長時間労働の是正、在宅勤務の導入、ワークライフバランスの促進など「働き方改革」が日本企業の間で大きなテーマになっている。昨年から政府が成長戦略の中核として「働き方改革」を位置づけたことを契機に、多くの企業が働き方の見直しに積極的に取り組み始めた。とはいえ、働く現場では具体的に何をどう見直したら良いのかと戸惑っている人も多いようだ。

 では、働き方改革で成果をあげている先進的な企業はどのように取り組んでいるのだろうか。その代表例として今回注目したいのがグーグルだ。自社のテクノロジーを活用して独自のワークスタイルの見直しを進めるほか、30社以上のパートナー企業を巻き込んで働き方改革プロジェクトを推進するなど、同社は働き方改革の先進企業としても知られる。

 ワークスタイル変革 EXPO(リード エグジビション ジャパン主催)のグーグルの特別講演から、実効性のある働き方改革のヒントを探った。

イノベーション創出こそ、働き方改革の目的である

塩入賢治氏:グーグル・クラウド・ジャパン合同会社 Google Cloud 事業本部長
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 そもそも何のために働き方改革をするのだろうか?これを明確に認識できていない日本の企業経営者も少なくないだろう。

 「グーグルの答えは明解です。我々にとって働き方改革はイノベーション創出のためにあります」

 東京ビッグサイトで開催されたワークスタイル変革 EXPOで「『IT のものづくり』最先端の現場から学ぶ、イノベーションを生み出す働き方とは」と題した特別講演の冒頭で、グーグル・クラウド・ジャパン合同会社Google Cloud 事業本部長の塩入賢治氏はこう語った。

 「働き方改革の目的は『業務の効率化』だという企業も多いでしょう。我々グーグルではそれをさらに推し進めて、働き方の見直しによって生まれたリソースと時間をイノベーション創出に振り向けることまでを目的と考えています」

文化(カルチャー)の醸成が成功の最大のカギ

 働き方改革の成功の柱として、塩入氏は「文化」「ツール」「プロセス」の3つを挙げる。特に重要なのが「文化(カルチャー)」だ。

 「グーグルでは、イノベーションは一人の天才から生まれるのではなく、多様な人材で構成されるチームの力を最大化してこそ生まれると考えています。つまり、単に多様な人材が集まっているだけではイノベーションは生まれない。メンバーが自律的な働き方を実現することが不可欠で、そこに『文化』が必要になります」(塩入氏)

 働き方改革を支える文化を醸成するうえでは、下のような5つの要素が重要だという。特に興味深いのは「サイコロジカルセーフティー(心理的安全性)」という考え方だ。

働き方改革を支える文化の醸成に必要なこと
1.サイコロジカルセーフティー(心理的安全性)
2.チームメンバー間での相互信頼
3.チームの役割や目標が明確
4.自分にとっての仕事の意味を実感
5.チームが自分の仕事を、インパクトあると思う

 「個々のチームメンバーが常に自分らしくいられる。自由闊達に発言して、それをチーム全体で共有できる。自分の弱みもチームが受け入れてくれる。失敗を恐れずにチャレンジできる。こうした心理的な安心感をサイコロジカルセーフティーと呼んでいます。これを生み出すような関係性のあるチームは高いパフォーマンスをあげていることが、世界のグーグルの調査によって明らかになっています」

 グーグルは「G Suite」「Google Docs」をはじめ、業務の効率化を支えるさまざまなツールを開発・提供している。英コンサルティングファームPwCはG Suiteを導入した新しい働き方により、週の業務時間を実に約9時間も削減できたという。しかしいくら便利なツールがたくさんあっても、チーム内の良好な関係性が構築されていなければ機能しないし、働き方改革やイノベーション創出にもつながらない。働き方改革を支える文化が醸成されていることが大前提だとグーグルは考えている。

改革がもたらす感情的な反応へのケアも重要

 どんなに良い改革であっても、不安感や抵抗感が生まれるものだ。改革を成功させるには、適切なプロセスを踏むことも重要だ。

チェンジマネジメント成功の極意
1.軸となるゴールを決める
2.社員を巻き込む
3.小さくても大きな一歩

 「人間の感情的な反応に焦点を当てて、それを適切にサポートしながら改革プロジェクトを体系的に進めることが大切です。特に重要なのは『社員を巻き込むこと』。働き方改革に限りませんが、日本企業の場合、何か改革を始めようとすると「改革推進室」などを設置して、そこが中心となって進むことが多い。これでは社員たちは何か他人事のように感じてしまい、主体的に取り組む意識が生まれません。できるだけ全社員が改革に参加しているという当事者意識を持ってもらうことが大変重要です」(塩入氏)

 もちろんグーグルは米シリコンバレーの中でも極めて独特な企業文化を持っている。日本企業がグーグル流の働き方改革をそのまま導入しようとしても機能しないかもしれない。グーグル流ではなく、日本企業それぞれが、その会社独自の働きやすい文化を醸成していけるかが、働き方改革成功の大きなカギなのだろう。

(文/若槻基文)