米ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)社は2016年の年末商戦に向けて、据置型ゲーム機「PlayStation 4」(PS4)の新型機として従来よりも大幅に小型・軽量化した「CUH-2000シリーズ」と、4K映像を出力できる「PlayStation 4 Pro」(CUH-7000シリーズ)、そしてPS4専用のVR用ヘッドマウントディスプレー(HMD)「PlayStation VR」を発売した。3種の新しいハードウエアを投入した後の2017年に、SIEはどのような戦略をもってエンターテインメント市場に挑むのか。日本とアジアのプレイステーション事業を統括する、ソニー・インタラクティブエンタテインメント 取締役 兼 ソニー・インタラクティブエンタテインメントジャパンアジア(SIEJA) プレジデントの盛田厚氏に話を聞いた。
(構成/根津禎=日経テクノロジーオンライン編集、赤坂麻実、写真/加藤康)
PS4は薄型機とハイエンド機で成長
――まず、2016年を振り返っていただけますか。
盛田厚氏(以下、盛田氏): 2016年の年初には、小型・軽量化した「PlayStation 4」(CUH-2000シリーズ、以下PS4)、4K画質に対応した「PlayStation 4 Pro」(CUH-7000シリーズ、以下PS4 Pro)、「PlayStation VR」(以下PS VR)の3つのハードを発売することと、それに合わせて自社だけでなく、ソフトウエアメーカー各社さんからも多数のゲームソフトを発売することが決まっていました。そんな勝負の年でしたが、おかげさまで走りきれた、達成すべきことは達成できた年だったと思っています。
PS4は、従来よりも大幅に小型・軽量化したモデルと、4K映像を出力できるPS4 Proを発売したことで、ユーザーのライフスタイルやゲームの楽しみ方に合った選択肢を提供することができました。PS4の市場やユーザー層を三角形で例えると、三角形のすそ野をPS4で広げ、頂点をPS4 Proで引き上げて、全体を大きくできたと言えます。PS4 Proは主に高性能を求めるユーザーの買い替え需要を想定していましたが、新規ユーザーも想定以上に獲得できました。
対応ゲームソフトに関しては、ソフトウエアメーカー各社さんから『ファイナルファンタジーXV』(スクウェア・エニックス)や『ペルソナ5』(アトラス)、『ドラゴンクエストヒーローズII 双子の王と予言の終わり』(スクウェア・エニックス)など、SIEワールドワイド・スタジオ(以下SIE WWS)から『人喰いの大鷲トリコ』などの大型タイトルが発売され、ハードウエアの売り上げをけん引しました。PS4はこれまで、日本市場を意識したタイトルがやや不足していた感がありましたが、2016年は日本で人気のゲームタイトルがほぼ出そろいました。
Vitaで低年齢層ユーザーを獲得
盛田氏: 携帯型ゲーム機「PlayStation Vita」(以下PS Vita)に関しては、2014年10月に人気ゲーム『Minecraft(マインクラフト)』(開発:Mojang AB)のPS Vita版を発売して以来、子ども、つまり低年齢層のユーザーを積極的に取り込んできました。その取り組みが奏功し、PS Vitaを通じて子どもたちがゲーム機のコントローラーを握ってくれたことに、大きな意義を感じています。
2016年はこの流れを加速させるべく、親子で参加できるイベントの全国キャラバン「PlayStation祭」を続けたり、年末にはテレビCMを含め、大規模なキャンペーンを実施したりしました。2015年末にも同様のキャンペーンを実施し、PS Vitaの売り上げを伸ばしたとともに、多数の低年齢層のユーザー獲得に成功しましたが、2015年の年末商戦後の2016年初頭に調査したところ、まだ低年齢層のユーザーを増やせる余地が残っていると分かりました。
そこで、2016年の年末商戦でも、2015年に続く2度目の「ブレイク」を狙いました。年末に向けた大型キャンペーンで、2年連続で同種のキャンペーンを実施するのはわれわれにとって珍しい取り組みでしたが、成功を収めることができました。今後もPS Vitaに限らず、PSプラットフォームを子どもたちに訴求する取り組みは続けていきます。
買った人の満足に焦点を当てたPS VR
――2016年はPS VRが発売され、大きな注目を集めました。現在でも品薄状態と人気です。
盛田氏: PS VRは販売台数を追うのではなく、購入した人に満足してもらうことを目指しています。2016年は「VR元年」と呼ばれ、VRが脚光を浴びました。だからこそ、PS VRがどんなものかよく知らずに買った人が、買った後に「想像していたものと違う」と思うような事態は避けるべきだと。そこで、流通各社と組んで、体験会と販売をセットにする形を重視していました。
結果として、購入したユーザーさんにご満足いただけたので、VRを理解した上で楽しんでもらうという目標は達成できたと思います。ただし、想定以上に旺盛な需要に対し、現在も品切れや品薄の状態が続いていることは申し訳なく感じています。発売以降生産を増やしており、今後も大きな需要に引き続き応えていく予定です。
――ネットワークサービスはいかがでしたか?
