世界190カ国以上で1億2500万人のメンバー(有料会員)が利用する動画配信サービスのNetflix。同社の成長のカギとなっているのが、年間70億ドル以上(2018年)を超える予算を投入して制作するといわれている強力なオリジナルコンテンツと、それをメンバーに提案するレコメンデーション機能だ。来日した同社プロダクト最高責任者のグレッグ・ピーターズ氏に聞いてみた。

Netflixプロダクト最高責任者のグレッグ・ピーターズ氏
Netflixプロダクト最高責任者のグレッグ・ピーターズ氏

――Netflixは世界190カ国以上でサービスを展開していますが、日本国内のメンバーならではの視聴傾向はありますか?

グレッグ・ピーターズ氏(以下、グレッグ氏): マーケットによってメンバーの視聴傾向には確かに違いがあります。例えば、日本ではローカルコンテンツやハリウッド映画を視聴する人が多いです。デバイス別でいえば、モバイルで視聴する人が多いのも一つの傾向です。ただ、そういった違いがあっても、核となる行動は全く同じです。自分の好きなときに、自分の好きなデバイスで、素晴らしいコンテンツを見たいというのは共通しています。

視聴傾向の分析に性別や年齢のデータは使わない

――Netflixはオリジナルコンテンツに強みがありますね。映画やドラマは原作付きでないと厳しいのに、Netflixではオリジナルコンテンツも視聴される理由として、独自のレコメンデーションシステムを挙げる声も聴きます。どんなデータをどう活用しているのでしょうか。

グレッグ氏: メンバーに関してはすべての行動を分析しています。具体的には、どのコンテンツを見たのか、あるいは見なかったのか、どのくらいの速度で見たのか、どのデバイスで見たのか、1日のいつ見たのかといったことです。夜見たいものと昼に見たいものでも変わってきますから。

 コンテンツについては、監督やキャスト、脚本はもちろん、どれくらい見る人にとって複雑な内容か、シーンの数、ロケーションの数といったデータを組み合わせて、それがメンバーに合ったものかを検討します。

 これらのデータを組み合わせて、個々のメンバーの視聴傾向を分析すると同時に、メンバー全体で見たときにどんなものが求められているかも分析し、次にどんなオリジナルコンテンツを制作するかを決めていきます。出来上がったコンテンツをメンバーにどう見てもらうのかというデータもあり、また次のコンテンツ制作に生かされます。

Netflixのレコメンデーション機能では、各メンバーの視聴傾向を分析し、お薦め度をパーセンテージで表示する
Netflixのレコメンデーション機能では、各メンバーの視聴傾向を分析し、お薦め度をパーセンテージで表示する

――そこまで細かいデータを収集する一方で、Netflixではメンバーの性別や年齢は分析していないのはどうしてですか?

グレッグ氏: 確かに性別や年齢、その人がどの国や地域で見ているかということも考慮していません。どんな作品が見たいかは性別や年齢などである程度全般的なことが言えるのかもしれませんが、やはり個々の好みは違います。私たちが知りたいのは“real you”、本当のあなたが何を求めているのかです。そのために必要な方法も既に持っていますから、現時点では性別や年齢などの情報は使う必要はないと判断しています。

――日本でのサービスを2015年に開始してからの2年間、グレッグ氏は日本法人の社長を務めています。日本でのこれまでのビジネス展開をどうご覧になっていますか?

グレッグ氏: 成長率は順調に伸びていると思います。その理由としては、メンバーが何を求めているかが理解できるようになってきたこと。もう一つは、au(KDDI)などのパートナーを通じて知ってもらう機会が増えたことがあるでしょう※。

※NetflixはKDDIと業務提携し、Netflixのベーシックプランとauの動画配信サービス「ビデオパス」、月額25GBまでのデータ通信容量をセットにしたプラン「au フラットプラン25 Netflixパック」を2018年夏以降に提供すると発表した(関連記事:au「Netflixプラン」 カウントフリーではない?)。

4月からはモバイルアプリにプレビュー機能を導入

――メンバーの利用を促すうえではUI(ユーザーインターフェース)も重要と考えます。グレッグ氏はプロダクトの責任者ということですが、Netflixの各種デバイス向けのアプリのUIについてこだわりなどがあれば教えてください。

グレッグ氏: 一番重視しているのは、より簡単にということ。UIに10年以上取り組むなかで一番感じたことでもあります。シンプルに使いやすいものであれば、より多くの人に使ってもらえます。同時に、Netflixを使うことは楽しという体験を提供できることも重視しています。それは作品を見ているときはもちろん、探しているときも楽しいものであってほしいと思っています。

 いい例が、4月からモバイルアプリに導入したプレビュー機能です。丸いアイコンで表示され、タップすると予告が(約30秒の縦長動画で)見られます。それも次々とスワイプして面白そうだなと思える作品に簡単にアクセスできるようにしました。

――Netflixからは日本のコンテンツも多数海外に出ていっています。それらはどう評価していますか。

グレッグ氏: 日本のコンテンツは実写やバラエティーからスタートしましたが、『テラスハウス』や『あいのり』などは日本のクリエーターが驚くほどの反響が世界中からありました。英国、ドイツ、フランスなどで人気です。

 今はアニメに力を注いでいます。アニメファンだけでなく、アニメを見たことがない人にも、Netflixのレコメンデーション機能を通じて楽しんでもらえるので、大きなチャンスです。同時に、質が高い実写のテレビ作品にも注力します。日本の人が見ても「これ、日本の作品なの?」と思ってもらえるような作品を提供していきます。

――Netflixでは才能あふれるクリエーターを世界中から起用していますね。世界で配信するからには、例えば、日本で人気があるからといった基準は意味がないでしょう。また、クリエーターからはNetflixは作るコンテンツについて比較的自由にさせてくれるという話もよく聞きます。クリエーターの選択基準などはあるのでしょうか?

グレッグ氏: 私たちは、クリエーターにクリエーティブの自由を提供することが最高の作品につながると信じています。と同時に、クリエーターが作品を発信する機会を見つける手助けをしたいとも思っています。そのために、最初の段階ではどんなストーリーを作りたいのか、どうつづりたいのかといった情報をクリエーターと共有します。ですが、そのあとは、要望は出さずに、自由に作ってもらいます。ビジョンがある人であれば、好きに作ってもらったほうがいいものができるからです。

(文/平野亜矢=日経トレンディネット)

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