米国時間2月22日、米Airbnbは2028年までの10年間に年間ゲスト数十億人の突破を目指すためのロードマップを発表した。同日の報道関係者向けの発表会では、共同創立者の一人であるブライアン・チェスキー氏が登壇。彼が語った旅行者向けのサービス内容の刷新について解説する。

米Airbnbの共同創立者の一人、ブライアン・チェスキー氏
米Airbnbの共同創立者の一人、ブライアン・チェスキー氏

膨大なデータベースの中から最適な宿泊先を探しやすく

 Airbnbの宿泊施設の件数は世界で450万を超え、同社は今や世界最大級の巨大な部屋および家のデータベースを保有している。ここまで巨大なデータベースになると、目的地やエリアを絞り込んでも、その先は「シェアルーム」「個室」「一軒家」の3つのカテゴリーでしか物件を検索できない。

 3つのカテゴリーの中で最も多いのは「一軒家」なのだという。そこで、これを細分化し、オーストリアの山小屋のような「バケーションホーム」、ボートのキャビンやツリーハウスのような「ユニークな施設」、「B&B」「デザイナーズホテル」の4つのカテゴリーを追加することにする。2018年夏から、旅行者は7つのカテゴリーでの検索が可能になる。

 とはいえ、増え続ける物件から最適な部屋を見つけることはまだ難しいかもしれない。今後は「コロニアル」「コンテンポラリー」のような建築様式や、「シェフ用キッチン」「ベビーベッド」のような室内の設備などを軸とした高度な検索の実現も視野に入れるという。

さまざまな旅行シーンに合わせた提案も

 Airbnbはもともと、個人の旅行客向けの利用を想定して作られた。しかし、創業から10年が経過し、何百万もの人々が利用するようになると、一般的な観光ではなくビジネスでのニーズ、家族や友人同士といったグループで宿泊したいというニーズなど、個々のニーズの違いが浮き彫りになってきた。こうした多彩なニーズに応えるため、Airbnbは9つの旅行シーンに応じて、最適な物件の提案をしていくことを検討している。

 そのためにリリースしたのが、「全体評価が4.8以上」かつカテゴリーに特有の「アメニティ」「サービス」を備えた「Airbnbコレクション」だ。最初は最も需要の多い「ファミリー(Family)」と「出張(Work)」の2つのコレクションに絞って提供する。例えば、ファミリーコレクションでは、家族からの5つ星の評価を獲得し、完全なキッチン、Wi-Fi、テレビを備えた一軒家をそろえた。家族旅行は何かと荷物が多くなりがちだだが、ファミリーコレクションには、子供たちのための本から、おもちゃ、ゲームまで用意されており、身軽に旅行ができそうだ。

 もう一つの出張コレクションでは、予定が急に変更になることが多いビジネスパーソンのために柔軟なキャンセルポリシーを採用し、セルフチェックイン、Wi-Fiはもちろん、仕事用の机、アイロンやドライヤーのようなアメニティを用意した。2018年夏には、「ハネムーン」「グループ旅行」「ソーシャルステイ」がコレクションに加わり、「ウェディング」「ディナーパーティー」「唯一無二」「アクセシブル」を合わせ、全部で9つのコレクションの提供を予定している。チェスキー氏は、Airbnbコレクションをどんな旅行にも対応できるものにしていきたいと語った。

「Airbnbコレクション」
「Airbnbコレクション」

Airbnb PlusとBeyond by Airbnb、2つの上位クラスの設定

 過去10年間の事業展開の中、ゲストがAirbnbに寄せる期待はどんどん高くなってきた。Airbnbは美しい家であること、素晴らしいホストがいること、そして品質認証というプラスアルファを加えた上位クラスを設定し、「Airbnb Plus」として提供を開始する。平均的な価格帯は100ドルから200ドル程度。Airbnb Plusの施設として認定されるには、ホストは清潔さ、快適さ、デザインなど、100以上のチェック項目をクリアしなければならないというハードルの高さだ。

 今まではホストとゲストの相互評価しかなく、ゲストは施設の品質をレビューだけを頼りに判断しなくてはならなかったが、Airbnb自身がPlus認定にふさわしい施設かどうかを多面的に評価するよう方針を変えたことになる。

 Airbnb Plusは、13都市の2000件の施設を皮切りに、世界各国の都市に展開していく計画だ。日本でのAirbnb Plusの登場は2018年中を予定しているという。

 従来とは異なる顧客層開拓のため、もう一つ上のグレードも用意した。2017年1月に買収したLuxury Retreatsが扱ってきた物件の提供を、「Beyond by Airbnb」のブランドの下で刷新する。現時点ではBeyond by Airbnbに該当する日本の施設はないが、バリ島やトスカーナの別荘に代表される最高級の施設を扱い、Airbnbのプラットフォームから世界級のホスピタリティを提供する。

旅を彩る体験も提供地域を拡大、新しいカテゴリーも追加

 翌日の23日(米国時間)には、前日に続き、「トリップ」の提供地域の拡大と新しいカテゴリーの追加についての発表もあった。

 2016年11月に提供を開始したトリップは、宿泊先での体験を素晴らしいものにするためにAirbnbが提供する体験のこと。「フード&ドリンク」「アート」「自然」「スポーツ」「歴史」などから、旅行者は興味や関心に即したものを選び、ホストの家を訪問し、他の旅行者と共に旅先での体験を楽しむことができる。どの体験も専門性、ローカルアクセス、ホスピタリティの3つの要素を重視し、高い品質のものを提供できるようにしている。

 トリップ担当副社長のジョー・ザデ氏は、現在のトリップの提供は、東京を含む60都市、5000件であるが、これを2018年内に世界1000都市にまで大幅に地域を拡大する計画を明らかにした。人が旅をする理由は、単に違う場所に行くためではない。もっと多くの人に旅先での個性的な体験を楽しんでもらえるよう、追加されるのが「パッション」カテゴリーである。具体的には「社会貢献」「ソーシャルダイニング」「アドベンチャー」「Airbnbコンサート」だ。

トリップ担当副社長のジョー・ザデ氏
トリップ担当副社長のジョー・ザデ氏

 「社会貢献」の体験は、現地のNPO(非営利組織)と旅行者をつなぐという役割を果たす。旅行者は報酬の全額をNPOに寄付することで、その地域でのNPOの活動に貢献できる。

 人気の体験は、「フード&ドリンク」で、現在提供中の体験のうち30%を占めるという。「ソーシャルダイニング」は、ホストとゲストが一緒に食事をすることで、ホストとゲスト、ゲストとゲストの関係を育むことができる。さらに、都市から離れた体験も可能だ。「アドベンチャー」では、ホストはロジスティクスと宿泊先を用意し、ゲストは乗馬やハイキングなどを楽しめる。北極点への旅も検討中という。

 「Airbnbコンサート」は、ワインセラーやレコーディングスタジオの中などユニークな場所で行われる体験だ。アーティストたちは皆、活動場所とお金を稼ぐことに苦労している。彼らがファンを獲得し、そのファンベースを拡大することは社会的インパクトが大きい。どんな年齢層にも人気の高い音楽から始め、コメディ、オペラ、演劇、詩の朗読など、他のカテゴリーへも展開を拡大していく計画だ。

(文/冨永裕子)

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