任天堂が今年3月に発売した据え置き型ゲーム機「Nintendo Switch」は今なお品薄状態が続いていますが、同時に発売されたゲームソフト『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』もヒットを飛ばしています。「ファミ通」調べでは、Switch版『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』の国内推定累計販売本数は4月9日時点で34万8467本。北米でも好調で、米任天堂は4月13日、販売本数が130万本以上(このうちSwitch版は92万5000本以上、Wii U版は約46万本、NPD調べ)に達したことを明らかにしました。

『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』。発売中。6980円(税別)
『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』。発売中。6980円(税別)
ゼルダ姫のため、主人公リンクは災厄を封じる冒険に出る (c)2017 Nintendo
ゼルダ姫のため、主人公リンクは災厄を封じる冒険に出る (c)2017 Nintendo

 それも当然――今回の「ゼルダ」は、そう叫んでしまいたくなるほどの出来です。ハード発売前には、ネット上に「Nintendo Switchは、ソフトが少なすぎる!」というゲーマーからの懸念の声もありましたが、今、それはピタリと止まりました。皆、『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』に夢中になり、「これ1本あれば、まったく文句ないぜ!」と満足したために起きた現象と思われます。

 しかも、ゲーマーたちを唸らせるような密度ぎっしりのゲームであるにもかかわらず、「難しすぎて、行き詰まっちゃった……」といった不満の声も、ネット上にはほとんどありません。これは、あまりゲームがうまくない人も、ちゃんと楽しめているためでしょう。

 わたしは120時間ほどかけてクリアしましたが、過去作すべてが名作ばかりの「ゼルダ」シリーズの中でも、間違いなく、「これがシリーズ最高傑作!」と断言できます。ゴリゴリのゲーマーを満足させる作品であると同時に、ゲームに慣れていない人を楽しませ、夢中にさせてしまうという、奇跡的なバランスが保たれたゲームとして、ゲーム史にその名を刻むような1本だと思います。

オープンワールドが生み出す「何でもあり」の面白さ

 ゲームの腕を問わず、誰もが楽しめてしまうゲームになったのは、今回の「ゼルダ」が、オープンワールドというゲームジャンルに挑戦していることが大きいでしょう。

 日本ではなじみのない言葉ですが、いまや欧米のヒットゲームの大半が採用している王道ジャンルです。広大な世界をまるごと用意して、それぞれのプレイヤーに、「あとは自由に探索してくださいね!」という遊び方を提案するゲームのことだと考えてください。

 これまでの「ゼルダ」は、いわばガイド付きのパッケージツアーみたいなものでした。Aの村に行き、新アイテムを手にしたらBのダンジョンに向かい、そこでアイテムを駆使して敵Cを倒して――と、おおよそ定められた手順に従ってゲームは進行しました。

 でも今回の「ゼルダ」はガイドなしのバックパッカー旅行みたいなもの。とことん自由です。「何でもあり」といっていい。

 この広大な世界には村が点在していますが、どの順番で行っても、まったく問題ありません。何体かの“中ボス”(のような敵)がいますが、どの順番で攻略してもOKです。本当のことを言うと、これらの中ボスは倒す必要すらありません(倒したほうが、その後の冒険は楽になります)。

 ゲーム開始から1~2分後、あなたは丘の中腹に立ち、禍々しい雰囲気に包まれた城を見下ろすことになるのですが、そこがラスボスがいるハイラル城です。最低限の準備が整った段階で(ここまで1~2時間ほど)、どの村にも行かず、どの中ボスとも戦わず、いきなりハイラル城を目指してもいいのです。とことん自由なのです。

 ただし、それはボクシングを習い始めた段階で世界ヘビー級チャンピオンに挑むくらい無謀な行為ですので、「そっちに向かおう!」と大地に降り立った10秒後、敵の姿すら確認できないまま瞬殺されてしまいます。試しに挑戦してみてください。敵があまりに凶悪過ぎて、つい笑ってしまう、という稀有(けう)な体験ができます。

遠くに見えるのがハイラル城。ゲーム開始直後に発見できる。すぐに行くこともできる (c)2017 Nintendo
遠くに見えるのがハイラル城。ゲーム開始直後に発見できる。すぐに行くこともできる (c)2017 Nintendo
広大な世界には、さまざまな村がある。どの順番で巡っても問題ない。行かなくてもクリアは可能 (c)2017 Nintendo
広大な世界には、さまざまな村がある。どの順番で巡っても問題ない。行かなくてもクリアは可能 (c)2017 Nintendo

自然環境そのものが封じ込められた世界

 ゲーム開始当初のプレーヤーはとても弱いですから、自身を強くするために、世界のあちこちを巡る旅を始めることになるのですが、この旅そのものが、とてつもなく楽しいのです。

 どこまでも広がる平原は、どこまでも自由に歩けます。険しい山々も全て登れます。野生馬をつかまえ、その背に乗って駆けてもいい。筏(いかだ)で川を下ってもいい。風船のようなアイテムを見つければ、それを使って宙を浮き、上へ上へと昇っていくという移動方法すら許されています。体力が減ってきたら、木々に実った果物や、山々にある山菜を採り、川で魚を捕まえ、弓矢で獣を狩って食料にしましょう。

