9・10)。日米では非常に対照的な値だ。マス広告の効果か、日本ではすでに注目度はモンスターストライクに負けている。一方で米国では、いまだクラッシュ・オブ・クランを凌駕する。

2017年での米国での検索量を比較(図9)
2017年での米国での検索量を比較(図9)
ポケモンGOが時折大きく伸びているのは、大きなアップデートがあったときだ
2017年での日本での検索量を比較(図10)
2017年での日本での検索量を比較(図10)
継続的にマス広告を展開しているモンストにずっと負けている

 検索量の数字が跳ねている場所に注目していただきたい。米国では跳ねた位置がかなり明確だ。これは、ポケモンGOがアップデートした時期と重なる。ダウンロードおよび収益ランキング(図1・2)と比較すると、こちらでも「跳ねた」場所があり、その場所は一致する。

 要は、ポケモンGOにおいては、アップデートで大きく人が戻ってきているわけだ。アップデートがあっても、往時のようにブーム的な盛り上がりは見せないが、ニュースを見た人が再び戻ってきたり、新たにプレーし始めたりすることで、すぐにトップクラスの売り上げを記録できる「自力」があることを示している。

 もうひとつ重要なことがある。

 ポケモンGOはこれまで、大規模な広告展開を行っていない。ポケモンという圧倒的に知名度の高いコンテンツを背景にしており、名前を周知するためにマス広告を打つ必要がなかった。このことは、ここまでのビジネス展開に非常に有利に働いてきたはずだ。

 一方、ポケモンGOの運営元であるナイアンティックは、リリース1周年を記念し、米国・ヨーロッパ・日本で大規模なイベントを開催する。同社としてはそろそろ、再びポケモンGOを周知させるために投資をするフェーズに入った……と判断しているのだろう。

高収益を上げている「ポケストップ」

 ポケモンGOにはもうひとつ、ユーザーへの課金以外に大きな収入源がある。「ポケストップやジム」を共同展開するパートナーからの収益だ。

 一般的なスマホアプリでは、スマホアプリ内でアイテムや追加コンテンツを販売することで収益を得る。それに加えポケモンGOでは、店舗などとパートナーシップを組み、そこから収益を得ている。店舗をアイテムやポケモンが集まる「ポケストップ」、ポケモンを戦わせる「ジム」にすることで、集客が見込めるからだ。日本では、日本マクドナルドやソフトバンク、セブン-イレブンに伊藤園といった企業がパートナーになっている。

ポケストップはさまざまな企業がパートナーになっている
ポケストップはさまざまな企業がパートナーになっている

 ブラジルの新聞・Globo紙が2017年5月末に掲載したナイアンティック戦略的提携担当の副社長・Mathieu de Fayet氏のインタビュー記事と、その後にナイアンティックから出された当該記事に対する訂正文書によれば、パートナーとの関係は以下のようなビジネスモデルであることが分かっている。

 提携パートナーは、1店への1日のユニークな来店(1日に同じ場所へ、同じ人物が何回来ても1回とカウント)1回につき、0.50ドル以下をナイアンティックに支払う。これを彼らは「CPVモデル」と呼んでいる。ナイアンティックのパートナーにはこの記事が出た5月末の時点で約5億人が来店しており、相応の売り上げが得られていることになる。最大では約2.5億ドル(約278億円)とみられるが、パートナーによって価格が変わることを考えると、実際にはその半分くらいと見積もるのが妥当なのではないだろうか。

 アプリ内課金をする人の割合は一般的に低い。だからこそスマホアプリは「支払ってくれる人から多めに徴収する」モデルになる。だが、アプリの外にも売り上げがあるポケモンGOのようなビジネスモデルでは、利用者から直接お金を取ることだけでなく、「アプリをとにかく使ってもらう」ことが重要になる。ポケモンGOは、街中を歩いてもらうことで成立する。そして、そこで立ち寄る「店」からうまく収益を得られれば、それで成立するのだ。

ポケモンGO、今後はどうなる?

 強いキャラクターと位置情報をうまく生かしたビジネスモデルの組み合わせこそ、ポケモンGOの本質であり、新しさだった。同じことを他社がしようと思っても、そうそううまくはいかない、非常に有利な組み合わせにある。ポケモンGOは今でも、スマホを持っていない人、例えば若年層や高齢者が改めてスマホを手にしたとき「アプリをまず入れてみよう」と思わせる知名度と魅力を持っている。

 そして現状での評判から筆者が判断するに、他のスマホゲームに比べると、ブームは去ったが人気が定着している「定番化」に近い状態にあるようだ。

 これらを踏まえて考えると、ポケモンGOが今後どのような経過をたどるかが見えてくる。

 ポケモンGOにとって重要なのは、「実際にプレーし続けている人を増やす」「一時でもいいので、もう一度遊んでくれる人を増やす」ことだ。その中で、当面は「アップデート」と「イベント」という2つのアプローチでプレーヤーを増やしていくことになるだろう。

 ポケモンGOのゲーム構造はシンプルであり、まだまだ改善の余地がある。直近アップデートの目玉のひとつは、強力なボスポケモンにトレーナー同士が協力して挑む「レイドバトル」。主にポケモンGOを熱心にプレーした人に、再び遊んでもらうための機能と考えていい。また、ポケモンの真価ともいえる「交換」の機能はまだない。ポケモンGOで捕まえることができるポケモンの種類も、本家ポケモンに比べればまだまだ少ない。

 非常に知名度が高いゲームだけに、アップデートされればニュース価値も高く、多くの人の目に触れやすい。そのことがまずは有利だ。一方で、イベントなどを開催すれば、それが休止しているプレーヤーの掘り起こしに役立つ。そうして関心を集めることで、累計プレーヤー数を増やす……というのが当面の作戦だろう。

最近実装された目玉機能、ユーザーが協力してボスを倒す「レイドバトル」

問題点は「露出が減っていくこと」か

 ポケモンGOの懸念点は「プレーしようとも思わないスマホユーザーが増加していくのではないか」ということだ。ポケモンGOは一気に話題を集めたので、そのぶん多くの人がすでに知っている。マス広告で宣伝しても、他のスマホアプリのように「未経験者が入ってくる」わけではあるまい。

 時間がたって追加要素がマニアックなものになるほど、普通の人にとってのニュースバリューは減る。一般的なものであり、直接的な宣伝に頼っていないがゆえに、露出が今後減っていく可能性は高い。また、ゲームが複雑化する中で面白さが失われるとプレーヤーが一気に減る可能性もあるが、それは、どのゲームも抱える懸念点ではある。

 どちらにしても、今のポケモンGOは、「ブームは去ったがアプリとしての勢いはある」状況である。ここからのビジネスは、ナイアンティックの「運営」そのものにかかっている。いかに面白いゲームにアップデートするかは当然だが、広告宣伝やイベント展開など、周知策で知恵を使う必要が出てくる。

 特に日本では、周知の面で、広告費を大きく使っているスマホゲームに押されている面がある。ここをナイアンティックはどう考えるだろうか? 筆者は、あえて対抗してマス広告を大量に打つのではなく、イベント的な盛り上げによって認識を維持するのでは……と予想しているのだが。

(文/西田宗千佳)

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