SXSW2018のトレンドは「グローバルコネクション」
SXSWが会期中に発表した2018年のブレイクアウトトレンドは「グローバルコネクション」。テクノロジーに興味がある人だけでなく、年齢・人種・性別・専門領域を越えてどれだけ多くの人に新しい価値を広めることができるのか? それが2018年の最大のテーマだった。
実際に米国だけでなく日本をはじめとする世界各国から参加者が増えている。「異なる価値観を持つ世界中の人々をどれだけつなげられるか?」がテーマの展示を多く見かけたのも事実だ。SXSWに出展する日本企業や日本人の中から、このテーマに沿った製品、サービスを紹介する。
例えば「Transparent」。これは会話のログを表示するだけでなく、人工知能が会話を解析し、関連する画像やニュースなどを瞬時に可視化するツールで、会議の議事録として便利なのはもちろんのこと、価値観や背景が異なる人々との会話の可能性を大いに広げられるはずだ。なぜなら、言葉の翻訳だけでなく、会話者の周辺にある文化やイメージを補完してくれるから。共感で世界中の人々をより深くつなげるツールとしての可能性を秘めている。Transparentは、まさにSXSW2018のトレンドを象徴するプロダクトだと感じた。
続いて、世界をつなげるというテーマで、日本のブースに展示されていたプロダクトやサービスを以下に紹介する。
世界にアイデアを広げる東大チーム
2013年からSXSWに参加しているプロジェクト「Todai to Texas」は、今ではすっかりSXSWでの日本の顔となっている。同プロジェクトは東京大学に関わるスタートアップやプロジェクトチームをSXSWに派遣するプログラムで、これまで30チーム以上を現地に送り込み、海外メディアにも多く取り上げられてきた。
各スタートアップへの注目はもちろんのこと、大学発スタートアップのエコシステムの構築は、SXSWでもここ数年特に議論されているテーマだ。Todai to Texasプロジェクトは、トレードショーへの出展だけでなく、ヒルトンホテルで公式セッションを使ってピッチイベントを自ら開催。会場は北米だけでなく欧州をはじめ、世界中の聴講者が集まって大いに盛り上がった。
トレードショーの外へ! 共感を得るスタートアップ
SXSWの展示会はトレードショーだけではない。ヒルトンホテルで行われる、スタートアップに関わるセッションやピッチイベントに特化した「Startup Spotlight」も目玉イベントだ。フリードリンクが提供されるレセプションスタイルで、2時間という短い時間でスピード感のあるコミュニケーションを取る必要があるため、会場の熱気はトレードショーに勝るものがある。
ここに日本から初めて挑戦したのが大阪のスタートアップ、PLEN Robotics。彼らが開発するハコ型ロボット「PLEN Cube」は、カメラを搭載するデバイス上部が360度回転するアシスタントロボットだ。無機質な四角いデバイスの上部が、動き出すと一気に生き物のような表情を見せるのが面白い。Google HomeやAmazon Alexaと同じように音声コマンドで操作するが、その独特な生き物のような動きによって、世界中から「Cute!」という声を集めていた。
トレードショーはここ数年、投資家や商談が目的の来場者以上に、トレンドの吸収を目的とした来場者が増えているのではないかとの声を聞く。また、特に日本エリアは大手企業の参加も増えて装飾も凝ったものが多くなってきており、リソースが少ないスタートアップにとって有利な状況とは言い難い。そこで、あえてトレードショーの外に出展するというのも選択肢の一つとして今後増えるのではないかと感じた。
街中で存在感を示すソニー&パナソニック
より多くの参加者との接点を増やし、自分たちのブランドをアピールするとなると、トレードショーにとどまらず街中に大きなハウスを作ってアピールする事例も定着してきた。
3年前より始まったソニーのハウス出展は2018年も非常に人気だった。その人気の秘密は、展示が体験型のエンタメコンテンツになっているからだろう。研究開発段階のプロジェクトを「WOW」な体験に変換した“Sony WOW Studio”は、今年もさまざまなアトラクションを用意していた。
一方、2017年より始まったパナソニックハウスは、衣・食・住にちなんだ“未来の暮らし”を想起させるプロダクトが集まっていた。同ハウスは、特に人通りが多い場所にあるため、インタラクティブ部門以外の来場者も多く集まっているように見えた。このような誰もが関わる“暮らし”をテーマにするのは非常に親しみやすく、来場者も楽しく未来の暮らしに触れていた。
19年のSXSW、世界と深く共感を作る日本人の活躍に期待
ここ数年、米国内だけでなく海外からのSXSW参加者が増えている。期間中には10万人近い人が集まるが、一時期の「スタートアップの登竜門」という面だけではなくなっている。テクノロジーイベントという側面からコンテンツや文化に重きを置くセッションが多くなってきている印象だ。そんな中、テクノロジー企業がSXSWに挑戦し、自分たちのアイデアのインパクトを世界中の人々に対して与えるにはどうしたらいいか?
そこに求められるのは「ストーリーテリング」だと強く感じている。つまり、プロダクトやサービスを持って単にトレードショーに展示するだけではなく、そのプロダクトやサービスが持つ背景や社会へのインパクトをより多様な視点から見つめ直し、テクノロジーに興味がない人にも伝わるストーリーをどう作り上げることができるかが、今後の日本人の活躍を生み出すキーになるのではないか? 来年はぜひとも世界の共感を集める日本人の出現に期待したい。
(文/未来予報株式会社)