5.7型ディスプレーの縦横比は18:9に

 イメージセンサー技術に強みを持つソニーらしい高性能カメラを武器に、国内で絶大な人気を誇ってきた「Xperia」シリーズ。しかし、ソニーモバイルコミュニケーションズ(東京・品川)の端末出荷台数は年を追うごとに減っており、国内出荷台数のシェアでは「AQUOS R」「AQUOS sense」などが好調なシャープに抜かれるなど、人気に陰りが見え始めている。

 そのソニーモバイルが2月26日、スペインのバルセロナで開催されている「Mobile World Congress 2018」に合わせて新モデル2機種を発表した。会場で紹介されたのは、スタンダードモデルの「Xperia XZ2」と、コンパクトモデルの「Xperia XZ2 Compact」だ。ところが両モデルとも前モデルである「Xperia XZ1」シリーズから大幅に仕様変更されていたため、関係者に驚きが広がっている。

ソニーモバイルが新たに発表したXperia XZ2(左)と、Xperia XZ2 Compact
ソニーモバイルが新たに発表したXperia XZ2(左)と、Xperia XZ2 Compact

 まずXperia XZ2の大きな変更点が、スマートフォンの顔とも言えるディスプレーと本体のデザインだ。

 Xperia XZ2のディスプレーの縦横比は、前モデルまでの16:9ではなく、現在のトレンドとなっている18:9。5.7型の大画面ながら片手でも持ちやすくなると同時に、端末の外観も大きく変わった。

 また、Xperia XZ1が採用していたのは、スクエアな外観ながら側面に丸みを持たせた「ループサーフェス」デザイン。だがXperia XZ2では、3D曲面ガラスとメタルフレームを用いて背面全体に丸みを持たせた「アンビエントフロー」デザインが採用された。そのため最厚部の厚みは増したものの、より手にフィットする形状となっている。

 そしてもう1つ、大きな変更が加えられたのが指紋認証センサーの位置である。従来は本体右側面の電源ボタンがセンサーも兼ねていたが、Xperia XZ2では本体背面に配置された。この変更は、主に左手に端末を持って利用する人など、従来の配置を使いにくいと感じていた人にはうれしいところだろう。

Xperia XZ2が搭載する5.7型ディスプレーの縦横比は18:9。大画面と持ちやすさを両立させている
Xperia XZ2が搭載する5.7型ディスプレーの縦横比は18:9。大画面と持ちやすさを両立させている
丸みのあるガラスが特徴的なXperia XZ2の背面。指紋認証センサーも背面に移動した
丸みのあるガラスが特徴的なXperia XZ2の背面。指紋認証センサーも背面に移動した

フルHDのスーパースロー撮影と世界初の4K HDR撮影を実現

 Xperia XZ2のもう1つの特徴が、ソニーモバイル製品に共通する特徴でもあるカメラだ。1900万画素のメモリー積層型イメージセンサーを搭載し、1秒間当たり960コマのスーパースローモーション撮影ができるなど、背面カメラの性能はXperia XZ1と変わらない。だが、Xperia XZ1のスーパースローモーション撮影がHD画質(ハイディフィニション画質、1280×720ドット)に固定されていたのに対し、Xperia XZ2ではフルHD画質(1920×1080ドット)での撮影も可能になっている。もっとも、イメージセンサー自体は従来と変わらないため、フルHD画質でのスーパースローモーション撮影は、HD画質の半分の時間、つまり0.1秒を3秒間の動画にする仕様だ。

スーパースローモーション撮影は従来のHD画質だけでなく、フルHD画質にも対応。ただし撮影可能時間は半分になる
スーパースローモーション撮影は従来のHD画質だけでなく、フルHD画質にも対応。ただし撮影可能時間は半分になる

 ソニーモバイルによると、スーパースローモーション撮影の高画質化は、従来機種のユーザーからの声に応えたものとのこと。同様のスーパースローモーション撮影機能は、前日25日に発表されたサムスン電子の「Galaxy S9」「Galasy S9+」も搭載しているだけに、今後の主流となる可能性もある。

