「テクノロジーとマーケティングがヒットを創造――」をテーマに開催された「TREND EXPO TOKYO 2017」。会場となったベルサール東京日本橋には、11月2日と3日の会期中に合計で1万人を超える来場者が集まった。

 そんなTREND EXPOで初日の基調講演を飾ったのが、ソフトバンクの「Pepper(ペッパー)」の開発責任者である蓮実一隆氏と、スクウェア・エニックスでゲームキャラクターのAI(人工知能)を開発する三宅陽一郎氏。現在最も人が触れる機会の多いロボットと、人気ゲームのAIを開発する両氏が見据える未来を、ジャーナリストの津田大介氏が聞き出した。

ソフトバンクロボティクス コンテンツマーケティング本部 取締役本部長 蓮実一隆氏
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スクウェア・エニックス テクノロジー推進部リードAIリサーチャー 三宅陽一郎氏
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ジャーナリストの津田大介氏
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 蓮実氏は、元テレビ朝日の番組プロデューサー。かつて『ビートたけしのTVタックル』や『報道ステーション』、『痛快! ビッグダディ』などを手がけた。そんな蓮実氏が、ソフトバンクに入社後、コンテンツビジネスの担当などを経て、Pepperの開発を担当することになったという。

 津田氏が「Pepperを作れと言われたときには、どう思いましたか?」と尋ねると、「最初は気持ち悪いと思いましたよ」と蓮実氏は苦笑い。「ただ、ロボット開発とテレビ局って、一見すると関係なさそうですけど、どちらも家庭の中で1日中、電源が入っているっていう点で近いものだと思っています。家にロボットがいない家庭がまだまだ多いですが、(将来は)必ずそうなる。だからこそ、Pepperを、面白いものにしろというのが代表の孫正義からのオーダーでした」(蓮実氏)

 そんな蓮実氏は、AI開発者の三宅氏の著書を愛読しているという。「ゲームの世界という狭い状況の中で動くAIは、同じようにPepperという(物理的な)制約のある状況で、何をどう表現すれば世の中に響くかを研究するのに役立つ」(蓮実氏)のだという。

 一方の三宅氏は、最新のゲーム用AIを次のように説明する。

 「ゲームでは、個々のキャラクターやモンスターをAIで自然に動かしています。加えて、ゲーム全体をコントロールするAIもあります。昔のゲームは、同じ体験を何百万の人に届けていました。でも、今のゲームは、一人ひとりのプレーヤーに合わせて、難易度などを動的に変えています。強いプレーヤーには強いモンスターを増やしたり、弱いプレーヤーには出てくるモンスターを減らしたりという具合に、プレーヤーに合わせた体験を提供しています。そうしたことを可能にするのがAIなんです」(三宅氏)

 蓮実氏は、こうしたAIの使い方は、ゲームの中だけでなく、現実のさまざまなシーンにも応用できると話す。「最近のスマートハウスでは、人がいないと部屋の電気や空調をオフにします。顔を登録していない人が来たら防犯ベルを鳴らしたり、あるいは町全体を監視するようなAIもあります。ユーザーの履歴や行動ログに応じてサービスを変化させていくことができるのです」(蓮実氏)

 これを受けて、「つまりビッグデータをAIで分析し、ハードウエアのサービスに落とし込んでいくということですね」と津田氏が問うと、蓮実氏は「そのときに重要なのはロボットです。AIは体を持っていませんから、AIがコントロールして、ロボットを動かせばいい」と答えた。

 津田氏はさらに、「そうしたハードウエアには、例えばロボット掃除機のルンバがあります。ルンバのような製品が日本メーカーから出なかった理由として、日本では安全に対するリスクが大きすぎると判断するからではないでしょうか」と蓮実氏に問いかけた。

 蓮実氏は、「Pepperも、背が高いことがチャレンジのひとつだと思います」と回答。「あれだけ大きいと、いろいろな事故が考えられます。家の中で倒れたり、モノにぶつかって壊したり。それを防ぐため、Pepperは搭載されたセンサーの9割ほどを、安全機能に使っています。もちろんロボットを小さくしたり動かなくしたりすれば、安全性は高まります。でも、Pepperが動かなければタブレットと変わらないんですよ。動くからこそカワイイと思われ、接してもらえるのです」(蓮実氏)

 終盤になると、話題はAIやロボットがいる未来像に移った。前述のように、AIがユーザーの行動を分析し、ユーザーに合わせて環境や提供するサービスを変化させるようになると、人間が生きている現実はAIによって最適化された世界になる。すると、「自由の概念も変化するのでは」と津田氏は指摘する。

 「われわれはよく『自由がいい』と言うけれど、その自由さえAIによってデザインされた範囲内の自由になるのかもしれない」と津田氏。蓮実氏は「だからこそ、人間がどうなりたいか、ロボットやAIをどういうふうに使いたいのかを考えることが大事なんです」と締めくくった。

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(文/河原塚英信)