新作のネイティブゲームが好調で、2017年6月期の第2四半期は4年ぶりの増収となったグリー。フィーチャーフォン向けのブラウザーゲームが長く事業の柱だったが、スマートフォン向けのネイティブゲーム(スマホアプリゲーム)のラインアップを増やし、ネイティブゲーム中心の事業にシフトしてきた成果が現れてきた形だ。
ブラウザーゲーム事業も緩やかな減少傾向にあるものの一部のタイトルは底を打ち、反転攻勢の道筋を見つけつつある。VR(仮想現実)関連事業の立ち上げ、海外事業の再構築など、ゲーム事業の足場が固まってきた。スマホゲームの分野で「2DアクションRPGゲームに強い会社になる、というエンジン戦略を掲げた」と話す田中良和社長に、今年の動向について聞いた。
(聞き手/渡辺一正=nikkei BPnet、写真/稲垣純也)
ネイティブシフト戦略が16年末からじわりと効果
――最初に、2016年を振り返っていかがでしたか。
田中良和社長(以下、田中氏): 『消滅都市』というネイティブゲーム(スマホアプリゲーム)を『消滅都市2』という名称で、2016年11月にリニューアルしました。これに代表されるように、今あるゲームタイトルを長く楽しんでもらう施策を実施して、その成果が出てきた1年だったと思います。
今から約2年前に、(フィーチャーフォン向けの)ブラウザーゲームから(スマホ向けの)ネイティブゲームにシフトするという戦略を立てて、社内態勢も変化させました。ネイティブへシフトしてから時間がかかりましたが、2016年末からじわりと成果が出つつあります。2017年は、それをさらに加速させる方針です。
具体的には、2017年6月までに新しいネイティブゲームをグループ全体で7本リリースします。2016年下期には、デベロッパー(ゲーム開発会社)という立ち位置で、他社ブランドのネイティブゲームにもかかわったのですが、そのタイトルが好調にヒットし続けています。このような良い結果も出てきているので、2017年にリリースする新タイトルにも期待しているんです。
――ブラウザー型ゲームの動きについて教えてください。
田中氏: ブラウザー型のゲームは全体的に縮小している事実はありますが、それでも個別に見てみると、売り上げが下げ止まったタイトルもあります。昔ほど巨大ではないにせよ、一定数の市場があることを再認識しました。特に、最近はHTML5で開発したブラウザーゲームが見直されています。HTMLゲームで花を咲かせたいと思って、現在研究しているところです。
ブラウザーゲームは開発コストが低いので、後の運用まで含めて考えるとビジネス的なメリットはあるんです。例えば、ネイティブゲームで毎月1億円の売り上げがないと損益が均衡しないビジネスだとすれば、ブラウザーゲームは毎月3000万円の売り上げでも黒字になるようなイメージです。ユーザー数が少ないようなカテゴリのゲームでも、ブラウザーゲームなら運営を継続できるものがあるわけです。
それに加えて、ブラウザーゲームには柔軟性があります。あるスマホアプリの中に、さらにゲームアプリを組み込むということは現実的ではありません。例えば、Facebookアプリの中にゲームアプリを組み込めないので、ゲームアプリを別にもう一つ起動するような連動性になってしまいます。しかし、ブラウザーゲームなら可能です。1つのアプリの中で完結する“心地よさ”を作ることができるわけです。
――実際、底打ったブラウザーゲームは何だったのですか。
田中氏: 『ハコニワ』という育成ゲームは、下げ止まりつつありますね。ボリュームのサイズが大きいのは相変わらず『探検ドリランド』や『釣り★スタ』なんですけどね。その『釣り★スタ』も、この5月で10周年なので記念イベントを実施する予定です。
VRマーケットに合わせて事業を作る
――そのほかに2016年のトピックはありますか。
田中氏: VR(仮想現実)があります。VR市場の立ち上がりに応じて、「Japan VR Summit」というカンファレンスイベントを企画したり、米国で「GVR Fund」というVRスタートアップに投資するファンドを作ったりしました。
日本国内では、アドアーズさんのVR専門施設「VR PARK TOKYO」(東京・渋谷)に2種類のVRゲームを提供しました。そういう意味では、VRマーケットに足固めができた1年でした。2017年にリリースしますが、スクウェア・エニックスさんのモバイルゲームのVR版である『乖離性ミリオンアーサーVR』も作らせていただきました。
――スマホゲームの『ミリオンアーサー』をVRにするという発想がいまひとつイメージできないのですが。
