ここ数年、創造的な経営とか、クリエイティブシンキングという言葉をよく耳にします。ただ、企業で働いている人たちは、あまり元気がないような――「新しい提案をしても前例がないと却下される」「確証がないことに挑戦していくら儲かるのか」という言動が少なくないというのです。

 一方、優れた経営トップの方とおしゃべりしていて、必ず出てくるのは「勘」や「感」が大事だということ。それなのに、現場とどうしてこれほどの乖離が生まれてしまうのか。創造や想像、勘や感とは、理論や理屈、売り上げや利益に比べ、分かりづらい物差しなのは確かです。だから、経営トップが理解していても、その本質的な意図や意味は、大組織ほど、実行に移しにくいのかもしれません。

 そこで、「この人の『勘』や『感』に対する見方を知りたい!」と思った方にお会いして、根掘り葉掘り聞いてみることにしました。そこには、これからの仕事に求められる、新しい物差しがあるに違いないと思ったからです。それも、難しい書き言葉ではなく、分かりやすい話し言葉で。読者の皆さんにとって、未来に向けたヒントがどこかにあればうれしいです。

ポーラ・オルビスホールディングスの鈴木郷史(さとし)社長は1954年静岡県生まれ。1979年早稲田大学大学院理工学研究科修了。本田技術研究所を経て、1986年ポーラ化粧品本舗(現ポーラ)入社。2000年に同社社長、2006年からポーラ・オルビスHD社長
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「ビジネスマン能力」より「人間力」が大事

ifs未来研究所所長 川島蓉子氏(以下、川島): この連載は、ビジネスに勘や感性は必要か、必要だとすればどんなふうに大事か、という疑問から始めたものです。

ポーラ・オルビスホールディングス 鈴木郷史社長(以下、鈴木): ちょうど最近まとめた資料で、こんなものがあるんです(資料を提示)。「人間力」と「ビジネスマン能力」を天秤にかけた図ですが、どちらがより大事かという意味では「人間力」ととらえています。この図にあるように、“組織運営力”や“分析力”、“マーケティング”といったMBAのカリキュラムみたいな「ビジネスマン能力」より、“直感”や“好奇心”、“想像力”、“自己の目による意味・価値判断”といった「人間力」だと思っているのです。

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川島: なるほど。だから「人間力」のほうが重くなるように描かれているのですね。ただ「人間力」と言われても、ちょっと難しい感じがします。

鈴木: こちらの図を見ていただけますか? ビジネスマンとして見ている真実というのは、ごくわずかな領域でしかなくて、個人として見ている真実のほうが、実はずっと視野が広いのです。

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川島: 図で「社会・集団・世間の目」や「経験、思い込み、メンツ、自尊心」といった説明が付されている「真実その1」がビジネスマンの視野で、「人それぞれの目」や「自ずから、我にかえる」といった説明が付されている「真実その2」が個人の視野ということですね。でも、どうしてビジネスマンの視野は狭くなってしまうんですか?

鈴木: 世間の目とか、会社の中における自分の役職とか、上司の考えていることと自分の意見が違うのではないかとか(笑)、もろもろにとらわれてしまって、視野が狭くなるのではないでしょうか。でもそれって、本来のビジネスの対象であるお客様にとっては、まったく関係のない話。

 視野はできるだけ広げておく必要があるのです。そうすれば、皆と同じでない「人それぞれの目」は、自ずと生まれてくるはず。人はそもそも、人と違うことを考え、人と違うことをやりたいという習性を持っていると私は考えています。

川島: 確かに、いろいろな鎧を脱ぎ捨ててみれば、新しいことや違うことの方が、面白そうって気持ちは誰もが持っているもの。だからこそ、人は話題のお店に行ったり、行列しても体験したくなるわけです。

鈴木: うちの会社には4000人くらい社員がいるのですが、4000通りの見方、4000通りの考え方、4000通りの行動がなければ、4000人いる意味がないと思っているんです。そしてそれは、個人のとしての「人間力」が問われてくることだと。

川島: やっぱり鈴木さん、厳しいなぁ(笑)。

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