IT化の障壁は想像力の欠如
――ITはずいぶん前から社会に浸透してきましたが、なぜAIは、最近まであまり話題にならなかったのでしょうか?
中島秀之氏(以下、中島): 世間一般では、AIとITがまったく別のもののようにとらえられているようですが、AIの技術はITを通して世間とつながっているのです。企業の開発者や研究畑にいる人でなければ、AIをダイレクトに使うことはほとんどないので、一般の人にはITを通してAIをみてほしい。
松原仁氏(以下、松原): 流行りの言葉でいうと、うまくいったAIから“卒業”して、“堅気”のITになる(笑)。情報業界のAIは、極端に言えば、いつも“アウトローなこと”をやっている分野なので、難しいことがいろいろあるし……。
中島: そういう意味では、マスコミとうまく組んでいきたい。研究者はアナウンスがうまくできないから。
松原: 反省の意味もこめて言うと、新たなITが世間で注目されても、AIの研究者は「それって普通のことでしょ?」と思ってしまうから、あまりアピールしてこなかった。けれど、本当は「そのITは、AIから派生したものですよ」って、もっと主張するべきだったのかもしれない。
中島: ただ、そういうのも、なんだかイヤだな(笑)。
松原: 研究者の美的センスからいうとイヤですよ。たしかに、そういうのはひとが気づくもので「自分が、自分が」っていうのはどうも……。でも、現実的に、研究者がアナウンスすることを怠ってきたことが、AIの本質を理解してもらえない原因の1つかもしれない。
中島: もう1つの理由は、ITやAIを利用する側の現状にもあると思う。もっと想像力を働かせてみてほしい。特に年配の人たちは、つい「現状がすべて」だと思ってしまう。たとえば、今「ITの活用」というと「インターネットを使って」となる。そうではなくて、たとえば会社でも「自分たちがやっているルーティンの仕事は、なぜこうなっているんだろう?」って考えて、ITで現状の仕事をどう変えられるのか、考えてほしい。
1983年、東京大学大学院情報工学専門博士課程を修了後、同年、当時の人工知能研究で日本の最高峰だった電総研(通商産業省工業技術院電子技術総合研究所)に入所。協調アーキテクチャ計画室長、通信知能研究室長、情報科学部長、企画室長などを歴任。
2001年、産総研サイバーアシスト研究センター長。2004年、公立はこだて未来大学の学長となり、教育と後輩の育成、情報処理研究の方法論確立と社会応用に力を注ぐ。2016年3月、公立はこだて未来大学学長を退任後、同年6月、同大学の名誉学長に。