「今度こそ終わりにしよう。もう十分だ……」

 長年ゲームに親しんできたファンには、そんな思いを何度も繰り返してきたタイトルが1つや2つはあるはず。そう、次々続編が登場する「シリーズもの」だ。ゲーム機の進化に伴い新作がリリースされるたび、「どうせ絵がきれいになった程度だろ。もう買わないよ」と斜に構えるものの、結局手を出してしまい、一通り(たっぷり)満喫した揚げ句、欲望に負けた胸の痛みとともにコントローラーを置く。

 しかし、シリーズタイトルは、紛れもなくどれもゲーム史に名を残す名作であり、ゲーム会社の経営を支える稼ぎ頭でもある。

『グランツーリスモ SPORT』の世界に突入

 「グランツーリスモ」シリーズ――ポリフォニー・デジタルが開発し、ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)が発売する、言わずと知れた世界最高の“ドライビングシミュレーター”。恒例の度重なる発売延期も何のその、このタイトルがないとPlayStation 4を買った意味がない(筆者主観)。

 「いつも同じゲームばっかりやって、何が面白いの?(同じじゃない!ナンバリングが違う!!)」と冷ややかなまなざしを向け続けた家族を、ドヤ顔で見返せる時が近づいてきた。2017年10月19日に発売される『グランツーリスモ SPORT』、今度はPlayStation VR対応だ!!

 少々前振りが熱くなってしまったが、広大な東京ゲームショウ2017の会場で、たった1カ所しかないグランツーリスモ SPORTのVR試遊ブースで、実際に体験する機会を得た。「VRは初めてですか?」「ドライビングゲームはやったことがありますか? 慣れていないようでしたら初級をお選びになると……」――わかったわかった、ええい、中級モード(上級はさすがに気が引ける)でグランツーリスモ SPORTの世界に突入じゃ!

「VRは初めてですか」と、優しくナビゲートしてくれるSIEの女性スタッフ
「VRは初めてですか」と、優しくナビゲートしてくれるSIEの女性スタッフ
「早くコース決めなさいよ!!」とは決して思ってはいないはず……(同行のライターさんによると、「お上手ですね」とほめてくださっていたとか)
「早くコース決めなさいよ!!」とは決して思ってはいないはず……(同行のライターさんによると、「お上手ですね」とほめてくださっていたとか)

これほど期待に応えてくれたVRタイトルはない!

 今回選んだコースは「ニュルブルクリンク 24h」、車種は「ポルシェGT3」。これだけでも、筆者がどういう人間かなんとなく分かるだろう。

 ではスタート。ニュルは走り慣れたコースゆえ(もちろんゲームで)、容赦なく思いっきりアクセルを踏み込む。アップダウンとタイトなコーナーが連続するハードなコースは、VR(仮想現実)性能を試すにはうってつけだ。

レーサーだからブレーキは左足を使うのだ(慣れないと最初は感覚が難しい)
レーサーだからブレーキは左足を使うのだ(慣れないと最初は感覚が難しい)

 おおっ……ハンドルから伝わる振動が、普通のコントローラーでは味わえないほどリアル。手から腕、肩へと“ブルブル”が上昇してくる。アクセルワークで気を許すと簡単にリアタイヤが滑り始め(すごいぞポルシェGT3)、ひとたびコースを外れれば、カウンターを当てるハンドルの重みに背中や腹の筋繊維が硬直する(ううっ、コースに戻れない)。うってかわって、長い直線コースでは風景がどんどん後ろに流れる加速感が爽快この上なし。これほどの“全身体験”は、恐らくVR効果によって生み出されるのだろう。視界の下に見えるハンドルを握る“自分の手”が、ぐるぐる回転動作を続け、妙に気持ち悪い。スピンして壁に激突した瞬間などは、「あわわ、修理代が……」と一瞬ビクッとしてしまうほど、グランツーリスモの世界に入り込める。

くっ、くそっ! コースに戻れない……はやく車体を立て直さねば
くっ、くそっ! コースに戻れない……はやく車体を立て直さねば
VRだったら、ステアリングコントローラーはぜひ手に入れたい
VRだったら、ステアリングコントローラーはぜひ手に入れたい

 昨年からVRゲームが本格化し、いくつかタイトルを体験したが、グランツーリスモ SPORTほど期待に応えてくれたタイトルはなかった。シリーズをやり続けてきたからこそ、その価値がよりいっそう理解できたのかもしれない。

 ――テレビに映し出された、どこかで見たようなレースゲームの画面を前に、ゴーグルを付けてカラダを揺らし続ける筆者を、家族はまた冷ややかに見つめるだろう。構うもんか、欲望に忠実に生きてやる。

 でも、「今度こそ終わりにするから……」。

VRではないが、SIEブースでグランツーリスモ SPORTを思いっきり体感してほしい
VRではないが、SIEブースでグランツーリスモ SPORTを思いっきり体感してほしい

(文・写真/酒井康治、写真/赤坂麻実、島徹)

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