テキサス州のオースティンで毎年開催される国際フェスティバル「SXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)」。日本での関心も年々高まっている。2017年で31回目を迎えたSXSWについて、海外展示会の最新事情に詳しいフリーランスライターの野々下裕子氏に解説していただいた。
SXSWは、1987年のスタート時はたった177組のミュージシャンが集まる音楽イベントだったが、やがてさまざまなアイデアや創造性を支援することを目的としたイベントへと進化。全体カテゴリーも最初の音楽(Music)に映画(Film)が加わり、そしてインタラクティブ(Interactive)と呼ぶITテクノロジーが追加され、合計3つとなった。さらに現在は教育や環境、ゲーム、スポーツ、ファッション、食などありとあらゆるクリエイティビティに関わる分野が取り込まれてきている。
日本の企業・団体では初めてアワードを受賞
ここ数年で日本からも注目されるようになり、米国以外からの参加者数では上位に入るほどになっている。複数ある展示会で最も大きい「Trade Show」では、日本からの出展面積が増えている(関連記事「8KのVRから東大のネコ耳まで 有力企業の注目デモ【SXSW2017】」。さらに今年は、インタラクティブを対象カテゴリーとする注目のスタートアップが世界からエントリーする「Interactive Innovation Awards (インタラクティブ・イノベーション・アワード)」のSTUDENT INNOVATION部門にノミネートされた東京大学の義足研究開発チーム「BionicM」が最優秀賞を受賞して話題となった。(関連記事「SXSW2017で東大のロボット義足がアワードを受賞」)
日本にはないさまざまな出展スタイル
イベント全体の規模も年々拡大しており、10日間の開催期間中オースティンの中心地であるダウンタウン全体がSXSW一色になる。コンベンションセンターをはじめ、主要ホテルのほとんどがイベント会場として使われ、それぞれでカンファレンスや展示会が行われるのだが、それ以外にも企業や国が周辺にあるレストランや空き店舗などを借り切って、正式なプログラムとして展示イベントを開催するスタイルが数年前から定着している。今年は日本からパナソニックやソニー、NTTがレストランや倉庫を借りて正式に出展したところ、予想を超える来場者が訪れたという。
こうしたラウンジ形式の出展では、飲み物や軽食を提供しつつ自社についてデモや体験を交えながら紹介する。それぞれの展示スタイルにアイデアが凝らされており、展示会やセッションの合間に休憩をかねて訪れる人が多い。展示は夜遅くまで行われ、ライブやパーティー形式のイベントを開催するのもお決まりのパターンだ。
パナソニックの関係者によれば、レストランを貸し切っての展示は、準備に1年をかけたという。同社で新規事業を創出するために生まれたプロジェクト「Game Changer Catapult」のプロトタイプを、その担当者が説明員としてアピールしていた。自分で作ったプロトタイプやアイデアを、自分で説明するのもSXSWならでは。パンフレットなどを配布するだけのコンパニオンの姿はほとんど見当たらない。
リクルートエリアにAppleとAmazonが参加
近年、SXSWの注目度が世界中で高まっている理由は、毎回時代のトレンドをうまくキャッチアップし、幅広いジャンルからの参加を受け入れているためだろう。通常、ITテクノロジーイベントに音楽プロデューサーや映画監督が参加する機会は少なく、そうした業界を越えた参加者から新鮮な意見が得られる可能性が高い。アイデアスケッチやプロトタイプの段階での出展が多いのも、商品化の前に率直な意見を得るのが目的だからだ。
今年は、SXSW全体を通じてヘルスケアや国際性、ジェンダーというトピックが目立っていた。この背景にあるのがトランプ政権の誕生だ。オバマケアの見直しなどに新しいビジネスチャンスを見出そうとする動きはもちろん、参加者同士でこうしたトピックについてイノベーティブなアイデアを出し合おうとするのが、SXSWスタイルなのだ。
トランプ政権が目指す内需拡大の影響もあったように思う。「Job Market」という、有料バッジの購入者以外でも自由に入れるリクルートエリアが数年前から開催されているが、今年はコンベンションセンターの1階という目立つ場所で大規模に設けられていた。スペースも例年より広く、いつも参加する地元企業や大学に加えてAppleやAmazonまでが出展しており、SXSWに対して企業からの期待値が高まっていることがうかがえた。
主要カテゴリーである音楽、映画、インタラクティブでは、最先端というよりあえて“今”を捉えた話題を取り入れている。例えば、カンファレスや展示ではまだまだVR(仮想現実)やAR(拡張現実)に関連するものが多く、しかもHMD(ヘッドマウントディスプレイ)といったデバイスではなく、コンテンツの展示会が行われていた。この点は毎年1月に開催されるコンシューマー向け家電見本市「CES」とうまく役割の分担ができているのかもしれない。
また、最近は国ごとの展示が増えていたが、今年はカナダのオンタリオ州など、地方行政レベルの出展も目立った。日本からも神戸市が、同市で開催されるイベント「078(ゼロ・ナナ・ハチ:神戸市の市外局番)のプロモーションのために出展しており、今後、地方行政レベルの出展が増える可能性は高いだろう。
このほかTrade Showなどで注目されていた展示を写真で紹介しよう。
本記事を執筆している現在、インタラクティブのカテゴリーは一旦終了し、後半に入って映画の試写会やミュージシャンのライブ、ゲームエキスポといった、エンターテインメント要素の強いお祭りイベントへと雰囲気を大きく変化させている。同じイベントなのに前半と後半では全く異なる雰囲気になるのもSXSWの魅力のひとつであり、後半の話題についてはまた別の記事でご紹介する。
(文・写真/野々下裕子)