総務省の調査によると、平成27年時点のネットショッピングの世帯利用率は70%を超えるという。増え続ける宅配利用に対して、業界はどんな対策をとっているのか。宅配便大手、ヤマト運輸の担当者に話を聞いた。

 最近、話題に上ることが多いのが、物流業界での取扱量の増加と、宅配業者の負担増だ。ヤマト運輸の「宅急便」が取り扱う荷物の数は、直近の3月末までの年間でおよそ18億6000万個。この10年で1.5倍以上も増えているという。

 中でも負担になっているといわれるのが留守宅への再配達だ。環境省が公表している数字では、再配達になる荷物は宅配便全体の約2割となっているが、ここでいう「宅配便全体」には企業宛てや工場宛てなど再配達が起こりにくい荷物も含まれている。個人宛てだけに絞れば、再配達の割合はもっと多いと考えていい。

 この背景には、ネットショッピングの拡大や核家族化による戸数の増加、共働き家庭の増加などがあるようだ。中でも、ネットショッピングは宅配便の利用者層を拡大した。例えば、若い世代の単身者の場合、かつては実家からの仕送りくらいでしか宅配便を受け取らなかったかもしれない。だが、今はその層がネット通販で毎日のように荷物を受け取っている。

クロネコメンバーズの利用者は約1500万人

 増え続けるセールスドライバーの負担を軽減するために、ヤマト運輸が行っている取り組みの1つがメールやLINEで配達日時を事前に通知したり、配達日時の変更をウェブサイトやLINEで受け付けたりする会員制のサービス「クロネコメンバーズ」だ(関連記事:クロネコヤマトの再配達、メールやLINEでゼロになる)。

 ヤマト運輸によると、メールでの配達日時のお知らせや、ウェブ上で受け取り時間を変更できるサービスは2002年からあったという。ただ、当時は「メール通知サービス」などと呼ばれていた。だが、2006年から、荷物をコンビニなどで受け取れるようになると、受取人が宛先住所に実在することを確認する必要が生じた。そこで、さまざまなサービスを「クロネコメンバーズ」に統合して、会員化することになったのだという。現在、宅急便の利用者がクロネコメンバーズに登録すると、メールなどでの配達日時の通知、配達日時や受け取り先の変更などがウェブページからできるようになっている。

クロネコメンバーズの会員になると、配達時間を事前にメールで通知してくれる
クロネコメンバーズの会員になると、配達時間を事前にメールで通知してくれる

 クロネコメンバーズのサービスは日々進化しており、2016年にはメッセンジャーアプリの「LINE」でも配達日時を通知。そこから受け取り時間や受け取り先を変更できるようになった。「今は、LINEの利用者が増え、メールよりもLINEのほうが通知に気づきやすいという人も増えている」とヤマト運輸営業推進部係長の荒川菜津美氏は話す。

LINEの通知は対話形式で、配達時間や受け取り場所の変更ができる
LINEの通知は対話形式で、配達時間や受け取り場所の変更ができる

 LINEもウェブサイトも、できることは変わらないのだが、対話形式で操作できるLINEのほうがユーザーフレンドリーという面もある。例えば、配達できない時間を指定したりすると「この中から選んでください」のように、選択肢が提示されたりする。

 「お客様が誤った入力をした場合でも、単に『その時間は受け付けられません』と返答するだけでは、何が問題なのか、お客様に伝わりにくい。なぜ受け付けられないのか、いつなら大丈夫なのかを提示できるように、LINEの対話形式のインターフェースは工夫しています」(荒川氏)。

 現在「クロネコメンバーズ」の登録ユーザーは約1500万人。メンバー数はコンスタントに増えているが、「まだまだ知らないという人も多い。お客様の利便性も上がるサービスなので、もっと活用してもらえるようアピールしていきたい」(荒川氏)と考えている。

ヤマト運輸営業推進部係長の荒川菜津美氏
ヤマト運輸営業推進部係長の荒川菜津美氏

運転免許のないセールスドライバーが登場!?

