2月下旬に横浜で開催したカメラ機器の展示会「CP+2017」が幕を閉じた。各メーカーの最新カメラや交換レンズ、カメラ用品をまとめて自由に試せるタッチ&トライの場を提供する展示会、という位置づけが写真ファンの間で評価されており、SNSでは「今年も満足できる内容だった」「時間を割いて行ってよかった」という肯定的な声が多かった。コンシューマー向けの展示会としては成功だったといえる。
だが、主要なカメラメーカーは足並みをそろえたように参考出品や未発表製品、新技術の展示を見合わせ、家電展示会「CES」やモバイル機器の展示会「MWC」(Mobile World Congress)で鮮烈に感じさせる近未来感やワクワク感に欠ける内容であった点は否めない。それらの展示会でいやというほど目にするAIや音声認識、デュアルカメラ(ダブルレンズ)、クラウドなど、IT業界のトレンド的なキーワードもほとんど見られなかった。さまざまな最新技術をどん欲に盛り込んで進化し続けるスマホカメラとは対照的に、本家カメラ業界の守りの姿勢や停滞感を露呈した形となった。
各社のカメラやアクセサリーを気軽に試せ、開発者と話ができる
2010年から開かれているCP+は、かつてのフォトイメージングエキスポを継承するカメラ&写真&映像をテーマにした一般消費者向けの展示会だ。規模的には、2年ごとにドイツ・ケルンで開かれるフォトキナに譲るものの、多くのカメラメーカーのお膝元である日本で開かれることもあり、海外から訪れる外国人も多い。
いち写真ファンの視線で見ると、CP+は内容が充実していて魅力的なイベントに仕上がっている。特に注目なのが、発売前の最新デジカメや交換レンズをいち早く試せるタッチ&トライコーナーだ。量販店だと、高価格のレンズはショーケースに入っていて気軽に試せないことが多いのに対し、CP+ならば担当者にひと声かければヒョイと出してくれる。量販店では盗難防止用の装置がじゃまで試しづらさを感じることがあるが、CP+ならばそのようなことはない。今年は、CP+後に発売を控えた富士フイルムの中判ミラーレス一眼「GFX 50S」や、パナソニックの6Kフォト対応ミラーレス一眼「LUMIX GH5」などの高性能モデルが人気を集めた。早々に数十分~1時間程度の待ち時間が発生するなど、新しいフォーマットや新機能に対する関心が高かった。
機材を試しながら、日ごろ接することが難しいカメラメーカーの開発者と顔を合わせて話ができるのも、CP+の魅力といえる。気になるカメラやレンズについて意見交換するだけでなく、開発者しか知り得ない設計の裏話などをこっそり教えてもらえることもある。
カメラバッグや三脚などのカメラ用品を試せるのもCP+ならではだ。カメラバッグは、通信販売を利用すれば各社の製品が容易に入手できるようになったが、カメラ量販店の旗艦店でも特に人気のある商品や一部のサイズしか置いていないことが多い。そのため、お目当てのカメラバッグの大きさや使い勝手、素材の質感を購入前に確認するのが難しいケースもある。CP+ならば、用品メーカーや販売代理店が多くのカメラバッグをブース内に陳列しており、実際に機材を入れたり背負ったりして自由に試せる。「高価なうえ使い勝手が重要なカメラバッグを、実物を見ずに買いたくない」と考える人にとっては、CP+はまたとない機会となるのだ。
このように「さまざまな新製品がいち早く試せる」「開発者とのコミュニケーションなど、量販店では難しい体験ができる」という場をまとめて提供するCP+は、コンシューマー向けのカメラ展示会としては大いに魅力的な存在となっている。
既存の製品を応用した新たな提案が見られた
各社のブースを回ると、今年のトレンドになりそうな新製品や新サービスも発見できた。
