任天堂が新型の家庭用ゲーム機「Nintendo Switch」を2017年3月3日に発売する(関連記事:価格は2万9980円、任天堂「Switch」を写真でチェック)。1月13日に開催されたプレス向けイベントに続き、14、15日に一般向けに開催されたイベント「Nintendo Switch 体験会 2017」も取材したゲームライターの野安ゆきお氏は、そこでの子どもたちの反応から、「これは当たるゲーム機」と断言する。

 任天堂の新しい家庭用ゲーム機「Nintendo Switch」はきわめて興味深いマシンです。これは「勝ち組」になるマシンだ! と断言していいでしょう。後世に「ゲームの新しい世界を切り開いたね」と評価されるゲーム機として名を残すと思います。なにしろ、1月14、15日に開催された一般向けイベント「Nintendo Switch 体験会 2017」での子どもたちの反応が、すこぶる良かったからです。

 業界人向けに行われた13日の体験会会場では、正直、「可もなく不可もなく」くらいの反応が大勢を占めていましたが、いざ一般消費者たちの体験会になると、反応は全く違いました。こんなにも笑顔で、飛び跳ねるように夢中にゲームを楽しむ子どもたちの姿は、最近のゲーム体験会場では見たことがありません。

反応の熱さは「ニンテンドーDS」や「ポケモン」発売時並み

 大人たちがなまじ知識を持っているため、「過去のゲームと比べ、どこがパワーアップしたか?」と相対的にゲーム機の良し悪しを判断しようとするのを尻目に、シンプルに「面白いかどうか?」という基準で判断する子どもたちが、そこに込められていた新しい魅力に気付いた、ということでしょう。

 実は過去にも、このような現象が何度か起きたことがありました。13年前(2004年)の「ニンテンドーDS」の発表時や、21年前(1996年)の『ポケットモンスター』発売時です。どちらも大人たちの反応は鈍かったのですが、子どもたちから人気に火がつき、全世界的ヒット商品になりました。そんな経験からも、大人が反応せず、しかし子供たちが夢中になるゲームは、ヒットする可能性が高いと予測していいのです。

 では、大人たちが気付かず、しかし子どもたちが気付いた「新しい魅力」とは何なのか? その概略を解説していきましょう。

Nintendo Switch(3月3日発売/29980円)。据え置き型ゲーム機でありながら、マシン本体には6.2型の液晶画面が付いており、取り出すと携帯ゲーム機に早変わりする(撮影:磯修)
Nintendo Switch(3月3日発売/29980円)。据え置き型ゲーム機でありながら、マシン本体には6.2型の液晶画面が付いており、取り出すと携帯ゲーム機に早変わりする(撮影:磯修)
Nintendo Switch用のゲームとして本体と同時に発売される『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』。体験会での一番人気はこれでした (c)2017 Nintendo
Nintendo Switch用のゲームとして本体と同時に発売される『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』。体験会での一番人気はこれでした (c)2017 Nintendo
『Splatoon2』。Wii Uで大ヒットを記録した対戦バトルのシリーズ最新作も登場。2017年夏発売 (c)2017 Nintendo
『Splatoon2』。Wii Uで大ヒットを記録した対戦バトルのシリーズ最新作も登場。2017年夏発売 (c)2017 Nintendo

高機能かつ超軽量のジョイコンがすごい!

 最大の注目ポイントは、ジョイコンと呼ばれる、2つでワンセットのコントローラーです。

ジョイコングリップに装着すると、従来のゲーム機のコントローラのような形になる。これがオーソドックスな形。
ジョイコングリップに装着すると、従来のゲーム機のコントローラのような形になる。これがオーソドックスな形。
ジョイコンをグリップから取り外してプレーすることも可能。一方を相手に渡しての対戦プレー(おすそわけプレー)もできる。
ジョイコンをグリップから取り外してプレーすることも可能。一方を相手に渡しての対戦プレー(おすそわけプレー)もできる。

 いずれゲーム売り場などでNintendo Switchが試遊できるようになったら、ぜひ格闘ゲーム『ARMS』を体験してみてください。両手にジョイコンを握り、自分の手をパンチするように動かすと画面内のキャラがパンチを出す――というシンプルな格闘ゲームてす。『Wii Sports』の味わいを残す格闘ゲームだと思っていただければ、およそのイメージはつかめるかと思います。

『ARMS』。伸びる手でパンチを繰り出し、相手を倒していく格闘ゲーム。2017年春発売(c)2017 Nintendo
『ARMS』。伸びる手でパンチを繰り出し、相手を倒していく格闘ゲーム。2017年春発売(c)2017 Nintendo
ジョイコンを左右に持ち、手を大きく動かして『ARMS』をプレーする様子。子どもたちは夢中で楽しんでいた
ジョイコンを左右に持ち、手を大きく動かして『ARMS』をプレーする様子。子どもたちは夢中で楽しんでいた

