本連載は、「この人の『勘』や『感』の見方を知りたい!」と思った方にお会いし、仕事に「勘」や「感」は必要なのか。そして、どのように磨けばいいのかについて、成功談も失敗談も含めて聞いていくものです。それも、難しい書き言葉ではなく、分かりやすい話し言葉で。読者の皆さんにとって、未来に向けたヒントになれば幸いです。

 今回は、前回に引き続き、バルミューダの社長を務める寺尾玄さんです。初回は、「勘」や「感」は“緊張”と“リラックス”の繰り返しから生まれるものであり、アイデアを出すには“リラックス”状態が大事というお話でした。今回は、ヒットするアイデアとはどうしたら生み出せるかについて聞いてみたいと思います。

バルミューダの寺尾玄社長
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「数字で測れない価値」をお金に変換するのがビジネス

川島: 「勘」や「感」が大事といっても、ビジネスとしては結局、「いくら売れたのか、どれだけ利益が出たのか」に行き着き、それが成果ととらえられがちです。

寺尾: 企業である以上、利益が出たかどうかは重要なこと。ただ、ビジネスって何かと考えてみると、私は数字で測れない価値を提供することにあると思っています。身の回りには、数字で測れないものがたくさんある、いや、そればかりと言っても過言ではないのです。例えば「おいしさ」や「心地良さ」というものを数値化するのは難しいですよね。でも、暮らしの中で占める価値は決して小さくはないのです。「おいしさ」や「心地良さ」は感性ですが、それをお金に変換することでビジネスになる。

川島: 感性という価値をお金で売買するということですね。

寺尾: そうです。感性で作ったものを算数で変換し、お金でやりとりしてくださいというのがビジネス。定量化できないものを数値に変換するので、そこに難しさが出てくるのです。逆に言えば、どのビジネスにおいても、最終的に提供しているものは感性なのです。

川島: 確かに。

寺尾: 例えば洗濯機を買うってどういうことかというと、本当のところは洗濯機というモノが欲しいわけじゃない。手で洗濯するという手間がなくなる、その便利さを買っているわけです。もっと踏み込んで言えば、便利さというより、空いた時間を使える“自由さ”と言っていいのかもしれません。

川島: 大ヒットしている「BALMUDA The Toaster」はどうなんでしょうか?

寺尾: まったく同じことで、トースターを売っているのではなくて、「おいしいトーストにする方法」であり、究極は「おいしさ」を売っていると思うのです。

川島: お客が感じる体験ということですね。

寺尾: そうです。だから、体験の価値を最大限まで引き上げることが重要で、テクノロジーを限界まで投入して開発しているのです。トースターの場合、スチームテクノロジーというものを開発したのに加え、パンの軟らかさと風味を生かすため、何度で何分焼くのがベストかという研究と実験を繰り返し、完璧な温度制御をしながら焼き上げる工程を見いだしたことが、ほかにはない価値の提供につながったのです。

川島: バルミューダの製品はどれも、決して安くはありませんがヒットしている。要は体験価値と価格のバランスがいいということですね。

寺尾: 「この体験を得るのに、自分だったらいくら払うか」というところに、すべての基点を置くようにしています。

「BALMUDA The Toaster」
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