リコーのブースでは、全天球カメラの代名詞となっているTHETAシリーズと同社のデジタル一眼レフカメラを併用して撮影し、「2台の組み合わせで全天球写真のクオリティーを高める」という技術展示をしていた。デジタル一眼で撮影した写真や動画をTHETAの全天球写真に組み込み、拡大した際にデジタル一眼で撮ったものにシームレスに切り替えて精細に表示するというものだ。全天球カメラは、1回のシャッターで周囲360度の写真が残せる特徴がある一方で、拡大すると画質が粗くなる欠点がある。この技術を用いると、デジカメさえあればその欠点が解消できるので、実用性が大幅に高まるだろう。参考出品のため、実用化の時期などは未定とのこと。
富士フイルムが展示していたチェキの参考出品「instax SQUARE」も目を引いた。印画紙の短辺の幅を広げてアスペクト比を1:1にしたもので、ポラロイド用フィルムと同じスクエアフォーマットとなる。日ごろインスタグラムを活用する若年層に支持されそうだ。現像液が入っている余白を含めても正方形に近いことから、メッセージやイラストを描き込んだチェキをスマホで撮影してインスタグラムにアップロードする「肉筆付きインスタグラム」といった新たな楽しみ方が生まれるかもしれない。
instax SQUAREに対応するカメラやフィルムは2017年春に正式発表するとのことで、具体的な製品は展示していなかった。だが、ブース内のモニターで流していたプロモーションビデオ内に、対応カメラの姿がチラッと登場していた。スマホからワイヤレスでプリントできる「スマホ de チェキ」(instax SHARE)もinstax SQUARE対応モデルがお目見えする可能性があるので、スマホ派も注目できる。
次世代を感じさせる新技術の発信がなかった
日ごろからカメラや写真を趣味にしているファンにとって満足感の高かったCP+だが、「ワールドプレミアショー」とうたっている割にCP+で初お披露目となった新製品がとても少なかったのは気になる。特に、この手の展示会で目玉となる参考出品や未発表製品、新しい技術の展示がほとんどなく、ワクワク感に欠けたという声もある。
2016年は9月にフォトキナが開催され、それに合わせて各社が高性能のミラーレス一眼やデジタル一眼レフを多数発表したこともあり、今年のCP+は“弾切れ”で新製品が少なくなることはある程度予想されていた。だが、参考出品や未発表製品、目新しい新技術がほとんどない状況は、名だたるカメラメーカーのお膝元である日本から最新の技術や製品を世界に発信するという位置づけのイベントとしては、いささか物足りないのではないだろうか。
すべての家電製品をインターネットにつなげようとするIoT時代を迎えたにもかかわらず、ほとんどのデジカメはネットにつながることなくスタンドアローンで使われている。撮影した成果物がインターネットと親和性の高いデータで生み出されるにもかかわらず、そのままメモリーカードに保存して終わりと、フィルム時代と何ら変わらない旧態依然としたスタイルを継承しているわけだ。この状況から一歩踏み出し、スマホやネットを併用することでデジカメにこれまでなかった機能や利便性が生まれますよ、といった新たな提案が今年のCP+で見たかった。
幸いなことに、処理性能がパソコン並みに高く、高速通信回線で常時インターネットと結ばれているスマホを誰もが持つ時代になり、デジカメとWi-Fiで連携させればすぐにネット接続の環境は整う。撮影後の写真を即座にクラウドに送ってAIを利用した高度な処理をバックグランドで進め、被写体認識による高精度な自動補正の実行や自動分類、失敗写真の削除予約などができる「ミライのカメラ」がそう遠くないうちにお目見えしてもよさそうなものだ。
この1年ほど、「カメラまわりの新しい話題はスマホにやられっぱなし」という印象を受ける。「スマホのカメラはデジカメよりも画質が劣る」とスマホをライバル視して競うのではなく、スマホの機能や装備をしたたかに利用してデジカメをもっと便利にしてやる!ぐらいの心意気を見せてほしかった。
(文/磯 修=日経トレンディネット)