据え置き型と携帯型の機能を併せ持ち、外でも家でも1台で遊べる新機軸のゲーム機「Nintendo Switch」(任天堂)。ゲーム業界の最大商戦期である12月ではなく3月に発売されたにもかかわらず、予約が殺到。1カ月たっても入手困難な状況が続いた。
ヒットの原動力となったのが、「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」。決められたルートに沿って攻略するのではなく広大な世界を自由に探索できるオープンワールド(同社ではオープンエアーと呼んでいる)形式をシリーズで初めて採用するなど遊び方を一新した意欲作で、国内約35万本(2017年4月9日時点、「ファミ通」調べ)、北米130万本以上(2017年3月時点、NPD調べ)を売り上げるヒットとなっている(関連記事「大ヒット! Switch版『ゼルダ』の魅力は“何でもあり”」)。
なぜ今、オープンワールドを採用したのか、同社プロデューサーの青沼英二氏に聞いた。
――シリーズ初となるオープンエアー(オープンワールド)形式を採用したことに注目が集まっています。なぜ今、オープンワールドなのですか。
青沼英二プロデューサー(以下、青沼): 「時のオカリナ」で初めて3Dで遊ぶゼルダを作ったとき、我々が注意したのは3Dに慣れていない方に対して、広い世界でも迷わず先に進めるという「ルート」を示すことでした。
当時、それは正しいことのように思えました。しかし、シリーズを積み重ねるうちに、「迷わない」は「それしかできない」「逃れられない」という閉塞感を生むことになり、それを不満足に感じる方も多くなっていきました。
「オープンエアー」とはまさにその「閉塞感」からの解放を意味する言葉です。シームレスにつながる広大な世界を自由に探索して、自分なりの「答え」を見つけ出して進めることができるので、その「体験」は100人いたら、100通りあるものになっていると思います。
――オープンワールドのゲームといえばパソコン向けゲームのイメージが強いですが、従来型のオープンワールドゲームのシステムから大きく改良した点はありますか。
青沼: 最も大きく異なるのは、起伏に富んだ地形構造と、それを縦横無尽に踏破できるプレイヤーの“性能”(能力)だと思っています。
広い世界であっても、平坦な場所がただ延々と続いていたのでは、新たな場所を発見する喜びは少ないですが、かといって山で閉ざされた場所をいちいち迂回しないといけないのでは、自由に探索する喜びはなくなってしまいます。
今作ではさらに、高い場所から見下ろしたときに、自分の目で目的地を発見して、そこにアプローチするという動線を大切にしたかったので、そこまで一気に降りていける「パラセール」というアイテムを作りました。「探索」を最大限に楽しんでいただけるポイントになっていると思います。
――これまでのオープンワールドのスタイルに比べて自由度が格段に高い印象ですが、開発に苦労されたのはどのような点でしょうか。
青沼: 自由度があっても「目的」がなければ長くこの世界を楽しんでもらうことはできないし、遊んでくださる方によってその「目的」もさまざまにチョイスできなければ、結局は「決められたルート」で遊ぶようなことになってしまいます。
そこで、ゲームを進めながら目的意識を持って探したり集めたりするアイテムには、さまざまなものを用意しました。
また、このゲームには敵がたくさん登場します。しかし、敵を倒さなくてもうまくやれば先に進めますし、敵を倒して得られる物は次の敵を倒すために有効な物で、その倒し方も単に対峙して倒すという手法以外に、さまざまな方法が取れるようにしてあります。
つまり、「答え」がさまざまにあるけれども、それが全編を通してあらゆる「目的」に向けて発見できるようにしています。
――発売後、ネット上では新しい遊び方を投稿するファンが続出していました。想定していなかったものもあるのではないですか?
青沼: 物理エンジンに基づいた、このゲームの中の物理法則を応用すれば、さまざまな「面白いこと」が起きます。
意図して自由に試せるようにしたのですが、例えば、鉄製の物ならなんでも持ち上げることのできる「マグネキャッチ」というアイテムを使ったワザには驚きましたね。鉄製のトロッコの上にブロックを置き、その上に乗った状態でトロッコを持ち上げると、自分を乗せたトロッコが空中を延々と上昇していくようになるのです。それを使って空中移動するという動画を見たときは、スタッフ全員、絶句していました(笑)。
300人体制で一気に遊んで問題点を探った理由
――ゲームシステムのチェックに非常に多くの人員を割いたそうですね。「300人体制で一気に遊んで問題点を探る」と以前お話しされていましたが、時間もコストもかかるなかで、ここまでやられた理由は。
青沼: 300人体制は本当に開発の最後のころなのであまり大げさに捉えていただきたくないのですが、こうしたことは昔、少人数で一つのソフトが開発できていた時代には普通に行われていたことです。
それが100人を超えるような大人数になったときには「不可能」だと誰もが思うようになってしまっただけで、そんなに驚くことではないようにも思います。
ただ、コストカットという単純な考え方で見ると「ありえない」となるので、私も開発当初はプロデューサー目線で「それは、ちょっと……」と抵抗がありました。
しかし、実際にやってみて、それがクオリティーコントロールを円滑にして、逆にコストカットにつながるというのを実感したので、最後までこれを貫くことにしました。
――特に海外のレビューサイトでの評価が極めて高いですが、これだけ多くの人が熱狂した理由がどこにあるとお考えですか。
青沼: まずポイントとしては、これが「ゼルダ」であることが大きかったのだと思います。長く続いているシリーズなので、言葉で言うほどに「変革」を行うことは容易ではないと皆さんが思っておられたのではないでしょうか。
また、その変革がこれまで「ゼルダ」を遊んできてくださったユーザーのみなさんの想像されていたものをちょっと超えていたところに「驚き」が生まれ、メディアも含めて「熱」を持って迎え入れてくださったのではないかと思います。
ユーザーのみなさんの期待に応えるのは簡単なことではないですが、今作を通じて、シリーズを作り続けることの意義はそこにあると再認識したので、今後も“すったもんだ”を繰り返して、みなさんの期待を超える「驚き」を提供できるようにしていきたいです。
日経トレンディ6月号では、Nintendo Switchやゼルダの伝説のほかにも、多数の上半期ヒット商品を紹介。さらに、下半期のブレイク予測も掲載しているので、ぜひ手に取っていただきたい。
(文/森岡大地=日経トレンディ)