メルカリは2018年2月27日に福岡市でシェアサイクル事業「メルチャリ」の提供を始める。子会社のソウゾウが事業を展開する。「平地で自転車移動に向いており。また、福岡は複数の中心街があり、その回遊性を高めるために自転車が役立つと判断した」(ソウゾウ代表取締役の松本龍祐氏)ことから、福岡を最初の事業展開先として選んだ。まずは、50カ所に駐輪場を設けて400台超の自転車を用意する。今夏までには駐車場200カ所、2000台の規模にまで拡大する計画だ。

 サービスの利用方法は、他社のシェアサイクル事業と大差はない。専用のスマートフォン向けアプリをダウンロードして利用する。この時、フリマアプリ「メルカリ」の会員であればそのIDでそのまま利用できるというのがミソ。国内6000万人超の会員基盤をそのまま生かすことで、利用者の早期獲得につなげようというわけだ。

ソウゾウ代表取締役の松本龍祐氏(左)とメルチャリプロダクト責任者の井上雅意氏
ソウゾウ代表取締役の松本龍祐氏(左)とメルチャリプロダクト責任者の井上雅意氏

 メルチャリの自転車を利用するにはまず、アプリの地図機能を使って近くにある専用の駐輪場を探し出す。目的の駐輪場に行き、アプリのカメラ機能で車体のQRコードを読み取ると解錠される。メルチャリ専用の駐輪場であれば、利用した自転車をどの駐輪場に返却しても構わない。1分単位で利用できる料金体系を採用しており、1分当たり4円となる。「1回当たりの平均利用時間は15分を想定している」(ソウゾウメルチャリプロダクト責任者の井上雅意氏)。利用料金は1カ月分を月末にまとめて、クレジットカード、またはコンビニ支払いで支払う。

 こうしたサービスの利用体験自体に、他社と大きな差異は感じられない。自転車は非電動アシストのため、電動自転車を貸し出すドコモ・バイクシェア(東京都港区)に比べれば見劣りする。そこで競合との差異化を図るうえでメルカリが取った秘策が、事業運用を利用者と「シェアリング」する共同運用の仕組みだ。

コーポレートカラーの赤を採用したメルチャリの自転車
コーポレートカラーの赤を採用したメルチャリの自転車
自転車のQRコードをアプリで読み取ると解錠されて利用できる
自転車のQRコードをアプリで読み取ると解錠されて利用できる

 シェアサイクルはシェアリングエコノミーサービスの一種として扱われることが多い。だが、本質は異なる。タクシー配車の「Uber」や民泊大手の「Airbnb」といったシェアリングエコノミーの先駆的サービスの多くは、消費者の所有する資産の余剰時間を提供する場を設けるプラットフォーム型だ。事業者は自動車や宿泊施設といった資産の保有や、整備をしないで済むため運用コストがかからず高い収益力を誇る。一方、シェアサイクル事業は企業が保有する自転車を、顧客同士で共同利用するサービス。事業者は自転車の調達や整備などの運用をしなければならないため、初期投資や運用費がかさみ収益性が低下する。

 メルカリも参入に当たり、消費者の持つ自転車を利用者間で貸し借りできるプラットフォーム型の事業モデルの実現に向けて検討を重ねたという。だが、「自転車が貸し出しの対象であることを判別する方法など、さまざまな面で難しいと判断した」(松本氏)ことから他社と同様に、自社で自転車を調達して貸し出す事業モデルを採用した。

 一方で、自転車の調達という初期投資以上にかさむのが事業の運用費だという。例えば、自転車がパンクしていないかを1台ずつ確認したり、違法駐輪されている自転車を回収したりすることにかかるコストだ。これを圧縮しながら、同時にサービスとしての品質向上にもつなげる。その実現のために、利用者と共同で運用する仕組みを取り入れた。

 まず、駐輪可能なスペースを個人から募る。日本は違法駐輪を厳しく取り締まってきた背景があり、現時点では中国などで主流の完全な乗り捨て型のシェアサイクル事業は提供できない。そのため、いかに駐輪場を多く確保できるかが初動における競争のポイントだ。

 他社は商業施設などとの提携で、この駐輪場の確保に邁進する。一方、メルカリも企業との提携を進めながら、同時に自宅に余剰スペースを持つ消費者から駐車場として貸し出せる場所を募る。「提供者には利用率に応じて、手数料を支払う仕組みなどを検討する」(井上氏)。この取り組みが軌道に乗れば、「夏に2000カ所に駐車場を設けるという目標を、大幅に超えることが期待できる」と井上氏は説明する。

 また、メルチャリでは利用者が自転車の故障の報告や、違法駐輪された自転車を見つけた時に規定の駐輪場に移動することでマイルがたまる。ためたマイルに応じて、フリマアプリの「メルカリ」で使えるポイントをもらったり、メルカリのグッズをもらったりできるようにする。こうして、運用の手間を利用者と分担することで、効率的な運用を目指す。

(文/中村勇介=日経クロストレンド)

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