ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)が「PlayStation 4」(以下、PS4)向けVR(仮想現実)用ヘッドマウントディスプレー「PlayStation VR」(以下、PS VR)を発売して約1年がたつ。ソニー・インタラクティブエンタテインメントジャパンアジア(SIEJA)は東京ゲームショウ開幕直前の2017年9月19日、カメラ同梱版PS VRの希望小売価格を、従来に比べて5000円安い4万4980円(税別)にすると発表した。今後さらに普及が進みそうなPS VR。キーマンの吉田修平氏(SIEワールドワイド・スタジオ プレジデント)に現況を聞いた。

――PS VRに関して、発売前の想定を上回って好評だったのはどんな点か。

 もともと自信を持ってはいたが、予想以上にウケがよかったのが、メカの部分だ。ゴーグル型のVR用HMDが多いが、ゴーグル型はどうしても顔面に押さえつけるようにして装着することになり、長時間使用すると額に跡がつくことがある。これに対し、PS VRは重心を頭頂部に置いて前後のバランスを取ることで、顔面を強く押さえつけることなく装着できる。これにより、機器の重さが軽く感じられる。

 ディスプレー部は前後に位置を調節でき、メガネをかけたままで装着できるのも特徴だ。「模倣は一番の誉め言葉」と言われるが、最近はよく似た構造の他社製品が登場してくるので、「ああ、評価されている。よかった」と感じているところだ。

――逆に改善したいところはどこか。

 あえて言うと、「HDR(high dynamic range:ピーク輝度を拡張して画質を高めた映像)」信号のパススルーができない点だ。PS4はHDRに対応しているものの、PS VRはHDRに対応していない。

VRで全く新しい体験を生む

――PS VR用ソフトウエアのジャンルや趣向について、人気の傾向や広がり方を聞きたい。

 やはり、プレーヤー視点のFPS(ファーストパーソン・シューティングゲーム)の人気が高い。世界的に一番人気なのは『バイオハザード7 レジデント イービル』(カプコン)、日本で人気なのは「サマーレッスン」シリーズ(バンダイナムコエンターテインメント)だ。ホラーや恋愛シミュレーションなどで味わうドキドキとVRは相性がいい。

 しかし、それにとどまらないゲームや体験を生み出すことに、クリエイターたちが今、挑戦している。例えば、東京ゲームショウ2017で試遊出展中の『V!勇者のくせになまいきだR』(SIE)は、ゲームのフィールドを俯瞰でき、これまでのFPSとは違った味わいのVRゲームになっている。ゲーム性の濃淡や有無にとらわれず、ユーザーが体験を楽しむことにこだわって、クリエイターがさまざまに趣向をこらしているところだ。

 その好例が、無料配信中のPS VR用アプリ『傷物語VR』(SIE)である。西尾維新原作のアニメ映画をもとにしたコンテンツである。アニメの豊富なコンテンツをすべてVR向けに作り直すのではなく、仮想空間を作り、その中の「バーチャルスクリーン」にアニメ映画(2D映像)を投影(プロジェクション)する。それを観客として、3D化したアニメのキャラクターと一緒に見られるというものだ。プレーヤーとキャラクターが映画を見る場所は、雨の校庭や密室など、次々に移り変わる。その場所に応じて、バーチャルスクリーンが一般的な映画のスクリーンだけでなく、時には水たまりになる。こうした映像表現を目にしたとき、これまでにないものだと感じた。現実に、水たまりにプロジェクションマッピングで映像を投影するのは非常に大変だ。そもそも、プロジェクションマッピング自体、準備に手間や時間がかかる。VRであれば、より手軽に実現できる。

 著名なヴァイオリニストのジョシュア・ベル氏のコンサート映像コンテンツ『Joshua Bell VR Experience』(SIE)でも、2Dと3Dを組み合わせて新しい体験を生んでいる。高精細なパノラマ映像のように見えるが、ユーザーは仮想空間を自由に動けるようになっている。録音した場所を3Dで構築し直し、実際に演奏者がいた位置に書割(かきわり)のポリゴンを立てて、2Dの映像をそこに投影するというものだ。3Dでのパノラマ撮影は技術的に困難だが、フォトグラメトリー(複数の場所から撮影した写真を解析・合成するなどして3D化する手法)などを用いて、VRらしい視点の自由と、2Dならではの高画質の映像を両立させている。

PS VRのライフサイクルは長い

――PS VR(ハードウエア)のライフサイクルや改良については、どう考えているか。

 VR技術の進化は速いが、それほど短いサイクルでフォームファクター(形状)などが変わることはなく、家庭用ゲーム機のサイクルとほぼ同じだと考えている。PS VRは家庭用ゲーム機(PS4)と接続するものだ。手頃な価格で購入でき、ユーザーは(接続や設定の難易度が低いため)買ってすぐに使える。クリエイターも、PS VR向けに作る限り、ユーザーの使うハードは(パソコンなどのように性能などが機種によって大きく異なることがなく)みんな同じなので、コンテンツを十分に検証して最適化した上で世に送り出せる。これが家庭用ゲーム機の利点であり、パソコンやモバイル機器のように、毎年のように新しいものを出すことはしない。

 また、システムソフトウエアのアップデートによって、新たな機能を加えたり、性能を高めたりといったことは今後も継続する。例えば2017年3月、「Blu-ray 3D」ディスクをサポートし、BDの3DコンテンツをPS VRの「シネマティックモード」で楽しめるようにした。

 ゲームコントローラーについて、仮想空間への没入感を高めるような新型コントローラーを当社からも提案していくし、サードパーティーの規格もサポートしていきたい。PS VR用シューティングゲームの『Farpoint』(SIE)で採用した専用の銃型コントローラー「エイムコントローラー」のように、実際に自分が触っているものがゲーム世界にそのまま現れ、自分が動かした通りに仮想空間でも動くと、プレゼンス(ゲーム世界に自分がいる感覚)が大幅に高まるはずだ。

(聞き手/根津 禎=日経エレクトロニクス、構成/赤坂麻実、写真/中村宏)

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