 いざプレーすると、ジョイコンの軽さに驚かされるはず。重量はおよそ50g。水でいうと大さじ3杯ちょっとの重さしかないため、握っていることすら忘れそうになるのです。これまでのゲームのような「コントローラーを振っている」という感覚は消失し、ただ「自分がパンチを出すと、ゲーム画面の中のキャラがパンチするんだ」という、直感的なプレー感覚に包まれていくのです。なるほど、子どもたちが夢中になるのも当然だ、と実感できるでしょう。

 これほど軽量なのに、ジョイコンには無数の新機能が込められています。例えばHD振動(より詳細な振動)という機能を搭載しており、ジョイコンの中にボールが入っているかのように錯覚させるような感触すら、きちんと伝えてくるのです。またモーションIRカメラも搭載し、カメラの前にあるモノの形や、その距離を認識します。

 これらの機能を活用しているのがパーティーゲーム『1-2-Switch』。なんと“テレビ画面を見ない”で遊ぶゲームです。用意されているのは、拳銃の早撃ちや卓球といったさまざまなミニゲーム。対戦する相手と向き合ってプレーするうちに、画面は意識から消えていき、ときどき画面を見ればいいや、という気分になっていくのです。これも子どもたちには人気でした。

『1-2-Switch』に含まれる早撃ち対戦「Quick Draw」。ゲーム機本体が奥にあるのが分かるだろうか? こうして画面を見ずに、相手の目を見ながらプレーする。本体と同時発売。(c)2017 Nintendo
『1-2-Switch』に含まれる早撃ち対戦「Quick Draw」。ゲーム機本体が奥にあるのが分かるだろうか? こうして画面を見ずに、相手の目を見ながらプレーする。本体と同時発売。(c)2017 Nintendo

 かくして、Nintendo Switch体験会の会場には、ゲーム画面を見ることなく、しかしゲームに夢中になって笑顔を浮かべる子どもたちがいるという、なんとも不思議な光景が広がることになったのです。こんな光景、これまでのゲーム体験会で目撃したことがありません。

VRとは真逆 人と人をダイレクトにつないでいく

 このように、Nintendo Switchには、「コントローラの存在すら、忘れてしまおう」「楽しいのなら、いっそゲーム画面すら見なくてもいいよね」と提案するゲームが用意されています。それらに子どもたちが夢中になっていた体験会の光景は、きわめて衝撃的なものでした。

 なぜなら、それはゲームの常識をひっくり返す光景だからです。ゲームの歴史は、いかにプレーヤーに没入してもらえるか? そのためには画面の中に広がる世界をどうやって魅力的にするか? を考え続けてきました。その究極形が、ゲーム世界の中に飛び込んだかのような体験をプレーヤーに提供するVR(仮想現実)です。

 Nintendo Switchはその真逆です。ゲーム世界を魅力的にするのもいいけど、ゲーム画面の前――つまりプレーヤーがいる世界を、魅力的で楽しい空間にするのも素敵だよね! と提案し、子どもたちの心をつかんでいたのです。それはスマートフォン向けゲームアプリ『ポケモンGO』が、私たちがいる世界そのものを楽しい空間にして、多くの人を夢中にさせたことと、方向性は同じかもしれません。

 さて、Nintendo Switchは、従来のようにテレビの大画面を使って遊ぶのみならず、マシン本体(これも軽い! およそ300g)に液晶画面がついているため、外出先に持ち出してテーブルに置いて遊ぶことが可能。さらに、本体にジョイコンを装着すると、そのまま携帯ゲーム機のように手に持って遊ぶこともできます。

背面のスタンドを引き出してテーブルなどに本体を立て、ジョイコンを使って遊べる(撮影:磯修)
背面のスタンドを引き出してテーブルなどに本体を立て、ジョイコンを使って遊べる(撮影:磯修)
本体にジョイコンを装着し、携帯ゲーム機のようにプレーすることもできる(撮影:磯修)
本体にジョイコンを装着し、携帯ゲーム機のようにプレーすることもできる(撮影:磯修)

 このように、自宅のみならず、あらゆる場所に設置できるゲーム機を用意し、同時にゲーム機のある場所そのものを「楽しい空間にしてしまうソフト」を用意してきたことの意味は、とてつもなく大きいと言っていい。Nintendo Switchが普及したならば、それはあらゆる場所に持ち運ばれ、そこが楽しい空間になり、そこには体験会にいた子どもたちのような笑顔が広がっていくことになるからです。ほんと、なんとも興味深いゲーム機が登場したものです。

(文/野安ゆきお)

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