世界には、さまざまな地方がある。ここは南国の海。リゾート風 (c)2017 Nintendo
世界には、さまざまな地方がある。ここは南国の海。リゾート風 (c)2017 Nintendo
こちらは砂漠。暑さ対策をしていないと体力が削られていく (c)2017 Nintendo
こちらは砂漠。暑さ対策をしていないと体力が削られていく (c)2017 Nintendo

 世界はとんでもなく広いです。そこには寒波に包まれた雪山もあれば、灼熱の砂漠もあります。スコールが降り続ける熱帯もあれば、溶岩が流れる火山地帯もあります。時間とともに日は昇り、大地に落ちる自分の影は刻一刻と変化していきます。天候もさまざまで、風が吹くときもあれば、雨になり、落雷することもあります。旅をしているうちに、ここには地球上のあらゆる自然環境が、すべて封じ込められているかのような、そんな感覚に包まれていくことでしょう。

 しかも、それらの自然環境そのものが、ゲームを解く謎と密接と結びついています。大地を吹く風、刻々と変わる影の形、ときおり地面に落ちる雷。すべてがゲームを進めるカギになっているのです。ネタバレになるので詳しくは書けませんが、そよ風に揺れるたいまつの炎すら、大事な謎解きのためのヒントになっているほどです。

熱帯地方。いつもスコールが降り、そうでないときも湿気で霞んでいる (c)2017 Nintendo
熱帯地方。いつもスコールが降り、そうでないときも湿気で霞んでいる (c)2017 Nintendo
雪山。一面が雪に覆われていて、寒さ対策をしていないと体力が削られていく (c)2017 Nintendo
雪山。一面が雪に覆われていて、寒さ対策をしていないと体力が削られていく (c)2017 Nintendo

 こうしてすべての自然環境に意味があり、ゲームを楽しませる要素として組み込まれていることに気付いてくると、「ラスボスなんか、どうでもいいや」とばかりに、この広い世界の謎を解く旅そのものが楽しくなります。そして、どんどん夢中になっていく自分に気づくことになるのです。

 そう、これこそが、オープンワールドの魅力。従来型のゲームのように、途中で「敵が倒せない」とか「謎が解けない」という状況に陥って、ゲームの進行がストップしてしまうことはありません。解けない謎があったら、無視して別の場所へ行けばいいだけのこと。好きなように世界を駆けまわり、どんどん新しい謎に出合えるからこそ、このゲームはとてつもなく楽しくなってくるのです。

2~3カ月は楽しめる大ボリューム

 こんな広大な世界の上に、ファミコン時代から続く名作アクションゲーム「ゼルダ」の魅力が組み込まれているのですから、大傑作になるに決まっています。

 剣や弓矢で魔物を倒していくアクションゲームは、ちょっと楽しめる自信がないなぁ……とお考えの方もいるでしょうが、あまり気にしなくて平気です。何度も言いますが、今回の「ゼルダ」は「何でもあり」だからです。

 魔物たちと真っ当に戦う必要はありません。例えば、遠くから火のついた矢を放ち、魔物がいる周辺の枯れ草を燃やして一網打尽にするのはいかがでしょう? 坂の上から巨大な岩を転がして、魔物を押し潰してもいいですね。雪山ならば、小さな雪玉を転がすだけで、それが次第に大きくなって魔物をなぎ倒してくれます。魔物を倒す方法なんて、アイデア次第でどうにでもなるのです。

腕に自信があるなら、凶悪な魔物たちとの正面からの戦いを堪能できる (c)2017 Nintendo
腕に自信があるなら、凶悪な魔物たちとの正面からの戦いを堪能できる (c)2017 Nintendo

 そもそも今回の「ゼルダ」では、ハートの器(体力のようなものと考えてください)を増やすために、敵を倒す必要が(ほとんど)ありません。各地に点在する「謎」を解いていくだけで、どんどん強くなります。魔物から逃げまくってもOKなのです。

 だから、ゴリゴリのゲーマーは、魔物と正面から戦いまくるゲームとして楽しめますし(それはそれで、テクニックを駆使した爽快なアクションが堪能できます)、そうでない人はアイデア次第で戦いを回避し、旅と謎解きを中心に楽しめます。あらゆる実力の人を夢中にさせている理由は、こんなところにあるのでしょう。

こちらはダンジョン(のようなもの)の内部。ここでの謎解きは、なかなかのやり応え (c)2017 Nintendo
こちらはダンジョン(のようなもの)の内部。ここでの謎解きは、なかなかのやり応え (c)2017 Nintendo

 さあ。いかがでしょう? クリアの目安は100~120時間くらい。毎週末、プレー時間を10時間ずつ捻出したとしても、2~3カ月は楽しめるボリュームです。最近のゲームのトレンドを知るためにも、ぜひ体験してほしいゲームです。

 なお、家族から「見たいテレビがある」と言われたら、Nintendo Switchを携帯モードに切り替えるだけでテレビを明け渡せるのもうれしいところ。リビングでゲームを楽しみつつ、家庭円満が保ちやすいことも強調しておきます。大人がゲームを楽しむうえで、この仕組みは本当にありがたいものです。

(文/野安ゆきお)

■変更履歴
記事タイトルを「大ヒット! Switch版『ゼルダ』の魅力は“何でもあり”」から、「Switch版『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』の魅力は何でもあり」に修正しました。[2020/1/15 12:30]
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