本連載は、「この人の『勘』や『感』の見方を知りたい!」と思った方にお会いし、仕事に「勘」や「感」は必要なのか。そして、どのように磨けばいいかについて、成功談も失敗談も含めて聞いていくものです。それも、難しい書き言葉ではなく、分かりやすい話し言葉で。読者の皆さんにとって、未来に向けたヒントになれば幸いです。

 今回も、バルミューダの社長を務める寺尾玄さんにご登場いただきます。前回(「バルミューダ寺尾氏の“ヒットを生む発想法”とは?」)は、ビジネスとは数字で測れない価値を提供すること、寺尾さんが発想するもののうち成功に至るのは3%くらいだということ、勘や感のひとつとして「ポップのど真ん中」を狙う必要があることなどについて伺いました。今回は勘や感を磨くにはどうしたらいいか、仕事を通して人が成長するとはどういうことかについて、少し大きな視点での話に触れたいと思います。

バルミューダの寺尾玄社長は1973年生まれ。17歳で高校を中退、約1年の海外放浪を経て、約10年間、音楽活動に携わる。バンド解散後、2003年にバルミューダデザイン設立(2011年、バルミューダに社名変更)。2010年に発表した扇風機「GreenFan」で一躍、家電業界の注目を集めた。2015年の「BALMUDA The Toaster」に続き、「BALMUDA The Pot」「BALMUDA The Gohan」「BALMUDA The Range」を発売
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会社の地位は「権限」と「責任」を指し示すもの

川島: 寺尾さんはいつお会いしてもエネルギッシュですが、その原動力はどこにあるんですか。

寺尾: ものすごく単純なことです。私は成功のために仕事しているわけじゃなくて、人に褒めてもらいたくて仕事しているだけ。それが私の最大の、いや唯一のモチベーションなんです。

川島: えっ、そうなんですか。でも、お金をモチベーションにしている人もいますよね。

寺尾: でもその人、本当はお金が欲しいのではなくて、お金で買える何かが欲しいわけです。

川島: じゃ地位は? 部長になって、役員になって、社長になってと、昇進にこだわる人ってたくさんいるじゃないですか。

寺尾: それは、本当の意味での地位を知らない人だと思います。なぜなら地位とは、偉い偉くないということでなく、権限と責任のことを指しているから。地位が高くなるにつれ、権限が広がって自由度も上がりますが、相応の責任も付随してくるんです。

 それに、たとえ課長であっても部長であっても、ミドルマネジメントという役割はすごく面倒くさい責任が付きまとうし、トップはトップで別の苦労というか心労があるんです。正直言って、私は心労だらけの社長かもしれないって思うくらい(笑)。それを考えると、社長になるには、それなりの覚悟がいるんです。

川島: でも、周囲からちやほやされるじゃないですか?

寺尾: ただ、ちやほやされるには、成果を出し続ける必要があるんです。例えば利益を出して給料を上げること、制度を改善して働く環境を整えること、ユニークな商品を出して世の中に認められること、人に自慢できるような良い会社にしていくこと。もう数え出したらキリがないくらい、広範囲にわたる成果を出していかなければならない。

 しかもこれ、短期間で済むのではなく、社長でいる限りずっと続けていかなければならないのです。もちろん、やりがいもあるし責任があるからやっているのですが、ものすごく負荷がかかる役割、それが社長なんです。それに、「いい社長です」って言われるだけじゃまずいわけで、おそれられることも大事です。

川島: たしかに人間って楽したくなっちゃうから、社長への“おそれ”という戒めみたいなものがないと緊張感が抜けてだらけちゃいます。でも私は社長の“おそれ”って、恐怖の“おそれ”じゃなく、“畏怖”の“おそれ”だと思っていますが。でもそれ、社長にとっては嫌な役割かもしれません。