ネット利用者はさまざまなデジタルメディアで企業・ブランド情報に接触し、購入に至る。ではデジタルメディアを効果的に購入につなげている企業はどこか。「日経デジタルマーケティング」の独自調査「デジタルマーケティング100」で明らかになった。1位に輝いた「無印良品」(良品計画)、日本マクドナルドはいずれも7月26日に開幕する大型マーケティングイベント「D3 WEEK 2017」に登壇する。

 デジタルメディア上でのブランド接触体験がきっかけで、商品やサービスの購入に至るネットユーザーが最も多いブランドは無印良品──。

第1回「デジタルマーケティング 100」
第1回「デジタルマーケティング 100」

 日経デジタルマーケティングは今年4月、どの企業・ブランドがデジタルメディアを効果的に売り上げに結びつけているかを、消費者アンケートから探った。本特集では、その調査結果である、第1回「デジタルマーケティング100」について、ランキング上位各社への取材を踏まえて解説する。

 スマートフォンを片手に日々、情報をやり取り・収集する消費者は、企業・ブランドの商品・サービスについても、さまざまなデジタルメディアから情報を入手し、そのメディア接触体験が、ブランドの好感度や、購入意欲に影響を与えている。

 消費者が接する主なデジタルメディアには、自社Webサイトやアプリ、メールマガジンなどの「オウンドメディア」、バナー広告やタイアップ記事広告などの「ペイドメディア」、一般ネットユーザーのブログやソーシャルメディアへの投稿、クチコミサイトの書き込みといった「アーンドメディア」というトリプルメディアに加え、LINEやTwitter、Facebook、YouTubeなどに開設した企業公式の「ソーシャルメディアアカウント」、プレスリリースや取材を基にした記事が載る「ニュース・情報メディア」などがある。

消費者はスマホ・パソコンの画面越しに商品情報に接触して購入に至る
消費者はスマホ・パソコンの画面越しに商品情報に接触して購入に至る

 企業のソーシャルメディアアカウントは、発信内容をコントロールできる面ではオウンドメディアであり、広告メニューを利用すればペイドメディアにもなる。一方、ニュースメディアは内容のコントロールができず、アーンドメディアにおける評判に影響を与えやすい。もっとも、積極的な広報・PR活動やソーシャルメディア活用といった企業努力によって、ニュースメディアにおける露出および好意的な記事の本数、アーンドメディアにおける好感度をある程度改善することは可能だ。

 日経デジタルマーケティングは、2012~2016年までの5年間、「ソーシャルメディア活用売上ランキング」と題した調査を実施し、毎年3月号で特集してきた。これは企業公式のソーシャルメディアアカウント発の情報発信が、商品やサービスの購入につながったか、売り上げ貢献度を明らかにするものだった。

 過去5回の調査は、「ファン数が増えた」などではもはや成果として納得しない経営陣に対して、アカウントの運用が売り上げに貢献していることを実証する意義があった。ただし、ソーシャルメディアでLINEが突出した存在感を示すに至り、ランキングがLINE活用度に準ずるようになってきた。そして当然ながらネットユーザーは、企業アカウントの情報のみで購入を判断するわけではない。そこで今回、調査対象をデジタルメディア全般に拡張した。

 本ランキングの作成に当たっては、BtoCの主要業界から代表的な企業・ブランドを計100社ノミネートし(ネット専業企業などは除く)、さまざまなデジタルメディアを介して企業・ブランドの情報に接触した消費者が、商品購入(サービス利用)に至ったかを把握するアンケートを実施した。

 ネット上で各ブランドの情報を見聞きしたブランド接触者を抽出し、そのブランド接触がきっかけとなって購入に至ったかを回答してもらい、「消費行動スコア」を算出、デジタルマーケティング100としてランキングした。アンケートは民間の大手リサーチ会社に委託し、今年4月20~21日にインターネットで実施。有効回答は4120人だった。