盛田氏: ネットワークサービスの「PlayStation Network」もPS4の販売増を受けて好調でした。オンラインストア「PlayStation Store」の売り上げ、有料会員サービス「PlayStation Plus」のメンバー数共に大きく伸びました。オンラインならではの多様な販売形態やその利便性が受け入れられたのも、好調な理由の1つだと考えています。例えば、PS VR用ソフト『サマーレッスン』(バンダイナムコエンターテインメント)の1話単位での販売などは、オンラインならではの販売方法と言えるでしょう。
――日本以外のアジア市場での手ごたえは?
盛田氏: アジア市場も全般に好調でした。中でも、2016年に大きく変化したのが韓国市場です。韓国は、もともとパソコンゲームが強い市場でしたが、この1年ほどはPS4を中心にコンソールゲーム(家庭用ゲーム機)の市場も拡大しています。アジアはかつて違法コピーによる海賊版が多く出回っていて、そのためハードウエアは売れてもソフトは売れにくい状況がありました。PS4とPS Vitaの世代にコピープロテクトを強化し、海賊版を大幅に減らせたことは大きな貢献だと思います。
アジア言語へのローカライズを徹底したことも、功を奏しました。ソフトウエアメーカー各社さんに呼びかけ、われわれも支援することで、ローカライズしたタイトルを多くリリースしてもらいました。今ではソフトウエアメーカーさんの多くが、開発スケジュールにローカライズも織り込んでくれるようになっています。現地に合ったゲームタイトルを現地の言葉で数多く出せるようになったため、ハードウエアと連動してゲームが売れるようになりました。例えば、ワールドワイドで同時発売した『ファイナルファンタジーXV』の売れ行きは好調だったと聞いています。
以上のように、各ハードウエアを中心に2016年を振り返りましたが、われわれは個別のハードウエアの販売台数はもとより、PSプラットフォーム全体を利用するユーザーを増やすことを目標にしています。その観点で、2016年は日本、アジアとも非常に良い状況だったと言えます。
一家に1台ゲーム機があって、親子で遊ぶ状況を目指す
――2017年はどのような戦略で臨みますか?
盛田氏: われわれが目指すのは、子どものいる家庭に1台はゲーム機があり、子どもたちが教室でゲームの話をするのが一般的で、親も子どもと一緒にゲームをしているという状況です。
2017年の滑り出しは順調で、例えばPS4用ソフトでは1月に発売した『バイオハザード7』(カプコン)や『GRAVITY DAZE 2』(SIE)が売れています。この勢いを継続し、2017年を戦い抜くつもりです。2017年は今後、『ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて』(スクウェア・エニックス)や『New みんなのGOLF』(SIE)、『グランツーリスモSPORT』(SIE)、海外で人気の『Horizon Zero Dawn』(SIE)など、大作の発売が控えています。ですから、こうした大作をはじめ、PSプラットフォームのゲームをしっかり拡販していきたいですね。
ソニーグループ全体でIPを育てる
盛田氏: それから、引き続きPS Vitaを中心に、低年齢層のユーザーを増やしていきます。「PlayStation祭」のような、PlayStationを愛するすべての方へ遊び場を提供し続けていくことを目的としたイベントも開催していきます。「PlayStation祭」ではゲームプレーが上手な人がスターになったり、そのプレーをみんなで見て楽しめたりする環境を整えるつもりです。プロ野球があって草野球があるように、「PlayStation祭」で活躍するスターがいて、「草ゲーム」のように町や学校単位の大会が開かれるような状況につなげられたらと思っています。
今年は子ども向けのIP(ゲームのタイトルやキャラクターなどの知的財産)の開発にも取り組むつもりです。将来的には、子どもたちが喜ぶ作品・キャラクターをさまざまなメディアで展開できればと考えています。昨年発表した低年齢層向けIPの創出プロジェクト『キッズの星 プロジェクト』はソニーミュージックやアニプレックスといった、ソニーグループの協業でIPを育てていく施策です。
PS VRに関しては、タイトルもSIE WWS、ソフトウエアメーカー各社さん発やノンゲーム系を含めて多数発売されます。個人的に、VRという技術は、テレビが登場して以来のイノベーションだと感じています。それほどの可能性を持っていると思うからこそ、引き続き大切に育てていきたい。それは、われわれの未来への義務だと考えています。ですから、PS VRを体験できる機会を増やしていくとともに、魅力的なタイトルがたくさん出るよう、引き続きサポートしていきます。