フェイスブックが「次のソーシャル」として開発に力を入れているのが、仮想現実(VR)を使ったSNSサービス。その未来が垣間見えるアプリが公開された。「攻殻機動隊」で見て憧れた「バーチャルSNS」は、ついに現実のものになるのか?

フェイスブック「Facebook Spaces」
フェイスブック「Facebook Spaces」

 米フェイスブックは4月18日(現地時間)、開発者向けカンファレンス「F8」のキーノートスピーチで、VRソーシャルアプリ「Facebook Spaces」を発表、提供を開始した。Facebook Spacesは、VR空間(仮想空間)でのソーシャルコミュニケーションを実現するアプリだ。

 現時点で本アプリはベータ版(試用版)という位置づけで、VRデバイス「Oculus Rift」用のコンテンツ配信プラットフォーム「Oculus Store」でのみ配信されており、他社のVRデバイスである「HTC Vive」や「PlayStation VR」では利用できない。また、Facebook Spacesを利用するためにはハンドトラッキングコントローラー「Oculus Touch」が必須と、利用のためのハードルが高い。

 フェイスブックはアップル、グーグル、マイクロソフトとさまざまなメーカー製OS用にアプリケーションを開発しているが、Oculus Riftを開発、販売するオキュラスを傘下に収めている以上は、他社のVRデバイス用にFacebook Spacesを提供する可能性は低いだろう。

何ができるのか?

 前述の通り、Facebook Spacesは現在ベータ版にすぎないので、ブラウザー上またはアプリケーション上のフェイスブックと比べると非常に限られた機能しか搭載されていない。まずはどのような機能が搭載されているのか、体験レポートをお届けしよう。

 Oculus Riftのホーム画面からFacebook Spacesを起動すると、フェイスブックアカウントでのログイン画面が表示される。ここでフェイスブックのIDとパスワードを入力すると、Facebook Spacesへのログインが完了し、まずはチュートリアルが表示される。そのチュートリアル後に表示されるのは、360度に広がる屋外の画像と丸いテーブルだ。

Facebook Spacesはフェイスブックを基盤に構築されたVR用ソーシャルコミュニケーションアプリケーション。当然フェイスブックアカウントでのログインが必須となる
Facebook Spacesはフェイスブックを基盤に構築されたVR用ソーシャルコミュニケーションアプリケーション。当然フェイスブックアカウントでのログインが必須となる
ユーザーそれぞれの手元には操作パネルが表示される。ほかのユーザーの操作パネルは見えない
ユーザーそれぞれの手元には操作パネルが表示される。ほかのユーザーの操作パネルは見えない

 さて、Facebook Spacesで現在できるのはVR空間でフェイスブックのタイムライン上の画像・動画を複数人で鑑賞することと、ユーザーの分身である「アバター」を使ったコミュニケーションだ。

アバターはユーザーがフェイスブック上にアップロードしている自分の画像から生成し、いつでも修正、再作成が可能。メガネやシャツの色も変更できる
アバターはユーザーがフェイスブック上にアップロードしている自分の画像から生成し、いつでも修正、再作成が可能。メガネやシャツの色も変更できる

 Facebook SpacesのVR空間には最大で4人まで同時に集合できる。ユーザーそれぞれの目の前には操作パネルが配置されており、タイムライン上の画像・動画を表示する「Media」、鏡・ペン・自撮り棒を利用できる「Tools」、呼び出す友だちを選ぶ「Friends」、アバターを設定する「Appearance」、ペンで描いた画像を呼び出す「Drawings」、各種設定を行なう「Settings」、座る位置を変更する「Move」のコマンドを利用できる。

「マイノリティ・リポート」の世界が現実に

 利用の流れとしては、FriendsからFacebook Spacesにログインしているユーザーを招待したのちに、「Media」から画像・動画を一緒に鑑賞しつつ、Oculus Riftのヘッドマウントディスプレーに内蔵されているマイクとスピーカーで音声会話するというものになる。文字で解説すると味も素っ気もないが、実際に体験するとなかなかの未来感だ。

Facebook Spaces内では、Facebook Spacesにログインしているユーザーと、それ以外のユーザーが分類されて表示される。Facebook Spacesでログインしているユーザーに対してはInvite(招待)、Join(参加)、Video Call(ビデオ通話)が可能。Facebook Spacesにログインしていないユーザーに対してもVideo Callは利用できる
Facebook Spaces内では、Facebook Spacesにログインしているユーザーと、それ以外のユーザーが分類されて表示される。Facebook Spacesでログインしているユーザーに対してはInvite(招待)、Join(参加)、Video Call(ビデオ通話)が可能。Facebook Spacesにログインしていないユーザーに対してもVideo Callは利用できる

