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 モノからコト(経験・体験)へといわれて久しい昨今。百貨店業界もそれは同じであり、人々の消費や関心の傾向が大きく変化する中、三越伊勢丹の現場では変革のために新たな試みが行われている。

 三越伊勢丹が日本文化を新しい価値として国内外に発信する「JAPAN SENSES(ジャパン センスィズ)」の取り組みを始めたのが2011年。以来、日本を代表する百貨店のひとつとして、“場所”や“素材”といったさまざまな伝統や技術にフォーカスした催事企画を行ってきた。今春のテーマ「花咲(わら)う」では南九州にクローズアップ。それに伴い伊勢丹新宿本店の本館6階では、世界自然遺産・屋久島の旅ができるVR体験コーナーが期間限定で設置された。

3月29日~4月11日の期間、伊勢丹新宿店の本館6階に設けられたVR体験コーナー「イッテ!シッテ! 屋久島『go on a journey ~自然に触れよう、家族ででかけよう~』」。期間中700名以上もの来店者が”屋久島の旅”を体験した(写真提供:伊勢丹新宿本店)
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 VR体験コーナーは、伊勢丹新宿本店の森田浩二氏が仕掛け、電通が新設したVR領域をビジネス化するためのグループ横断組織「Dentsu VR Plus(電通VRプラス)」の荒木亮氏が中心となりクリエイティブ・ディレクションを引き受けることで実現した。コンテンツには「白谷雲水峡」や「ウィルソン株」といった屋久島を代表する名所各所の360度映像とヒーリング音楽で2分間の”癒し”を表現。さらに隣接スペースでは、屋久島の関連アイテムやアウトドアグッズを併売した。最大5人でVR同時体験できるという、本館6階のベビー・キッズ売り場の立地を生かした親子連れ向けのアプローチは連日盛況で、手ごたえを感じたと森田氏はいう。

今回の企画の中心となった三越伊勢丹 婦人・子供・婦人雑貨統括部の森田浩二氏(写真左)と、Dentsu VR Plusの一員であり電通 ビジネス・クリエーション・センターの荒木亮氏(写真右)
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 「やはり、お子様の反応がよかったです。昔は百貨店といえば、屋上のゲームコーナーやペットショップなどがある、お子様も楽しめるテーマパークとして機能していましたよね。しかしこれまで伊勢丹新宿店ではそうしたものを縮小し、大人が子どもに与えたい価値を中心に提供してきました。VR体験コーナーは、そうしたニーズに応えながらも、お子様に『伊勢丹に連れてって』といっていただけるような架け橋になり得ると考えています。(森田氏)

今回“コト”から“モノ”への誘導としてVR体験コーナーで隣接して販売されたのは、「屋久島こけし」などの屋久島関連アイテムや、旅をテーマにしたアウトドアグッズなどだ
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 他方で課題は、“コト”の中で“モノ”を訴求するためのプロセスだ。「百貨店はあくまで、お客様に来ていただくだけではなく、商品を購入していただかなければなりません。そのためには、商品とVRのコンテンツがしっかりと背景でマッチしたストーリーが求められます。たとえばファッションショーのVR体験がそのままプロモートになれば面白いですよね」と森田氏。

 Dentsu VR Plusの荒木氏は、今回改めて百貨店が持つ価値に気づかされたという。

 「VRは従来の二次元の“視聴”から空間“体験”に提供価値をシフトしたイノベーションと我々は捉えています。さまざまなライフスタイルを世の中に提案し続けている百貨店様との相性は非常にいいと思います。今回、現場で改めて肌で感じたのが“立地の良さ”、“上質な空間”、“属性の良い顧客”といった三越伊勢丹様が持つ「リアル」のユニークネス。当たり前ですがECにはないものです。この「リアル」を価値ある“強み”として、より拡張する方向でVRを活用すればビジネスの相乗効果が創れると思います。たとえば毎回好評の「北海道展」の熱気の場に道内の美しい自然体験をVRで提供できれば、プチ観光気分で来店者の購買意欲も増すのではないでしょうか。またインバウンドのお客様も非常に多いですが、日本中の様々な名所と豪華寝台列車の旅、高級旅館などの一連の良質な体験をコンテンツ化して楽しめる場を創り、体験後にそのまま安心と信頼の三越伊勢丹ブランドでツアーパッケージ販売、なんて新たなサービス創出もあるもしれません。日本の良質な体験やモノとの出会いをリアルとデジタルテックを組み合わせて演出し、購買までサポート。百貨店様がそんな新しい形のインバウンドセンターになるのも面白いですね。

 VRを単なる客寄せパンダのツール提案ではなく、購買導線全体の中で、どこにどんな“体験”を仕掛ければ強みを生かした価値創造ができるか。VRをフックにビジネスデザイントータルのお手伝いをさせて頂ければと思います」(荒木氏)

 今後も文化とビジネスの発信地としてのリアル空間を共に築いていくという伊勢丹新宿店とDentsu VR Plus。百貨店の革新に注目だ。