AIやITで既存のシステムを抜本的に変える取り組みが必要

――使う側が自分で、IT、つまり、AIで現状が改善できる方法を考えるということですね。

中島: そうすると、よくなる可能性がいろんなところにあることに気づく。IT業界でソフトウエア関連の仕事をしている人たちは、それがわかっているから、ものすごいスピードで変わろうとしている。ところが、一般の企業は、特に年配の経営陣のAIやITについての知識が残念ながらまだ足りていないから、社会の変化のスピードに追いつくことが難しくなっている。

松原: そうですね。

中島: だから、現状のAIやITの技術を知って、それを使うのではなく、自分たちで開発力を持っている企業は「うちの会社は、AIでビジネスをこう変えてゆく」という取り組みをもっとやってほしい。

――企業がAIの利活用の先進モデルになるくらいの気持ちで取り組むということですね。

中島: 「『Excelという便利なソフト』ができたから、導入しよう」というふうに、あとからついてくるのではなくて、「こんなソフトがあったら、ほかの企業も買うんじゃないか?」というITを自社で開発してほしいんだけれど、いままで出てきた試しがない。

松原: ほとんどないですね。

中島: スマートシティが流行った頃も、スマートメーターや節電技術にばかり注力してきた。でも、私たちからすれば「スマートシティって、もっとちがうことじゃないの?」って思ってしまう。

松原: 企業だけでなく、役所もそう。多少はIT化しているけれど、それは既存のシステムをIT化しているだけ。

――既存のシステムをIT化するだけでは、不十分なのですか?

松原: たとえばパスポートをとるときは、住民票の写しや戸籍抄本を取りに行かなくちゃいけない。本来は、スマホで「パスポートをとりたい」というメッセージを出したら、役所から必要な書類を電子的に送って、あとはパスポートをとりに行ったとき、写真と見比べて最終的な本人確認を済ませればいいはず。なのに、現状では、何回もいろんな役所にいかなければならない。私たちの考えている「IT化」は、その面倒なシステムをAIやITで抜本的に変えて、スマホから一発でパスポートがとれるようにすることです。

中島: 「e-Tax」(国税電子申告・納税システム)も、そうだよね。紙の源泉徴収票が送られてきて、それを手作業でオンラインに入力して、紙のイメージをつくって……。IT化されているのは、それを送るところだけ。本来は、源泉徴収を全部オンライン化して、向こうでできたものを「これでいいですか?」とこちらに尋ねて、こっちで「OK」って押したら、それだけでいいはず。技術的には、いまでもできるのに。

松原: IT化で途中のプロセスの人たちの仕事がなくなることを避けたいのかな?

中島: 私は「想像力の欠如」じゃないかと思う。「確定申告を電子化しなさい」と命じられた人が「現状のシステムをオンラインにのせる」ということしか、頭に浮かばなかったから。

松原: 昔よりは楽になっているんだけど、もっと楽になるはずなのに、そこで止まっちゃってる。

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松原仁(まつばら・ひとし): 公立はこだて未来大学副理事長 システム情報科学部 複雑系知能学科教授。1959年、東京都生まれ。
1986年、東京大学大学院情報工学専門博士課程修了、同年、電総研に入所。1990年頃には、事例ベース推論(Case-Based Reasoning:CBR)の研究にも従事。中島秀之氏らの「協調」に関する研究にも協力している。
ロボカップ日本委員会会長、情報処理学会理事など、AI業界の要職を歴任。2000年、公立はこだて未来大学に着任して以降は、情報技術を用いた観光についての研究もしている。ちなみに、将棋はアマ五段の免状を持つ。