"雨を降らせた"ロフトの傘売り場

 「まったく新しい売り場を作ろうと思ったら、自己否定しかありえない」。銀座ロフトの藤野氏も斉藤氏の考えに賛同する。

 銀座ロフトでは今年、傘が大ヒットしているという。「傘の市場は、1万円を超えるブランド傘か、一時的にも雨をしのぎたいビニール傘と二極化している」(藤野氏)。ロフトではそのどちらでもない、中間的な価格帯の商品を販売する。まさに贅沢消費調査でも話題に上がった、ちょっと贅沢な傘である。

ロフト執行役員の藤野秀敏銀座ロフト館長
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 そうした傘の売り場を作る場合、これまでは「機能」か「色」を来店者に訴えかけることが多かった。例えば、色や柄が豊富であることをアピールするために、たくさんの傘を広げて展示する。ビニール傘よりも少し贅沢をすることで、色とりどりの傘が手に入る。そんなことを伝える売り場作りを心がけてきた。

 ところが、今年の売り場作りはその真逆。綿で雲を作り、プロジェクションマッピングで雷と雨を演出した。クーラーを効かせ、周囲に比べて傘のコーナーだけ温度を下げた。照明を落とし、色が見えにくい売り場を作った。当然、商品を調達するバイヤーから反発の声があがった。「暗くて柄が見えなくなる、これでは売れない」。ごもっともだ。しかし、藤野氏は「これぐらい見えれば十分だ」と譲らなかった。

 結果としては、銀座店の傘の売り上げは全店で1位となる大成功につながった。藤野氏は「傘を売りたいなら、傘を買いたい気持ちを植え付ければいい」という。さながら雨中にいる錯覚を覚える売り場を作ることが傘を買いたい気持ちを醸成して、販売増加につながったのだろう。これまでにない全く新しい売り場作りも、自己否定があってこそ実現できた。

4年で40万円の値上げでも売れる

 JR九州が提供する高級列車の旅行商品「ななつ星 in 九州」も、わずか14室で乗客数は30人と、移動手段である列車の役割を自己否定した新しい取り組みだ。同商品の3泊4日コースでは博多を出発して、時計周りに大分、宮崎、鹿児島を巡る。船で世界を周る船旅のクルーズになぞらえて、「クルーズトレイン」という新ジャンルの商品として開発した。

 気になる価格は、最も高い「DXスイートA」が3泊4日で1人当たり最大95万円と破格だ。しかも、「運行開始当初から40万円も値上げしている」(森氏)。にもかかわらず抽選倍率は166倍とその人気は衰えることを知らない。平均倍率も16倍と高水準を維持する人気商品となっている。

九州旅客鉄道(JR九州)森亨弘旅行事業本部長
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 これには藤野氏も驚きの声を上げる。「小売りでは値上げをすると、翌日から顧客がこなくなるのが定説。当社では考えられない」。

 それを実現しているのが「他社にはない全く新しい概念である点と、徹底的な品質へのこだわり」(森氏)だ。乗車すると、すぐに博多の高級寿司店の職人が寿司を握ってくれる。乗務員はホテルの客室係や飛行機の客室乗務員など、徹底した顧客サービスを学んできた人材を採用している。さらに「地元とのコラボレーション」を目指して、ななつ星が通過する時には地元民が手を振ってくれるなど、さまざまな点でおもてなしを感じられる。

 こうした「ハードとソフトのオンリーワンへのこだわり」(森氏)が95万円という常識外の高額旅行商品のヒットにつながった。

 各社の事例を受け、モデレーターの徳力氏は「贅沢消費を促すにはメーカー、小売りにかぎらず顧客視点で物事を考えることが求められることがよく理解できた」と講演を締めくくった。

(文/中村勇介=日経トレンディネット)