 Mediaで選択した画像はVR空間で宙に固定されているが、ハンドトラッキングコントローラーと同期している仮想的な両手でつかみ、移動、角度調整、拡大縮小も自由自在だ。

 このあたりの操作感が古くはSF映画「マイノリティ・リポート」、新しくは「アイアンマン」っぽい。「この写真をよく見てよ」と言いながら写真をつかみ、相手に手渡したのちに感想を聞くというのは、たとえ相手がアバターでも非常に距離が近く感じる。

Mediaから選択した画像を手渡す様子。自分、ほかのユーザーを問わず、最後につかんだ手に主導権が移るのでスムーズに受け渡しできる
Mediaから選択した画像を手渡す様子。自分、ほかのユーザーを問わず、最後につかんだ手に主導権が移るのでスムーズに受け渡しできる

「360度の画像・動画の共有」が素晴らしい

 なんと言ってもFacebook Spacesの真骨頂は、360度の画像・動画の共有体験だ。

 Mediaから360度の画像・動画を選択するとユーザーの目の前に球体が表示される。その球体をテーブルの中央にセットすると、Facebook Spacesの背景が360度の画像・動画に変わるのだ。

 1人で360度の画像・動画を見るならスマートフォンと簡易VRゴーグルでも可能だが、離れた場所にいる最大4人のユーザーと同時に360度の画像・動画を鑑賞し、お互い音声で感想を言い合えるというのは実に未来的な体験だ。

今回はふたりだけで、しかも筆者の押し入れの360度画像を見ただけだが、360度のホラー動画などを4人で鑑賞すれば「オイ、うしろうしろ!」と非常に盛り上がりそうだ
今回はふたりだけで、しかも筆者の押し入れの360度画像を見ただけだが、360度のホラー動画などを4人で鑑賞すれば「オイ、うしろうしろ!」と非常に盛り上がりそうだ
Toolsのペンを使い複数人で絵を描いたり、自撮り棒でFacebook Spaces内の記念写真を撮るのも目新しい体験だが、現時点ではデモンストレーション的な機能の範疇に留まっている
Toolsのペンを使い複数人で絵を描いたり、自撮り棒でFacebook Spaces内の記念写真を撮るのも目新しい体験だが、現時点ではデモンストレーション的な機能の範疇に留まっている
Facebook Spacesのユーザー体験を短い動画にまとめてみた。360度動画ではないが、これが全天周に広がっているとイメージしながらご覧いただきたい

SNSを変える可能性があるのか?

 スナップチャットをはじめとした新たなSNSアプリの登場によりユーザー離れが指摘されているフェイスブックだが、2017年5月3日に発表した2017年1〜3月期決算では利用者数が前年同期比17%増の19億4000万人になったとしている。

 フェイスブックがさらなるサービス拡充の切り札としてVRに注力しているのは間違いない。2014年にオキュラスを買収したことはもちろん、前述の開発者向けカンファレンス「F8」では、360度カメラ「Giroptic iO」を参加者全員に配布しており、今後360度コンテンツを拡充し、視聴環境を充実させていく姿勢を示したと言える。

 一方、VRデバイスが現時点で一般層に普及していない最大の理由は利便性とコストの問題だ。

 現在のハイエンドVRデバイスはPCやゲーム機とケーブルで接続する必要があるが、数年でワイヤレス化、スタンドアローン化が進む見通し。利便性が向上し、より多くの人々が購入するようになれば、半導体の進化と相まって低価格化も進む。その時にはVR(仮想現実)も楽しめるAR(拡張現実)、MR(複合現実)デバイスが主流になっている可能性はあるが、これから数年のスパンで爆発的に普及することは間違いない。

 スマートフォン、タブレット、PC以外で情報に触れるようになった時代にコミュニケーションのあり方が変わるのは当然のこと。VRデバイスが本格普及し、そして現時点では機能が絞られているFacebook Spacesからベータ版の文字が取れた暁には、SNSのあり方を大きく変えるはずだ。360度コンテンツを複数人でリアルタイムに共有する体験は、その一端を十分垣間見せてくれる。

 アニメの「攻殻機動隊」や「PSYCHO-PASS」を見て憧れたバーチャルSNS。それを体験できる時代はもう目前だ。

(文/ジャイアン鈴木)

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