成長には知識の流通が必須

――具体的には、どのように知識が流通する仕組みを作ったのでしょうか。

音部氏: 知識の共有に必要なのは「共通言語」です。同じ認識、同じ指標で会話をできなければ意思疎通はできません。ブランドを経営の最小単位としながら、一方ですべてのブランドマネージャーが同じ言語で会話をできる土壌づくりが求められます。

 例えば「ブランド」の定義。ブランドと一言で言っても、その言葉に対して抱くイメージは人それぞれです。これを明確にします。「ブランドとは意味である」。これが私の考えるブランドです。つまるところ、そのブランドはどんな利便性を生活にもたらしてくれるのかを明確化することが重要になるわけです。

 このとき、誤ってはいけないのは「意味」と「機能」を取り違えないようにすることです。例えば、「シワがとれる」「強い洗浄力」という表現は一聴すると利便性を表しているように聞こえます。ですが、これは機能にすぎません。シワがとれる、だから「私が私らしくいられる」、あるいは強い洗浄力だから「家事にかかる時間が減り、自由に使える時間が増える」、それこそが生活に影響を与える利便性でありブランドの持つ意味になります。ブランドの意味を明確化することで、イノベーションやコミュニケーションのアイデアにつながります。それが、結果的に市場創造にもつながります。

――それはなぜですか。

音部氏: ブランドの意味が明確化され、マーケティング戦略が消費者の利便性に立脚されるようになると、「良い商品」の定義を変えられる可能性が広がるからです。これを「属性順位の転換」と呼んでいます。例えば、「洗濯の時間が短くなる」だから、洗浄力の強い商品が良い洗剤といった形で、自社製品の優位点を良い商品と定義してマーケティングをすることで、消費者が商品を選定する際の優先順位を変える。すると、マーケットシェアをひっくり返せる可能性が高まります。

市場創造には「属性順位の転換」が重要になると音部氏は言う
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 商品カテゴリーに求められる利便性の順位を入れ替えて、良い商品を再定義する。これにより、たとえ新しい技術はなくとも市場創造ができるようになるはずです。加えてマーケティングの「費用」を「投資」に変えることにもつながります。

――具体的にはどのように「投資」に変わるのでしょうか。

音部氏: マーケティングに費やすお金は「費用」と言われることが多い。ですが、本当は「投資」であるべきです。どうすれば、投資にできるのか。それには一貫したブランドメッセージが重要です。同じブランド、同じ利便性が明確化されていれば、これに基づいて毎年、一貫したコミュニケーションができます。

 仮に今年10億円のマーケティング予算があったとして、同じブランドメッセージであれば、翌年には前年の施策の残存効果が期待できます。そうすれば、翌年のマーケティング予算が同額でも、前年以上の売り上げ増加につながるかもしれません。あるいは予算を減らしても同等の売り上げが見込めるかもしれません。投資にすることで年々、効果が積み重ねによって効率性が上昇していきます。ところが、ブランドが明確化されていないと毎年、発信するメッセージが異なってしまい、積み重ねの効果が効かなくなり、結果として「費用」になってしまいます。