最近、2つのトピックでデジタル通貨(仮想通貨)の「ビットコイン(Bitcoin)」が話題に上った。一つは、ビックカメラをはじめ、店頭での支払いにビットコインを導入する小売店が増えてきたこと。もう一つは、世界規模で被害が広がっている「ランサム(身代金)ウエア」攻撃の身代金支払い方法として、ビットコインが指定されたこと。そもそもビットコインとは何なのか。

 家電量販店のビックカメラがデジタル通貨「ビットコイン(Bitcoin)」を決済手段に試験的に導入した。4月7日以降、ビックカメラ有楽町店とビックロ ビックカメラ新宿東口店では、1会計につき最大10万円相当までの支払いに使用できる。中小規模の小売店に多く導入されているリクルートの決済サービス「Airレジ」も年内をめどに、全国26万の採用店舗でビットコイン決済に対応することを発表しており、2017年はビットコインが利用可能な店舗が一気に増えそうだ。

 ではなぜ、今ビットコインがの導入が進んでいるのか。ビットコインと聞いて、“胡散臭い”イメージを抱く人も少なくないのではないだろうか。

ビットコイン決済を4月7日にスタートさせたビックロ ビックカメラ新宿東口店(写真/シバタススム)
ビットコイン決済を4月7日にスタートさせたビックロ ビックカメラ新宿東口店(写真/シバタススム)
ビックロ ビックカメラ新宿東口店にはビットコイン決済が利用可能なことを示す垂れ幕が見られる(写真/シバタススム)
ビックロ ビックカメラ新宿東口店にはビットコイン決済が利用可能なことを示す垂れ幕が見られる(写真/シバタススム)

実は活発なビットコインの取引

 ビットコインに胡散臭いイメージがつきまとうのは、2014年の事件以降だろう。東京に拠点を置いていたビットコイン交換所のマウントゴックスが突然取引を停止したことで、同社経由で取引を行っていた投資家らがかぶった損失は、のちの報道で2.6兆円を超えたともいわれた。国単位では中国政府がビットコインの取引規制に乗り出すなどデジタル通貨への風当たりも強くなりつつある。

 その一方で、ビットコインは今もなお活発に取引されており、2017年4月末時点の価格は1ビットコイン当たり1300米ドルを超える水準にまで上昇している。これは2013~2014年にかけてのビットコインバブルを上回る水準で、仮に2015年に200~300米ドル程度の価格だったビットコインを保持し続けていれば、現在の資産価値は4倍以上になる計算だ。世界の不安定な為替事情を受けてビットコインに資産が流れ込んでいるという背景もあるが、このトレンドはさまざまな事情を経てなお取引が活発だということを示している。

ビットコイン(BTC)の過去5年の米ドル(USD)との交換レート(出典:Google Finance)
ビットコイン(BTC)の過去5年の米ドル(USD)との交換レート(出典:Google Finance)

 日本でも、従来まで“グレー”だったビットコインの法的位置づけが、2017年4月1日施行の「改正資金決済法」をもって明確化された。前述のマウントゴックスのような一部事業者の不透明な振る舞いや、身元を明かさずに送金を行うアンダーグラウンドな市場で利用されていることがビットコインの不安の原因となっているため、政府は取引に携わる事業者を規制の枠にはめて「安全で透明性のある取引」をビットコインでも実現できるようにしたのだ。今後、ビットコインの取引仲介や保管、他の通貨との交換といった業務を行うビットコイン交換所は登録制になる。ビットコインの安全性は高まっていくだろう。今回、ビックカメラやAirレジがビットコインの取り扱いを始めたのも、この改正資金決済法施行が大きい。

ビットコイン導入の狙いは海外旅行客

 店頭などで使用できる決済手段には、すでに現金、クレジットカード、「楽天Edy」「nanaco」「WAON」「Suica」「PASMO」といった流通系や交通系の電子マネー、「LINE Pay」などのモバイル決済がある。それでも今回、ビットコインを導入したのは、海外旅行客の利用を想定してのことだろう。

ビックカメラのレジでは新たな支払い方法としてビットコインが加わった(写真/シバタススム)
ビックカメラのレジでは新たな支払い方法としてビットコインが加わった(写真/シバタススム)

 ビットコインの特徴の一つに「価格」の概念が存在しないことがある。ビットコインそのものには価格がなく、交換所で円や米ドルなどの通貨に交換されて初めて為替レートが決まる。例えば店頭で1万円の製品を購入する場合、まずはその金額に該当するビットコインに換算され、それがユーザーのビットコインアドレス(口座)から各店のビットコインアドレスに送信されるわけだ。

 ビットコインは基本的に世界中どこでも利用が可能なため、国をまたいでの利用に大きな効果を発揮する。現地通貨ではなくビットコインで決済が行われれば、海外旅行で買い物をするときでもいちいちATMや両替所で現地通貨を引き出す必要がない。手持ちの現金を最小限にし、小銭を取り扱わないで済むのは大きなメリットだ。今回、電子マネーやクレジットカードをすでに導入する量販店においてもビットコインを新たに導入したのは、こうしたインバウンド需要をにらんでのものだ。

ビットコインは新しい決済方法として定着する?

 とはいえ、このままビットコインが定着するかというと、まだまだ難しいと言わざるを得ない。オンライン決済サービスを提供する米PayPalや米Stripeなどは、既に決済手段の1つとしてビットコインを採用しているが、まだそれほど利用されていないのが現状のようだ。ビットコイン自体の認知度が低く、さらにそれを利用しているユーザーともなれば数は大幅に減るだろう。現状、手軽さや安全性でも現金やクレジットカード、電子マネーに及ばないため、当面はごく限られた範囲での利用にとどまるというのが筆者の見通しだ。

使わないビットコインを保管するハードウエアウォレット「Ledger Wallet Nano」。ビットコインではユーザー個々人がパソコンなどで通貨を管理する必要がある。パソコンをハッキングされて大金を失ったなどということがないように、こうした外付けの保管用デバイスがある。こういった点も、一般にはまだまだ利用障壁が高いと言えそう
使わないビットコインを保管するハードウエアウォレット「Ledger Wallet Nano」。ビットコインではユーザー個々人がパソコンなどで通貨を管理する必要がある。パソコンをハッキングされて大金を失ったなどということがないように、こうした外付けの保管用デバイスがある。こういった点も、一般にはまだまだ利用障壁が高いと言えそう

 ただ、ビットコインの利用範囲は限られていても、ビットコインまたはビットコインの技術を使った別の通貨や取引手段が、近い将来主流になる可能性はある。ビットコインの根幹技術である「ブロックチェーン」とそれを使って個人間の取引を分散管理する「分散台帳」方式は、各国の研究機関や金融機関によって研究が進められている。ブロックチェーンによる分散管理では、セキュリティー対策を万全にした高性能なシステムで集中管理するよりも、低コストで安全に取引ができる。既にクレジットカードブランドの米Visaがブロックチェーンを使った安価な銀行間送金のサービスを提供しているし、日本では東京三菱UFJ銀行がブロックチェーンを使った独自の電子マネー「MUFGコイン」の実験サービスを開始しているともいわれている。ビットコインとその技術が今後の決済のキーになるのは間違いない。

(文/鈴木淳也)

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