 そしてもう1つ、カメラ関連の新機能が、HDR(ハイダイナミックレンジ)対応の4K動画(3840×2160ドット)を撮影できるようになったことだ。HDR映像の再生に対応した機種や、4K動画を撮影できる機種は既にいくつか存在するが、4K HDR動画を撮影できるのはXperia XZ2が世界初となる。

 なおHDRとは、露出が異なる複数の画像を合成することにより、より自然な明るさを実現する技術のこと。4KのHDR動画撮影には、映像を一時的にメモリーに保存しておけるメモリー積層型イメージセンサーが大きく貢献しているという。従来はプロ用のビデオカメラでなければ不可能だった4K HDR動画の撮影が、スマートフォンで実現されたことには驚くばかりだ。

Xperia XZ2(左)は4KのHDR画撮影にも対応。ステンドグラスを撮影したデモを見ると、Xperia XZ2のほうは色が白飛びしていないなど、HDRの効果が明確に表れている
Xperia XZ2(左)は4KのHDR画撮影にも対応。ステンドグラスを撮影したデモを見ると、Xperia XZ2のほうは色が白飛びしていないなど、HDRの効果が明確に表れている

 さらにもう1つ、自分の顔を3Dスキャンし、3Dアバターなどに活用できる「3Dクリエーター」も進化を遂げた。従来は背面カメラで撮影する必要があったため、自分の顔をスキャンするにはもう1人の手助けが欠かせなかったが、Xperia XZ2では前面カメラでも3Dスキャンができるようになった。

前面カメラでの3Dスキャンが可能になったことから、1人でも「3Dクリエーター」の撮影ができるようになった
前面カメラでの3Dスキャンが可能になったことから、1人でも「3Dクリエーター」の撮影ができるようになった

バイブレーションでサウンドの臨場感を再現

 Xperia XZ2は映像や音楽、ゲームなどのコンテンツを楽しむことを重視して開発されており、特にサウンド面が大幅に強化されているとのこと。そのサウンド面の新機能が「ダイナミックバイブレーション」システムである。

 これは、動画コンテンツの音声をリアルタイムで解析し、再生時に端末が振動して臨場感を演出するというもので、音楽ライブなどの大音量による“揺れ”を再現できる。Xperia XZ2は、この揺れを実現するために、従来より振動の大きい駆動装置を搭載しているという。

 一方で、これまで搭載されていたイヤホン端子がXperia XZ2では廃止されており、音楽を聴く際はUSB-C端子に直接接続できるイヤホンを使うか、付属の変換アダプター利用することになる。この点には注意が必要だ。

Xperia XZ2は、ダイナミックバイブレーションを実現するため、より振動の大きい大型の駆動装置を搭載している
Xperia XZ2は、ダイナミックバイブレーションを実現するため、より振動の大きい大型の駆動装置を搭載している
底面にはUSB-C端子があるのみ。イヤホン端子は利用できないので注意が必要だ
底面にはUSB-C端子があるのみ。イヤホン端子は利用できないので注意が必要だ

 Xperia XZ2のパフォーマンス面を見てみると、CPUにはクアルコム製のハイエンドモデル向け最新チップセット「Snapdragon 845」を搭載。通信速度も最大1.2Gbpsとなっていることから、負荷の大きいゲームや高速な通信が求められる動画のストリーミングサービスなども快適に楽しめそうだ。ちなみにRAMは4GB、ストレージは64GBで、最大400GBのmicroSDも利用できるほか、ワイヤレス充電の「Qi」にも対応している。

 なお、Xperia XZ2と同時に発表されたXperia XZ2 Compactは、「アンビエントフロー」デザインや、縦横比18:9のディスプレー、4K HDR撮影が可能なカメラなど、Xperia XZ2の特徴をそのまま取り入れた5.0型ディスプレー搭載モデルだ。背面が樹脂素材だったり、ワイヤレス充電や「ダイナミックバイブレーション」システムが非搭載だったりといった違いはあるものの、前モデルの「Xperia XZ1 Compact」同様のコンパクト・ハイエンド路線をしっかり継承している。