田中氏: 表現が難しいのですが、すべてをVRで表現するというわけではないんです。戦闘シーンや人気の高いキャラクターなど、ミリオンアーサーで魅力的だった部分を集中的にVR化してファンに楽しんでもらおうというのが基本方針なんです。特に戦闘シーンに関してはVRにすると、これが意外とグッとくるんですよ。隣にいる人が、当たり前のように魔法を出しているところに自分が立っていると、結構ビックリするものなんです。
ゲームをプレーしていて、魔法を使うという行為は、僕はこれまでの人生で何万回もやってきました。しかし、横にいる人が本当に魔法を出しているシーンに居合わせるなんてことはなかったんですよ。何と言えばいいんでしょうか、ハワイの写真を見ただけで一度も行ったことがなかった人が、初めてハワイに旅行したときの感動と同じじゃないですかね。VRで戦闘シーンを表現するのは、結構新しいなと思ったんですよ。
VRならではのゲームでなくても、今まで当たり前だったものがVRになっただけで、こんなに「スゴイ」と思えることがひとつの発見だったんです。現在のVRマーケットは黎明期で、まだまだ小さなマーケットだと思います。そのサイズに合わせたコンテンツ作りをしていかないと、過剰品質だったり、コストオーバーで回収できないゲームになってしまいますからね。
――本格的なVR作品を1つ作ってから、最適解を求めるアプローチもあります。
田中氏: その通りだと思います。ただ、既存の何かを引用・応用するほうが良いと僕は思いました。VRはこれから発展していく分野で、AR(拡張現実)やMR(複合現実)のような別の切り口もあります。しっかりとVR関連の技術を吸収しながら、形にしていきたいと思います。
国内スタジオで作ったゲームが海外市場でも通用
――海外戦略については、どんな1年でしたか。
田中氏: 2016年は海外でリリースしているタイトルを少し整理して、運営をクローズさせるなどして、売り上げは一時的に下がりました。
その一方で、『DragonSoul』というネイティブゲームを持つ米PerBlueを10月に買収しました。当時で900万ダウンロードくらいのユーザー数を抱えるRPGゲームなのですが、まだまだ伸びしろあるタイトルと判断しました。リリースされてから2年くらいなので、われわれが持つ運営ノウハウを活用することで、改善できる余地があると思っています。
それから、バンダイナムコエンターテインメント(BNE)さんの海外戦略については参考にさせてもらっています。例えば、『ドラゴンボール』は、日本を含めた全世界同時にリリースして、成功しているじゃないですか。
僕らは、欧米市場向けのゲームは、欧米のスタジオで作らなければならないと思っていたんですね。BNEさんは日本のスタジオで作ったゲームを全世界に配信するというチャレンジをしていますよね。そうしたIP(ゲームのタイトルやキャラクターなどの知的財産)を活用した路線を、自分たちもできないかと模索しているところなんです。
――中国向けのネイティブゲーム配信も積極的な印象です。
田中氏: そうですね。昨年発表したのですが、テレビアニメ『ワンパンマン』のネイティブゲームを、2017年に日本と中国で配信を予定しています。さらに、テレビアニメ『BLEACH』のネイティブゲームを開発して、中華圏で配信する計画です。この2つのプロジェクトのいずれも、中国のOurpalm(北京市)との共同事業としてスタートしています。
それでも、まだまだ中国市場については勉強を始めたばかり。ゆくゆくは自社IPをパートナーに展開してもらうといった大規模なビジネスを実現したいものです。しかし、簡単なマーケットではないことは理解しています。弊社の手を介さないでできる大手企業のビジネスはたくさんありますが、逆に「グリーが契約の代行をしてくれるならビジネスしてもいいな」と思ってくれる企業も少なくないと思うんですよ。
いずれにせよ、強い自社IPを作ってから、中国を始めとした海外マーケットへ取り組むというステップが必要ですね。日本国内でちゃんとヒットしたゲームを作れるように、ゲーム会社としての“強み”を作らなければなりません。他の会社から協業したいと声をかけていただけるようなゲームを作れる会社になるというのが、実は大事な戦略なんです。
エンジン戦略で「強みのあるゲーム会社」に
――ゲーム会社としての“強み”というのは、どういうものを想定しているのですか。
