本連載は、「この人の『勘』や『感』の見方を知りたい!」と思った方にお会いし、仕事に「勘」や「感」は必要なのか。そして、どのように磨けばいいのかについて、成功談も失敗談も含めて聞いていくものです。それも、難しい書き言葉ではなく、分かりやすい話し言葉で。読者の皆さんにとって、未来に向けたヒントになれば幸いです。

 前々回(TSUTAYA増田社長「感性とは“お客さんの気分”」 )、前回(TSUTAYA増田氏「私が数々の失敗から学んだこと」)と2回続けて、CCCの社長を務める増田宗昭さんに登場いただき、「心」とダイレクトに結びついているのが直感であり、「頭」はそれをサポートする役割を担っていること、失敗とは成功のための経験であり、成長に必要なことであるという話を聞きました。最後となる今回は「利他」と「心」が結びついて「勘」や「感」の成長に役立ってきたことについて触れたいと思います。

CCCの増田 宗昭(ますだ むねあき)社長は1951年大阪府枚方市生まれ。同志社大学を卒業後、鈴屋に入社。軽井沢ベルコモンズの開発などに携わる。1983年に「蔦屋書店(現・TSUTAYA枚方駅前本店)」を創業し、1985年にカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)を設立。2011年12月に「代官山 蔦屋書店」、2015年5月に「二子玉川 蔦屋家電」、2017年4月には大型商業施設「ギンザシックス」内に「銀座 蔦屋書店」をオープン。蔦屋書店やTカード、T-SITEをはじめとした「カルチュア・インフラ」を創り出す企画会社の経営者として奔走している
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最終的に「利他」が勝つ

川島: 増田さんはいつも「利他」が大事ということを言っていらっしゃいますよね。

増田: そう。だまされた経験、こう見えて豊富にあるのですが、だます人って、仲間のためにやっているように見せて、実は自分のためにやっている。「利他」がまったくないんです。でも、そういうのって、長い目で見ると必ずダメになっていくから、だまされても恨むところが僕はまったくないのです。

川島: 本当ですかぁ。何か聖人君子みたいでかっこ良すぎます(笑)、私だったら恨んじゃうけど。

増田: なぜなら僕は、「利他」が勝つと思っているから。たとえば、うちの会社が本来の意味を果たせるようになったのは、上場をやめ、進む方向を「頭」から「心」へと舵を切ったからですが、これも根っこには「利他」の精神があるんです。

川島: えっ、私は増田さんがやりたいことをやるために、上場をやめたとばかり思っていました。

増田: いや、違います。上場していると「CCCはこうやって成長していきます」という戦略を語ることになるし、語らなくてはいけない。だけどそこで言う戦略とは、自分たちの事業のことならいいのですが、そもそも企画会社であるうちは、戦略そのものを提供するのが仕事。パートナーのために作った戦略だから、対外的に公開してはいけないのです。だから「利他」を考えると、うちのビジネスは上場に向いていないと判断した結果です。つまり、株価を上げようとすれば、パートナーに迷惑をかけてしまう。それはダメだと判断したのです。

川島: じゃ、その前はどうして上場していたんですか?

増田: 上場していた時点では、CCCという会社の事業がもっとシンプルだったのです。正直言うとあのころのCCCは、企画会社をうたいながら、実体はレンタル屋さんと見られていた。それが「代官山 蔦屋書店」をやったのをきっかけに、レンタル屋さんから企画会社に変わっていった。

川島: 増田さんが思い描いた本来の姿に近づいてきたということですね。

増田: そうです。ただ上場をやめた理由はもうひとつあります。企画会社というのは、基本的に世の中にない「企画」をやっていく仕事であり、言ってみれば、赤ちゃんが歩き始めるまでを担う仕事。最初から成功が保証されているわけではないのです。だから、投資家から「そのビジネスのリスクはないのですか」と言われたとき、「まったく心配ない。絶対成功します」と言い切ることができないのです。

川島: 「利他」を大事にしていると、結果的には自分への信用とか信頼とかにつながっていく。それが結果的にお金を生むことにもなるということ、よく分かりました。