Xperia XZ2 CompactはXperia XZ2の機能やコンセプトを継承しつつ、5.0型のディスプレーを搭載したコンパクト・ハイエンド・モデルだ
Xperia XZ2 CompactはXperia XZ2の機能やコンセプトを継承しつつ、5.0型のディスプレーを搭載したコンパクト・ハイエンド・モデルだ
Xperia XZ2の背面はガラス素材なのに対し、Xperia XZ2 Compactは樹脂素材を用いているなど、いくつか異なる点も存在する
Xperia XZ2の背面はガラス素材なのに対し、Xperia XZ2 Compactは樹脂素材を用いているなど、いくつか異なる点も存在する

グローバルトレンドに逆行して勝算はあるのか

 Xperia XZ2とXperia XZ2 Compactは、大幅に仕様変更されたことで、機能的な充実度は大きく高まったようだ。しかし、それが販売面でプラスに出るかとなると「そうとは限らない」というのが正直な感想である。

 筆者がそう考える最大の理由は、スマートフォンのグローバルトレンドに、完全に逆行していることだ。現在のスマートフォンは、本体の薄さと、ディスプレーのベゼル部分の幅の狭さを極限まで追求したデザインが主流。またカメラに関しても、2つのレンズを利用して望遠撮影や広角撮影などができるデュアルレンズが当たり前となりつつある。

 しかしながらXperia XZ2/XZ2 Compactは、そういったトレンドと明らかに逆行しているのだ。実際、Xperia XZ2の厚さは11.1mm、Xperia XZ2 Compactは12.1mm。Xperia XZ1は、最も厚い部分でさえも8.1mmだったことを考えると、かなり厚くなったと言わざるを得ない。またベゼルの幅も、最近のハイエンドモデルとしては広めだ。

Xperia XZ2の側面。最も厚い部分は11.1mmあり、実際に手に取ってみても最近のスマートフォンとしてはかなり厚いという印象だ
Xperia XZ2の側面。最も厚い部分は11.1mmあり、実際に手に取ってみても最近のスマートフォンとしてはかなり厚いという印象だ

 カメラに関しても、高性能で特徴的な要素も多いとはいえ、搭載しているレンズは1つのみ。特に大画面のハイエンドモデルに関しては、レンズを1つしか搭載していないモデルはユーザーから“時代遅れ”と評価されるようになってきているだけに、この点は大いに気になるところだ。

 現時点で発売される国が決まっている訳ではないが、5型前後のディスプレーを搭載するモデルの人気が高く、薄さよりコンパクトさを優先するユーザーが多い日本市場では、Xperia XZ2もまだ受け入れられる余地があるかもしれない。だが海外では、独自のデザインやカメラに対するこだわりが裏目に出る可能性が大きい。ソニーモバイルが海外での端末販売を拡大するには、その独自性やこだわりに説得力を持たせることが、非常に重要な課題となってくるだろう。

 ちなみにソニーモバイルは、今回の新モデルの発表に合わせる形で、独自のデュアルレンズモジュールと画像融合処理プロセッサーによって超高感度撮影を実現する技術を開発中であることを明らかにしている。この技術では静止画でISO感度51200、動画でもISO感度12800の撮影が可能になるという。となると、昨年の「Xperia XZ Premium」のように、Xperia XZ2の要素を取り入れた超高感度の上位モデルが登場する可能性も高い。そのときがソニーモバイルが真の勝負を仕掛けたときかもしれない。

(文/佐野正弘)

Xperia XZ2と同時に発表されたデュアルレンズモジュール。超高感度撮影を可能するモジュールだという
Xperia XZ2と同時に発表されたデュアルレンズモジュール。超高感度撮影を可能するモジュールだという
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