田中氏: グリーでは「エンジン戦略」と名付けている大きな戦略があります。スマホ向けゲームの中でも、ある特定のゲームジャンルに強いゲーム会社になるというものです。その1つに「2DアクションRPGゲームに強い会社になる」という目標を掲げています。
あるジャンルのゲーム制作に強くなるということは、そのジャンルを継続的に、反復的に作り続けていくことで、知見をためていかなければならないと思うんですよね。それが、プログラムパーツのストックというか、作るためのノウハウという“エンジン”だと思います。
そうした“エンジン”を使って、『追憶の青』のような2DアクションRPGを作り続けていくスタジオになる、というのが大きな目標です。実際、2017年にリリースする予定のタイトルは、シンフォニックバトルRPG『戦姫絶唱シンフォギアXD UNLIMITED』、音と魔法の学園RPG『ららマジ』、時空を超える冒険RPG『アナザーエデン 時空を超える猫』、3Dアクション『武器よさらば』――と、RPGやアクションゲームばかりです。得意なゲームはアクション、RPGゲームだと周囲から認められるように、その路線を推し進めていく覚悟です。
強力なIPを持っていないゲーム企業は、ホラーゲームを作らせたらピカイチだとか、シミュレーションゲームを作るならこの会社だ、といった「得意ジャンル」を確立しなければならないと思っています。家庭用ゲームやPCゲーム業界ではそうした強みを持ったゲーム会社はありますが、スマホ業界はまだ混とんとしていて、まだまだできることがあると思っています。
――そうした強みが海外戦略に役立つということですか。
田中氏: ゲーム会社としての強みを持つことで、強力なIPを持った企業からパートナーとして選んでもらえるようになるわけです。日本のIPホルダーから見て、全世界同時販売・運営できるスマホゲーム制作会社はそうそうあるわけじゃありませんから、この戦略を推し進めていきたいと考えています。
国内よりも海外で成功するゲームは存在しますよね。欧米で売れるゲームは、欧米のスタジオで制作しなければならないわけじゃなくて、日本のスタジオが日本人向けのテイストで作ったゲームだって、売れることもあります。そういうアプローチもあるという考え方でも海外市場を開拓していきます。
もちろん、買収した『DragonSoul』のように、欧米スタジオが欧米市場を狙って作ったタイトルも大事です。実際、米国グリーのスタジオが2017年に新しいスマホゲームを作る計画で進んでいます。ゲームに対するリアリティーの求め方が、日本マーケットとはちょっと違う部分もありますからね。
例えば、現代戦要素でも、ゾンビのようなホラー要素でも、結構日常的なテーマとして捉えているんですね。日本じゃファンタジー要素が強くなってしまう(笑)。だから、武器のネーミングなども、グッとリアリティーが上がる。言語の壁ではなくて、感性の問題だと思います。
ただ、先ほど申し上げたように、日本向けゲームにもかかわらず、このゲームがやりたいんだという海外ユーザーは日本マーケット並みにいらっしゃる。そんなにボリュームがあるんだ、というのが最近の発見ですね。各地域にローカライズしていない日本的なゲームを求めてもらえるという、ありがたい時代に入ったと考えています。
スマホゲーム市場で、ゲーム制作の重要性を理解
――2017年のトレンドについて、どのように見ていますか。
田中氏: グリーとしては、ネイティブゲームにシフトした戦略によって、業績が伸びるというストーリーを描いています。『ららマジ』が1月25日にリリースされましたし、『シンフォギア』のリリース直前の事前登録も始まっています。これが成功すると俄然説得力が出ると思うので、現在はうまく離陸してほしいという願いを込めています。
それから、海外市場向けの新規タイトルも6月末までに出す予定です。実際のARPU(Average Revenue Per User、ユーザー1人あたりの平均売上金額)のような指標が数字として出てきて、これらのタイトルが成功しているのか、そうでないのかは1カ月である程度判断できます。そこからさまざまな手を打ちながら、3カ月もすれば、このまま成長していけるタイトルなのか、無理なのかは分かります。
最近、社内に伝えているのは、キャラクターや演出のインパクトの重要性です。例えば、丁寧なゲームチュートリアルを一生懸命に作っても、その良さを理解してもらえる前に、「つまらない」と思ってゲームを終了してしまうユーザーはたくさんいるんです。それを乗り越えて、ゲーム本編に入ってきてもらわなければならないわけです。だから、例えば、起動画面ですごくかわいい女の子が出てきて、それ見たさにチュートリアルをやってしまう、という演出も実は大事なんですね。