無印はインスタとアプリが貢献

購入要因として企業のInstagram投稿が多かった企業<br>(※購入者50人未満の企業は除く)
購入要因として企業のInstagram投稿が多かった企業
(※購入者50人未満の企業は除く)

 消費行動スコア71.7で首位に立ったのは、良品計画の生活総合ブランド「無印良品」だ。良品計画は写真・動画に特化したSNS「Instagram」と、スマホ向けアプリ「MUJI passport」の活用が売り上げ増加に貢献した。右の表は本調査において、Instagramが購入に与えた影響の大きい企業だけを抜き出してランキングしたものだ。無印良品は購入要因メディアとして「その企業のInstagram投稿・広告」を挙げた人が多い企業ランキングで4位となっている。

 良品計画はこれまでも、ソーシャルメディアを積極的に活用してきた企業だ。Facebook、Twitter、LINEなど多くのサービスをマーケティングに取り入れている。その中でフォロワーが急速に伸びているのがInstagramだ。2015年度に開始したにもかかわらず、翌年度末にはフォロワー数がTwitterを抜いた。現在は68万人超が登録している。フォロワー数はまだFacebookページに劣るものの、投稿に対する「いいね!」やコメントといった反応を示す「エンゲージメント率はInstagramが最も高い」(川名常海WEB事業部長)傾向にあるという。

無印良品の公式Instagram
無印良品の公式Instagram

 例えば、今年1月5日に投稿した、苺をフリーズドライにしてホワイトチョコレートをかけた菓子「不揃いホワイトチョコがけいちご」の写真は、いいね!数が1万1000件を超えるなど大きな反響を呼んだ。その結果、EC(電子商取引)サイトには国内外から大量の注文が舞い込んだ。このように、Instagramでの反響が売り上げにつながる例も出ている。

 ただし、良品計画は売り上げを増やそうと躍起になっているわけではない。同社はソーシャルメディアを活用する上で、「消費者同士の対話の場に企業が出向いている」(川名氏)という立場であることを念頭に置き、広告色の強い投稿は避けている。こうしたスタンスのため、販売促進を直接狙った投稿はしていない。だが、エンゲージメント率が高く反響が大きいということは、商品写真などもしっかりとフォロワーに訴求できていることになる。「きちんと商品がフォロワーに見られている。それが購入にも影響を与えているのではないか」と川名氏は見る。

 スマホ向けアプリ「MUJI passport」も重要なマーケティングチャネルになっている。ダウンロード件数が870万件を超え、年間のアクセスベースではMUJI passportがWebサイトを超える。ところが、ユニークユーザー数はWebサイトに遠く及ばない。MUJI passportは1人当たりの利用頻度が26回と、Webサイトの8倍以上になっているためだ。アプリには濃い顧客が集まっているため、顧客単価もアプリ非利用者の1.5倍となっている。

 こうした傾向が顕著になり始めたのは、アプリ上に無印良品に関するさまざまな情報を配信する「from MUJI」の提供を開始してからだ。アプリの提供開始時は、アプリを「会員カード」として利用できる機能や商品検索が主に使われていた。必要な時にしか使われないため、利用頻度はそれほど高くなかった。ここにfrom MUJIが加わったことで、「メディアとして使われるようになってきている印象がある」(川名氏)。

 from MUJIへの情報発信で強化しているのが、店舗ごとの独自の情報発信だ。無印良品では店舗で参加できるワークショップを店舗ごとに企画して開催している。例えば、「オリジナルマグカップ」の制作や、デザイナーの深澤直人さんを招いたトークショーなどだ。同社はこうしたワークショップの開催に当たり、必要な情報を店舗が登録すると、MUJI passport上で自店をお気に入り登録している利用者に告知できるという仕組みを用意した。こうしたイベントに参加するアプリ利用者の来店回数と購入金額はともに、イベント不参加者と比べて2倍になっている。

(文/小林 直樹、中村 勇介、降旗 淳平=いずれも日経デジタルマーケティング)

この記事をいいね!する