日経BP社が主催する大型イベント・セミナー「D3 WEEK」。2017年は7月26日(水)から28日(金)の3日間、「Beyond The Customer First」をテーマに、六本木アカデミーヒルズ(六本木ヒルズ森タワー49階)で開催する。今回インタビューをしたSOMPOホールディングス グループCDO常務執行役員の楢崎浩一氏は、27日午前10時から「デジタル技術の活用戦略と実現への組織体制」と題して講演する。


楢崎浩一氏(SOMPOホールディングス グループCDO常務執行役員)1981年早稲田大学政治経済学部卒業後に三菱商事入社しシリコンバレー駐在を経験。ベンチャーの魅力に惹かれ、2000年に現地で転職後、複数のICT関連企業で事業開発や経営に携わり、シリコンバレーに通算11年在住。2016年5月から現職
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――様々な企業でデジタル分野の事業経験が長い。そのきっかけは。

 私は最初は商社(三菱商事)に入り、1981年4月、情報産業の事業開発として通信機器の部門に配属された。当時、商社は冬の時代で弱い立場だった。日本が戦後復興する過程では、メーカーが海外に輸出したいときに商社に依頼する。商社が現地に店を持って、人がいて、現地事情を知っているからだ。しかし、メーカーが現地に工場を作るようになると、商社は不要になりがちだ。

 メーカーは製造、在庫、技術、安全面など様々な何百億円相当のリスクを自社で抱える。最終責任はメーカーにあるが、商社は手伝いなので責任を持っていないとも言える。

入札書類は読んではいけない!?

 私は当時、通信システムの入札案件があっても先輩には「テクニカルスペックを読むな」と言われた。

 どういうことか。ある国の通信システムに入札をする場合、スペックには入札金額や支払い条件、法務的なことを記した書類がある。もう1つが技術スペックの書類だ。後者を開けるなと言うのだ。それは「下手に見て、知ったかぶりして、『これはこうですよ』とメーカーに言って失注したり不利な契約をしたりしたら商社の責任問題になる」ためだという。

 私はメーカーに入札書類をコピーして届けた。残った書類は見てはいけないと言われていたが、私は納得がいかなかった。商人として扱うモノには興味がある。そこで、土日に残業と称して会社に来て読み始めた。これがものすごく面白かった。私はアマチュア無線もしていて通信が大好きだった。それからは毎回、土日や深夜に読むようになった。門前の小僧(習わぬ経を読む)で、どのメーカーに向く案件か、どう提案すべきか分かるようになってきた。メーカーの応札書まで見るようになった。

 ある時、海外出張をしていたら、隣の国から日本のあるメーカーに入札してほしいから相談したいと言われた。しかし、そのメーカーは本社の都合で応札しないことが決まっていた。私は諦めきれず、その国に出張した。今までの知見からそのメーカーにピッタリだと思った。そこで、本社営業の頭越しに技術部門に直接連絡をして提案した。するとメーカーが納得してくれて受注に至ったのだ。

 しかし、私の上司にはすごく怒られた。これからは会社で冷や飯を食わされると思ったが、ここで大きな環境変化があった。

 1985年に電電公社の民営化、新電電の設立、米国の市場開放の要求があり、海外から通信機器を輸入する時代になった。いい技術、製品を探してきて、日本の新しい通信市場に持ち込む目利きの勝負になった。技術仕様に土地勘があると、米国のいい製品を持ち込んで、大きな仕事ができるようになったのだ。

給料の遅配も珍しくない

――その後、スタートアップ企業の代表を務めるなどの経験もした。

 ほぼすべてのスタートアップで、苦しみ、喘いだ。給料の遅配も珍しくもなかった。代表といっても、出張時は最低金額のフライトを自らネットで探して予約するような会社だった。

 なぜ大変かというと、スタートアップは多産多死だからだ。シリコンバレーでは、カエルの卵のようにいっぱいスタートアップが生まれて、親ガエルになるのはほぼいない。千三つ(1000のうち3つが成功する)どころではない。

 私はアップルの経営が危機になったときに同社の裏手に住んでいた。この会社いよいよヤバイと感じた。しかし、その時に株を買っていれば何百倍になった。つまり、現在は大成功している企業でも、失敗とピボット(事業転換)の繰り返しなのだ。

 その結果、人は入れ替わっていく。危ないと思ったらどんどん逃げていくし、ダメな人間はどんどんクビを切られる。日本の大企業は冷や飯は食ってもクビにはならない。シリコンバレーはろくな退職金もなく、当日に突然解雇されることもたくさんある。

法律ギリギリの汚い手も

 私自身も経営した企業でたくさん解雇をした。クビと言われてニコニコしている人はいない。従業員に泣かれてしまうこともある。これは会社の生き残りの確率を高めるために、ロープに捕まっているときにロープを自分の下で切るようなもの。生き残るためにクビを切るつらい経験は、今でも夢に出る。

 とても具体的には話せないが、ある会社で大型の買収をした。その時に人は金で動くと実感した。上場企業同士で買収を競ったが、法律ギリギリの汚い手は普通に使う。会社のために何かをして訴訟された役員を守るために、「会社役員賠償責任保険(D&O保険)」という仕組みもあるくらいだ。何百億円のお金がかかると、見えないところでのローブロー(ボクシングでのトランクスの下の反則攻撃)もある。企業買収が怖いということも学んだ。

――こうした経験は、SOMPOホールディングスのCDOとしてどう役立っているか。

 経営資源は、「ヒト」「モノ」「カネ」と言われるが、シリコンバレーではあともう2つあると思う。「データ」と「時間」だ。私はジェフ・ベゾスを描いた書籍が好きだが、彼は時間をとても大切な経営資源だと思っている。成功確率を9割に高めるために意思決定を遅らせるのはアウトだ。7割でよくて、ダメだったらやめたり、ピボットしたりすればいい。

 買収は時間を買うためのものだ。今、ソフトウエアはオープンソースで、技術的な参入障壁は低い。大手がベンチャーを後追いできる。しかし、始めて追いつくまでの時間がもったいない。清濁併せ呑んで会社を買ったり買われたりするのは、時間をとても重視しているからだ。

 イノベーションを起こす上では、「明日まで考えよう」というのはダメだ。大企業では工場の生産ラインのように自分のパートが終わって上役に上げる、上から来たら下に回す。これでは時間という最大の経営資源を浪費していることになる。スタートアップで、明日をも知れない生活をしていたからそう感じる。弊社のトップも理解してくれているので、この1年でも多数のPoC(Proof of Concept:コンセプト検証)を回している。

(文/杉本昭彦=日経ビッグデータ)