 このような配達日時の通知や変更をスムーズにするための取り組みに加えて、ヤマト運輸が進めているのが「宅配便受け取りロッカー」の整備だ。宅配便受け取りロッカーは駅などに設置されており、荷物の受け取り先として指定できる。受け取れる時間が24時間、あるいは始発から終電までと長いので、「最寄り駅や乗換駅にあれば、コンビニや会社で受け取るよりも便利」と思う人もいるだろう。現在はまだ300カ所に設置されているだけだが、今年度中に3000まで増やす目標という。

受け取り場所に宅配便受け取りロッカーを指定すれば、帰宅途中で荷物を受け取れる。運営しているのは、ヤマト運輸が出資するパックシティジャパン。ヤマト運輸専用ではなく、佐川急便などとの共同利用(画像提供/ヤマト運輸)
受け取り場所に宅配便受け取りロッカーを指定すれば、帰宅途中で荷物を受け取れる。運営しているのは、ヤマト運輸が出資するパックシティジャパン。ヤマト運輸専用ではなく、佐川急便などとの共同利用(画像提供/ヤマト運輸)

 クロネコメンバーズでは、宅急便の受け取り先として、コンビニやヤマト運輸の営業所の他、勤務先なども指定できる。それでも宅配便受け取りロッカーのニーズがあるのは、勤務先によっては荷物の受け取りが禁止されていたり、生活動線上にコンビニがなかったりするケースも少なくないからだという。例えば、最寄り駅から自宅まではバスを利用しているケースでは、コンビニよりも駅で受け取れたほうがありがたい。実際、電車の乗り換え駅で改札を出たときに受け取って、そのまま帰宅するという使い方をしている人もいるとのこと。

 さらに、将来を見据えた取り組みとして、4月から神奈川県藤沢市で実用実験を行っている「ロボネコヤマト」も興味深い。ロボネコヤマトは、宅配便受け取りロッカーを搭載した自動運転車が対象エリアを走る。利用者がスマホから荷物を受け取る場所と時間を指定すると、その時間に自動運転車が到着。利用者は事前にメールで送られてきた暗証番号を使ってロッカーを開け、荷物を受け取るというものだ。これによって、従来は2時間単位だった配達時間の指定を、10分単位にすることを目指しているという。

ロボネコヤマトの自動運転の配達車両。中には宅配便受け取りロッカーと同様のロッカーがある(ヤマト運輸の動画より)
ロボネコヤマトの自動運転の配達車両。中には宅配便受け取りロッカーと同様のロッカーがある(ヤマト運輸の動画より)
利用者は地図から受け取り場所を選択する(ヤマト運輸の動画より)
利用者は地図から受け取り場所を選択する(ヤマト運輸の動画より)
受け取る時間は10分単位で選べる(ヤマト運輸の動画より)
受け取る時間は10分単位で選べる(ヤマト運輸の動画より)
配達車両が受け取り場所に近づいてくると、携帯電話に電話が掛かる。到着したら、利用者はあらかじめ設定した暗証番号などを入力し、自分でロッカーを開けて荷物を受け取る(ヤマト運輸の動画より)
配達車両が受け取り場所に近づいてくると、携帯電話に電話が掛かる。到着したら、利用者はあらかじめ設定した暗証番号などを入力し、自分でロッカーを開けて荷物を受け取る(ヤマト運輸の動画より)

 自動運転による宅配は無人なので、早朝や深夜など、コンビニやヤマト運輸の営業所の営業時間外でも荷物を受け取れるようになるかもしれない。また、現状は車の運転ができないとセールスドライバーにはなれないが、運転免許がなくても接客専用のスタッフとして働けるようになる可能性もある。「セールスドライバーは運転時以外は接客。接客が得意な人材を生かす道を開けるかもしれない」(ヤマト運輸広報)。

 宅配便受け取りロッカーも、ロボネコヤマトも、その根底にはニーズ対応を最優先してきたヤマト運輸の考え方がある。宅急便は40年以上前に始まったサービスだが、当時と現在では利用者のライフスタイル、ニーズも全く違う。増える荷物と変わる利用者ニーズの両方に応えるため、ヤマト運輸は新しいテクノロジーも取り入れて試行錯誤を続けている。

(取材・文/堀井塚高)

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