「よいモノづくり」というのは、チュートリアルを丁寧に作ることだけではなく、起動画面だけで続けたくなっちゃうような「絵作り」や「演出」、そもそも見ていたい「キャラクター作り」で乗り越えられる部分も大きいんです。見ず知らずのロボットゲームだとやる気がおきないけど、有名ロボットアニメのゲームは張り切っちゃう、というのがIPの力でもあり、キャラクターの力でもあると思います。丁寧なゲーム制作というのは、そうした部分まで掘り下げることが重要だと、制作チームには話しているんですよ。
――ゲーム制作に対する考え方、今と昔に違いがありますか。
田中氏: 僕らはブラウザーゲームの経験しかなかったのですが、ブラウザーゲームでは表現力よりも、他人とどのように競い合うか、対戦するか、といったソーシャル的な要素が中心でした。要はインターネット業界的文脈でゲーム事業を進めてきたわけです。しかしネイティブゲーム市場にシフトして、ゲームのシナリオだったり、キャラクターの女の子のかわいさなどの重要性を理解し始めたんです。家庭用ゲームメーカーにとっては、当たり前のことが分かっていなかった。それをキャッチアップしているところです。
――グリーのゲーム業界の中でのポジショニングについて、考え方を教えてください。
田中氏: 繰り返しですが、先程お話しした特定ジャンルに強いゲーム会社になるという目標があります。そして、次のフェーズになるのですが、グリーが作り出す世界観、音楽、映像表現といったクリエイティブな部分で、良いものを作る会社になりたいという目標もあります。
例えば『消滅都市』というゲームタイトルでは、名前を冠したコンサートを昨年行いました。先行している家庭用ゲームメーカーから見れば、我々の事業はまだまだ地に足がついていないかもしれませんが、こういう活動をたくさん実施することがIPを作り上げる、ということなんだなと思います。グリーが作るIPはいいよね、と思ってもらえることが次のフェーズの目標となります。
業界が持つ蓄積された経験をキャッチアップ中
――最後に、CESA理事として振り返ると、この1年はいかがでしたか。
田中氏: CESA会員企業のみなさまの動きを見ていると、家庭用ゲームと携帯ゲームの垣根が本当になくなってきたな、と思います。特にモバイルの収益が伸びてくることで、スマートフォンゲームの環境を、ユーザーや世の中に向けて整えていかなければならない、というタイミングになってきたと実感しています。モバイルゲームが世の中に受け入れられる素地を作っていくのが、CESAとしての目標のひとつだと思っています。
その中で、僕が担当しているのが啓発活動です。CESA内部で検討して作ってきた業界のルールというものを、世の中に理解してもらえるように働きかけをしています。ゲーム業界に向けた啓発であったり、PTAの方に説明したり、ということを担当しているんです。例えば、ガチャ問題についてもそうですし、ゲーム会社の資金決済法にまつわる問題もそうです。
これだけ数多くのモバイルゲーム会社がありますが、資金決済法をきちんと理解できている会社はどのくらいあるのだろうか、と思っています。CESAとして考えた結論やルールについて、会員企業に広く周知徹底していきたいと思います。
自分がインターネット業界で働き始めたので強く思うのですが、良くも悪くもインターネット関連会社は、ルールが何もないところで起業して、イノベーションを起こしてきました。基本的に自由だし、なんでも自己解決しようというモチベーションで仕事をしています。しかし、自由だから何をやってもいいというわけではありません。適切な自主規制とか、ルールに則って成長する業界に変貌しつつあると思っています。
例えば自動車業界のルールをよく知らない会社が、自動運転車を作って自動車業界に参入したとすれば、いろいろな問題を起こすことは想像できます。しかし、自動運転というイノベーションは、そうした新しい会社が先に実現できるだけのパワーがあるのも事実です。
われわれも同じで、CESAという団体に入ってみて、さまざまな関係者、官公庁、PTA、会員企業の姿が見えてきて、世の中の成り立ちを理解し始めているところです。そういう情報って、誰かが教えてくれるわけではないじゃないですか。インターネット関連の企業は若い人材が多いので、業界が持つ蓄積された経験やノウハウを理解する機会がないんですね。だからと言って、知らなかったでは済まされないので、ものすごい勢いでキャッチアップしているところです。